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白き魔女と金色の王
第8話
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チヤとウォンイは初めて会った小屋に来ていた。ここに里からの迎えが来ることになっているのだ。護衛として同行しているカダは部屋の隅で待機している。
白の里の人と会うというのでウォンイはやや緊張している。クロのことを思い出してるのであろう。
「チヤ!久しぶりだね!元気にしてたかい?」
やってきたのはイザナの双子の兄弟、イソラだった。
「イソラ!うん。今日は迎えに来てくれてありがとう」
「可愛いチヤのためならどこへだって行くさ。こちらが噂のウォンイ殿かい?」
感情の表現に乏しいイザナとは正反対に、イイソラは常に笑顔を絶やさない。
明るい人柄に緊張がとけたウォンイが手を差し出して挨拶する。
「ウォンイだ。この度は里へ入ることを許可してもらい感謝している」
「イソラだ。糸のことは重要事項だからね。構わないさ。そちらにいるのは護衛の人かな?」
ウォンイと握手しながらイソラは慌ただしくカダにも声をかける。
「カダと申します。よろしくお願いいたします」
礼儀正しくお辞儀するカダに、「そんなに気を使わなくていいよ~」とイソラは気楽な感じで返事をした。
「さて、長も君たちの話を聞くのを待ってる。さっそく行こうか」
言うが早いか、イソラはさっさと小屋を出ていく。意外とせっかちなのかな?とウォンイもチヤとカダと共に後に続いた。
里への道中には高い崖を越えないといけない場所がある。
「僕が2人を運ぶから、チヤは後ろからついておいで」
イソラの体から複数の糸が現れる。
糸の見えるカダは驚きの声を上げた。
「あ、そっか。糸が見える人がいるって言ってたっけ。今から君たちを糸で持ち上げて運ぶけど、怖がらなくていいからね」
糸が自分に巻き付いていく様に、カダが体をかたくする。
「じゃあ持ち上げるよ~」
いきなり体が浮き上がったことに、ウォンイが「うわっ」と声をあげる。あっという間に崖の上まで運ばれ、糸が解かれた。
カダと2人で不思議な顔をしていると、すぐ後からイソラとチヤもやってきた。
「どうした?変な顔をして」
崖の上に上がってきたチヤは、膨れっ面になっている。
「………別に」
明らかに不機嫌な顔をしてるのに、チヤは黙ってしまった。
その顔を見てイソラはふふふと笑ってしまう。
「イソラ殿?どうかされましたか?」
カダの問いに「ちょっと13年前を思い出してね」とイソラは嬉しそうだ。
里ではシロが「なんかどこかで誰かに笑われてる気がする」と言っていた。
そのまま何も問題なく、里の入り口についた。
入り口ではトアとセンが到着を今か今かと待っていた。
「チヤ!おかえり~!」
「なんか逞しくなったね~」
2人はチヤを見るなり抱きついてきた。再会を喜んでいる。
「ただいま!2人もなんか大人っぽくなったね~」
そうか~?と笑いあう3人をウォンイは複雑な顔でみている。
「あの2人はチヤと兄弟のように育ったんだ。里を出るまでは一緒に暮らしてたんだよ。………妬ける?」
ニヤニヤするイソラに心の中を見透かされてウォンイは咳払いする。
「ウォンイ!トアとセンに紹介するから、こっち来て~」
ウォンイの気持ちなどつゆ知らず、チヤは笑顔で手を振っている。
長の部屋に行くと、長の左右にはシロとクロが控えていた。クロの凍てつくような視線にウォンイは寒気がする。
『あ。これは全てバレてる』
ウォンイは後でクロにどんな目に遭わされるか震えながら、長との話し合いに望んだ。
「はるばるお越しくださりありがとうございます。私が長のナギです」
「ウォンイだ。これは護衛のカダ。こちらこそ、里への招待感謝する」
お互いの挨拶が終わると、長が糸を出して2人に触れようとする。それを見てカダが身構えた。
「本当に糸が見えているのですね。怖がらせてしまってごめんなさい」
カダの反応を確認すると、長はすぐに糸を消した。
「今回はそのことで話をしにきた。今までに糸が見えるという者に会ったことはないのだな?」
「はい。里の者からそのような話は聞いたことはありません」
