10

ヒツジ

文字の大きさ
上 下
10 / 43

共犯

しおりを挟む
子供達を攫っていたのは教会の過激派の人間達だったらしい。
過激派というのは、教会がもつ技術の軍事転用を進めて教会による独裁を目指すヤツららしい。そいつらが作った武器の実験をするために子供達を使っていた、というのが今回の事件の真相らしい。

「教会側からしても過激派はやっかいな存在だからね。始末しようと動く前にせめて子供達だけでも逃がそうと仲間が向かったんだけど、子供達はみんな実験で亡くなっててね………」
「そうか………」
「そのあとは教会の人間がきたから過激派のことは教会に任せて、避難してる子供達の保護を優先してもらった。避難先の近くに潜んでた俺に合流してもらってね」
「そう………ん?避難先の近くに潜んでた?」
「うん」

ちょっと待て!
『敵のトコに乗り込む』『ここは頼んだ』って言ったよな!

「全部ウソだったのか!」
「いや~。避難場所一ヶ所にかたまるより、伏兵もいたほうがいいかなって」
「にしたって、言ってくれてもいいだろ!」
「まあまあ。お前と子供達だけだったから、ゆっくり話せて子供達も安心できたんだろ。お手柄じゃないか」
「それは…そうだけど」

確かにトーカがいたら甘えてしまってたかもしれない。あいつらは俺が守るんだという気持ちがあったから頑張れたのかも。

「にしたって、敵が来た時にすぐ来なかったのは何でだよ」
「それはヒスイがどれくらい強くなったか見ようかと思ってね~。頑張ってたじゃないか」
「どんなスパルタだよ。………アイツは何なんだ」

侵入してきた男を思い出す。人を殺すことに何の戸惑いもない、恐ろしい目をしていた。

「アイツはハイルって言って、教会の汚れ仕事担当。造反者やら教会に害を為す人間をバッサバッサ殺しまわってる怖いヤツだよ。しかもなかなかに強い。お前、よく戦ったね」
「そんなヤツが来たのに様子見してたのかよ。あれ?でもそいつとちょっとでもやりあえたってことは、俺も少しは強くなってる?」
「いや、閃光弾で目が眩んでたからだと思うよ。でなきゃ君なんて一瞬でやられてたさ」
「……厳しい現実をありがとう。あれは閃光弾って言うのか」
「そ。アジトにある玉の改良版。あそこに入ってるエネルギーを道具に入れ替えることで、色々なことができるんだよ。その道具を作る技術に優れてるのが教会なのさ」
「だから軍事転用ってことか」

大体の事件の真相はわかった。
ただ、もう一つ。どうしても聞かないといけないことが残っている。

「トーカはナズの兄貴なのか?」
「いえ、違います」
「……違う…」

物凄い真顔で返された。

「でもアイツがヤドの兄って!」
「ヤドの兄ってのは本当だよ。先代のだけどね」
「先代?」

そういえば、ヤドは10年ごとに交代するって言ってたっけ。

「そっ。だから俺はナズ君の1つ前のヤドの兄ってこと」
「ヤドに兄弟がいるのか?」
「いるよ~。ヤドも人の子だもん。まあ産まれてすぐヤドに選ばれて家族と引き離されるから、ほぼ会ったことはないけどね」
「ヤドってどうやって選ばれるんだ?」
「教会にヤドを輩出する一族があってね。そこに子供が産まれると例外なく