「そちらのシロ殿が戦場で糸を出しているのを目撃した者はいるようだが?」
急に自分に話が振られてシロは反応が遅れる。
「ん?ああ。それね~。確かに傭兵団にいた頃に糸を出して戦うことはあったけど、誰かに見られてたとは気づかなかったよ~」
緊張感のかけらもないシロにウォンイは拍子抜けする。
「なんにせよ糸が見える者がいるのだから、里の外では糸を出さないようにしたほうがいいでしょうね」
頼りないシロを見かねてクロが助け舟を出す。
「そうですね。すぐに里の者に周知しましょう」
長の言葉でひとまずの対策は決まり、ウォンイが糸の見える者についてどう調べていくかを相談しようとした時。長から思いがけない話が出た。
「実は数日前。里の者がある噂を聞いて帰ってきたのです。手脚を切られても再生する青い髪の青年がいると」
ウォンイ達は驚きの声をあげる。シロとクロはすでに話を聞いていたようで、驚いた様子はない。
「それは……」
「知っての通り白の人は手脚が再生します。しかし、全員白髪に赤い眼をしている。その青い髪の青年は不思議な力で物を浮き上がらせるという噂もあります。果たして彼は何者なのか」
ウォンイは自分がなぜ里に招かれたのか理解した。
「なるほど。その青年について我々に調べてほしいということだな」
理解の早いウォンイに、長は笑顔になる。
「はい。青年の目撃情報はウォンイ殿の国の領内で発生しています。詳しくはイザナが説明しますので」
長の強かさに感心しながら、青年のことはウォンイも気になるので依頼を受けることにした。
今夜は里でゆっくり過ごしてくださいねと言う長に見送られ、3人は部屋を後にする。
続いてシロとクロも部屋を出てきたことで、ウォンイは覚悟を決めた。
イザナから話を聞くためにウォンイ達はシロとクロの家に集まっていた。メンバーはウォンイ、チヤ、カダ、クロ、シロ、イソラ、イザナ。
混乱を避けるために、この7人以外には青い髪の青年のことは伏せられることになった。
「これが青年の目撃情報のあった場所。南の方に多いね」
「ひとまず私が今から現地へ向かいます。ウォンイ様とチヤ様は里に滞在後、いったん城へお戻りください」
「そうだな。あまり城を空けるわけにもいかない。お前に任すぞ」
「はっ」
そうと決まればと、カダは足早に家を出ていく。途中まで案内するためにイザナがついて行った。
すると、ウォンイとカダのやりとりの間ずっと何かを考えていたクロが口を開いた。
「なあ、シロ。俺も……」
「ダメだよ。クロ。約束忘れたの?」
「………わかってるよ」
クロが悔しそうに口を閉ざす。
物凄い圧力で迫ってくる姿しか見たことのなかったウォンイは、おや?と奇妙なものを見た気持ちになった。
「じゃあ、僕は帰るね。あとは4人で話し合いなよ。積もる話もあるだろうからね」
イソラが含みを持たせた言い方をして去っていく。
残されたメンバーを見て、ウォンイは気まずそうに声をかけた。
「あの、クロ殿……」
「チヤ、城での生活はどうなんだ?」
ウォンイを無視してクロはチヤに話しかける。
「どうって。楽しいよ。侍女のシュリはカッコよくて優しいし、王妃のリョクヒ様は明るくて楽しくて素敵な方だし。カダもジンイ様も良くしてくれる。ウォンイの視察について色んな村に行くのもすごく楽しい」
チヤのキラキラ輝く瞳を見て、クロは「そうか」と穏やかに微笑む。
怒った顔しか見たことのなかったウォンイは、ああ、この人は本当に美しい人なんだなと改めて感じた。
「お前が自分で決めた道だ。何があっても胸を張って歩いていきなさい。お前なら大丈夫だと信じてるよ」
「うん!」と返事をするチヤはとにかく嬉しそうだ。ウォンイもクロに認められたと思って喜びを伝えようとした……のだが………
「しかし!」
クロがいつもの鬼のような形相でウォンイを睨む。
「手は出すなと言ったはずだが……なあ、ウォンイよ」
王弟を呼び捨てにする不遜な態度に、本来なら怒りをあらわすはずのウォンイは………
恐怖で縮こまっていた。
「ははははい」
「はい、じゃねぇよ。うちの可愛いチヤに許可もなく手ェ出すたあ、どういう了見だ?ああ?」
「すすすすみません」
もはやヤクザである。
ただただ震えるウォンイを見てるのが堪らなくなって、チヤが助け舟を出す。
「クロ。僕がしたいって言ったんだよ。ウォンイは手を出さないようにしてくれてたんだよ」
「チヤは黙ってなさい。お前はまだ子供なんだぞ。それを止める者がいないからと好き勝手して……」
「でもクロも初めてしたのは18だったじゃない」
何を思ったのか、シロが会話に割って入ってきた。
「な⁉︎シロ⁉︎」
「あ~でも、最初はすっごい体ツラそうだったもんな。なかなか慣れなかったし。だからチヤのことが心配なんだね。でも大丈夫でしょ。だって今は自分から……」
「わー!わー!」
クロが慌ててシロの口を塞ぐ。
残りの2人は唖然している。
「とにかく!チヤは体も小さいんだから無理させんなよ!チヤも嫌だったら言うんだぞ!」
まだ何か言おうとモガモガしているシロを引きずって、クロが家から出ていく。
残されたチヤ達はポカーンと口を開けたまま2人を見送った。
チヤ達はその日は、シロ達の家で夕食を食べることになった。トアとセンも呼ばれ、みんなで料理したりして楽しそうに過ごすチヤの姿に、ウォンイは連れてきて良かったと感じる。
チヤとウォンイには今夜泊まる家を用意されてると、シロがウォンイをそこまで案内することになった。
歩きながらシロはヘラっと笑ってクロの態度を詫びる。
「なんか、クロがごめんね~。なかなか子離れできなくってさ」
「チヤのことを大切に思っている証拠だろう。彼が素直で強い性格に育ったのはクロ殿のおかげだ」
「そう言ってもらえると助かるよ。………クロも色々苦労してきたからさ。髪のことで」
ウォンイは豊かな黒髪を思い出す。この世界では黒髪は珍しいもので、それを持つ者は高値で取引される。
「白の人の見た目も物珍しく思う人が多いからね。チヤが外に出ることで自分と同じ苦しみを受けることがないか。心配してるんだよ」
過保護なまでの態度の裏の苦悩を知る。
それはウォンイの心に重い何かを一つ、積み上げた。
「シロ殿はクロ殿の良き理解者なのだな。想い合う関係として羨ましい限りだ」
「シロでいいよ。………それに、俺はそんなに立派な人間じゃない」
いつも飄々としているシロの表情が翳る。
「クロがさ、青年を探しに行きたがった時、俺止めただろ。クロが髪を伸ばす時に約束させたんだ。里の外には絶対出ないって」
「それは……」
「髪はただの口実だったんだけどね。年に数回、もう一つの白の人の里と実家に行く時だけは外に出るけど、俺が必ず付き添う。それ以外は一切外に出してない。だから初めてウォンイに会った時は、クロにとって13年振りの外出だったんだ。それも直前までだいぶもめたけどね」
ヘラっと笑う顔はさっきと違って悲しみが滲んでいる。
「どんどん綺麗になるクロを外に出すことが怖くなって、俺は里に閉じ込めた。あいつを守ると言う理由を盾にして。あいつは本当は自由なのに」
シロの本心はもっとクロを自由にしてやりたいのだろう。だが、そうするには世界はあまりに残酷だ。
「だからチヤには自由を与えてよ。王様の弟ならそれくらいできるでしょ」
なぜシロがこんな話をしたのか。チヤには夢が託されているのだろう。シロとクロでは叶えられなかった夢が。
「ああ。絶対チヤを苦しめるようなことはしない。約束する。それに……」
ウォンイはシロをまっすぐに見る。
話をしてくれたことに応えるように。
「いつかクロ殿が安心して外に出られるようにする。1人でもチヤに会いに来れるように。それが王族としての俺の役目だ」
シロの目が輝く。諦めていた外への渇望に、光が見えた気がした。
「………それはぜひ頑張ってほしいね」
泣きそうな顔でシロは笑った。
チヤはクロと薪を取りに行きながら、ニヤニヤしていた。
「どうした?変な顔して」
「いや。シロとクロが仲良くてよかったなぁって」
先ほどの会話を言っているのだろう。クロが真っ赤になって慌てる。
「いや!あれは!その!」
「ねえねえ。初めての時はどんなだったの~?聞きたいなぁ?」
グイグイくるチヤに、クロはタジタジだ。
「な!そんなこと話すわけないだろ!チヤ!どうしたんだ!そんなこと聞いてくる子じゃなかっただろ!」
「え~。でも気になるし~。ねえねえ。教えてよ~」
あたふたするクロが面白くてチヤはからかい続ける。
『なんだか、今ならリョクヒ様達の気持ちがわかるなぁ』
大好きな憧れの人とこんな風に話せる日が来たことに、チヤは幸せを感じていた。
白の里の人と会うというのでウォンイはやや緊張している。クロのことを思い出してるのであろう。
「チヤ!久しぶりだね!元気にしてたかい?」
やってきたのはイザナの双子の兄弟、イソラだった。
「イソラ!うん。今日は迎えに来てくれてありがとう」
「可愛いチヤのためならどこへだって行くさ。こちらが噂のウォンイ殿かい?」
感情の表現に乏しいイザナとは正反対に、イイソラは常に笑顔を絶やさない。
明るい人柄に緊張がとけたウォンイが手を差し出して挨拶する。
「ウォンイだ。この度は里へ入ることを許可してもらい感謝している」
「イソラだ。糸のことは重要事項だからね。構わないさ。そちらにいるのは護衛の人かな?」
ウォンイと握手しながらイソラは慌ただしくカダにも声をかける。
「カダと申します。よろしくお願いいたします」
礼儀正しくお辞儀するカダに、「そんなに気を使わなくていいよ~」とイソラは気楽な感じで返事をした。
「さて、長も君たちの話を聞くのを待ってる。さっそく行こうか」
言うが早いか、イソラはさっさと小屋を出ていく。意外とせっかちなのかな?とウォンイもチヤとカダと共に後に続いた。
里への道中には高い崖を越えないといけない場所がある。
「僕が2人を運ぶから、チヤは後ろからついておいで」
イソラの体から複数の糸が現れる。
糸の見えるカダは驚きの声を上げた。
「あ、そっか。糸が見える人がいるって言ってたっけ。今から君たちを糸で持ち上げて運ぶけど、怖がらなくていいからね」
糸が自分に巻き付いていく様に、カダが体をかたくする。
「じゃあ持ち上げるよ~」
いきなり体が浮き上がったことに、ウォンイが「うわっ」と声をあげる。あっという間に崖の上まで運ばれ、糸が解かれた。
カダと2人で不思議な顔をしていると、すぐ後からイソラとチヤもやってきた。
「どうした?変な顔をして」
崖の上に上がってきたチヤは、膨れっ面になっている。
「………別に」
明らかに不機嫌な顔をしてるのに、チヤは黙ってしまった。
その顔を見てイソラはふふふと笑ってしまう。
「イソラ殿?どうかされましたか?」
カダの問いに「ちょっと13年前を思い出してね」とイソラは嬉しそうだ。
里ではシロが「なんかどこかで誰かに笑われてる気がする」と言っていた。
そのまま何も問題なく、里の入り口についた。
入り口ではトアとセンが到着を今か今かと待っていた。
「チヤ!おかえり~!」
「なんか逞しくなったね~」
2人はチヤを見るなり抱きついてきた。再会を喜んでいる。
「ただいま!2人もなんか大人っぽくなったね~」
そうか~?と笑いあう3人をウォンイは複雑な顔でみている。
「あの2人はチヤと兄弟のように育ったんだ。里を出るまでは一緒に暮らしてたんだよ。………妬ける?」
ニヤニヤするイソラに心の中を見透かされてウォンイは咳払いする。
「ウォンイ!トアとセンに紹介するから、こっち来て~」
ウォンイの気持ちなどつゆ知らず、チヤは笑顔で手を振っている。
長の部屋に行くと、長の左右にはシロとクロが控えていた。クロの凍てつくような視線にウォンイは寒気がする。
『あ。これは全てバレてる』
ウォンイは後でクロにどんな目に遭わされるか震えながら、長との話し合いに望んだ。
「はるばるお越しくださりありがとうございます。私が長のナギです」
「ウォンイだ。これは護衛のカダ。こちらこそ、里への招待感謝する」
お互いの挨拶が終わると、長が糸を出して2人に触れようとする。それを見てカダが身構えた。
「本当に糸が見えているのですね。怖がらせてしまってごめんなさい」
カダの反応を確認すると、長はすぐに糸を消した。
「今回はそのことで話をしにきた。今までに糸が見えるという者に会ったことはないのだな?」
「はい。里の者からそのような話は聞いたことはありません」
「そちらのシロ殿が戦場で糸を出しているのを目撃した者はいるようだが?」
急に自分に話が振られてシロは反応が遅れる。
「ん?ああ。それね~。確かに傭兵団にいた頃に糸を出して戦うことはあったけど、誰かに見られてたとは気づかなかったよ~」
緊張感のかけらもないシロにウォンイは拍子抜けする。
「なんにせよ糸が見える者がいるのだから、里の外では糸を出さないようにしたほうがいいでしょうね」
頼りないシロを見かねてクロが助け舟を出す。
「そうですね。すぐに里の者に周知しましょう」
長の言葉でひとまずの対策は決まり、ウォンイが糸の見える者についてどう調べていくかを相談しようとした時。長から思いがけない話が出た。
「実は数日前。里の者がある噂を聞いて帰ってきたのです。手脚を切られても再生する青い髪の青年がいると」
ウォンイ達は驚きの声をあげる。シロとクロはすでに話を聞いていたようで、驚いた様子はない。
「それは……」
「知っての通り白の人は手脚が再生します。しかし、全員白髪に赤い眼をしている。その青い髪の青年は不思議な力で物を浮き上がらせるという噂もあります。果たして彼は何者なのか」
ウォンイは自分がなぜ里に招かれたのか理解した。
「なるほど。その青年について我々に調べてほしいということだな」
理解の早いウォンイに、長は笑顔になる。
「はい。青年の目撃情報はウォンイ殿の国の領内で発生しています。詳しくはイザナが説明しますので」
長の強かさに感心しながら、青年のことはウォンイも気になるので依頼を受けることにした。
今夜は里でゆっくり過ごしてくださいねと言う長に見送られ、3人は部屋を後にする。
続いてシロとクロも部屋を出てきたことで、ウォンイは覚悟を決めた。
イザナから話を聞くためにウォンイ達はシロとクロの家に集まっていた。メンバーはウォンイ、チヤ、カダ、クロ、シロ、イソラ、イザナ。
混乱を避けるために、この7人以外には青い髪の青年のことは伏せられることになった。
「これが青年の目撃情報のあった場所。南の方に多いね」
「ひとまず私が今から現地へ向かいます。ウォンイ様とチヤ様は里に滞在後、いったん城へお戻りください」
「そうだな。あまり城を空けるわけにもいかない。お前に任すぞ」
「はっ」
そうと決まればと、カダは足早に家を出ていく。途中まで案内するためにイザナがついて行った。
すると、ウォンイとカダのやりとりの間ずっと何かを考えていたクロが口を開いた。
「なあ、シロ。俺も……」
「ダメだよ。クロ。約束忘れたの?」
「………わかってるよ」
クロが悔しそうに口を閉ざす。
物凄い圧力で迫ってくる姿しか見たことのなかったウォンイは、おや?と奇妙なものを見た気持ちになった。
「じゃあ、僕は帰るね。あとは4人で話し合いなよ。積もる話もあるだろうからね」
イソラが含みを持たせた言い方をして去っていく。
残されたメンバーを見て、ウォンイは気まずそうに声をかけた。
「あの、クロ殿……」
「チヤ、城での生活はどうなんだ?」
ウォンイを無視してクロはチヤに話しかける。
「どうって。楽しいよ。侍女のシュリはカッコよくて優しいし、王妃のリョクヒ様は明るくて楽しくて素敵な方だし。カダもジンイ様も良くしてくれる。ウォンイの視察について色んな村に行くのもすごく楽しい」
チヤのキラキラ輝く瞳を見て、クロは「そうか」と穏やかに微笑む。
怒った顔しか見たことのなかったウォンイは、ああ、この人は本当に美しい人なんだなと改めて感じた。
「お前が自分で決めた道だ。何があっても胸を張って歩いていきなさい。お前なら大丈夫だと信じてるよ」
「うん!」と返事をするチヤはとにかく嬉しそうだ。ウォンイもクロに認められたと思って喜びを伝えようとした……のだが………
「しかし!」
クロがいつもの鬼のような形相でウォンイを睨む。
「手は出すなと言ったはずだが……なあ、ウォンイよ」
王弟を呼び捨てにする不遜な態度に、本来なら怒りをあらわすはずのウォンイは………
恐怖で縮こまっていた。
「ははははい」
「はい、じゃねぇよ。うちの可愛いチヤに許可もなく手ェ出すたあ、どういう了見だ?ああ?」
「すすすすみません」
もはやヤクザである。
ただただ震えるウォンイを見てるのが堪らなくなって、チヤが助け舟を出す。
「クロ。僕がしたいって言ったんだよ。ウォンイは手を出さないようにしてくれてたんだよ」
「チヤは黙ってなさい。お前はまだ子供なんだぞ。それを止める者がいないからと好き勝手して……」
「でもクロも初めてしたのは18だったじゃない」
何を思ったのか、シロが会話に割って入ってきた。
「な⁉︎シロ⁉︎」
「あ~でも、最初はすっごい体ツラそうだったもんな。なかなか慣れなかったし。だからチヤのことが心配なんだね。でも大丈夫でしょ。だって今は自分から……」
「わー!わー!」
クロが慌ててシロの口を塞ぐ。
残りの2人は唖然している。
「とにかく!チヤは体も小さいんだから無理させんなよ!チヤも嫌だったら言うんだぞ!」
まだ何か言おうとモガモガしているシロを引きずって、クロが家から出ていく。
残されたチヤ達はポカーンと口を開けたまま2人を見送った。
チヤ達はその日は、シロ達の家で夕食を食べることになった。トアとセンも呼ばれ、みんなで料理したりして楽しそうに過ごすチヤの姿に、ウォンイは連れてきて良かったと感じる。
チヤとウォンイには今夜泊まる家を用意されてると、シロがウォンイをそこまで案内することになった。
歩きながらシロはヘラっと笑ってクロの態度を詫びる。
「なんか、クロがごめんね~。なかなか子離れできなくってさ」
「チヤのことを大切に思っている証拠だろう。彼が素直で強い性格に育ったのはクロ殿のおかげだ」
「そう言ってもらえると助かるよ。………クロも色々苦労してきたからさ。髪のことで」
ウォンイは豊かな黒髪を思い出す。この世界では黒髪は珍しいもので、それを持つ者は高値で取引される。
「白の人の見た目も物珍しく思う人が多いからね。チヤが外に出ることで自分と同じ苦しみを受けることがないか。心配してるんだよ」
過保護なまでの態度の裏の苦悩を知る。
それはウォンイの心に重い何かを一つ、積み上げた。
「シロ殿はクロ殿の良き理解者なのだな。想い合う関係として羨ましい限りだ」
「シロでいいよ。………それに、俺はそんなに立派な人間じゃない」
いつも飄々としているシロの表情が翳る。
「クロがさ、青年を探しに行きたがった時、俺止めただろ。クロが髪を伸ばす時に約束させたんだ。里の外には絶対出ないって」
「それは……」
「髪はただの口実だったんだけどね。年に数回、もう一つの白の人の里と実家に行く時だけは外に出るけど、俺が必ず付き添う。それ以外は一切外に出してない。だから初めてウォンイに会った時は、クロにとって13年振りの外出だったんだ。それも直前までだいぶもめたけどね」
ヘラっと笑う顔はさっきと違って悲しみが滲んでいる。
「どんどん綺麗になるクロを外に出すことが怖くなって、俺は里に閉じ込めた。あいつを守ると言う理由を盾にして。あいつは本当は自由なのに」
シロの本心はもっとクロを自由にしてやりたいのだろう。だが、そうするには世界はあまりに残酷だ。
「だからチヤには自由を与えてよ。王様の弟ならそれくらいできるでしょ」
なぜシロがこんな話をしたのか。チヤには夢が託されているのだろう。シロとクロでは叶えられなかった夢が。
「ああ。絶対チヤを苦しめるようなことはしない。約束する。それに……」
ウォンイはシロをまっすぐに見る。
話をしてくれたことに応えるように。
「いつかクロ殿が安心して外に出られるようにする。1人でもチヤに会いに来れるように。それが王族としての俺の役目だ」
シロの目が輝く。諦めていた外への渇望に、光が見えた気がした。
「………それはぜひ頑張ってほしいね」
泣きそうな顔でシロは笑った。
チヤはクロと薪を取りに行きながら、ニヤニヤしていた。
「どうした?変な顔して」
「いや。シロとクロが仲良くてよかったなぁって」
先ほどの会話を言っているのだろう。クロが真っ赤になって慌てる。
「いや!あれは!その!」
「ねえねえ。初めての時はどんなだったの~?聞きたいなぁ?」
グイグイくるチヤに、クロはタジタジだ。
「な!そんなこと話すわけないだろ!チヤ!どうしたんだ!そんなこと聞いてくる子じゃなかっただろ!」
「え~。でも気になるし~。ねえねえ。教えてよ~」
あたふたするクロが面白くてチヤはからかい続ける。
『なんだか、今ならリョクヒ様達の気持ちがわかるなぁ』
大好きな憧れの人とこんな風に話せる日が来たことに、チヤは幸せを感じていた。
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アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
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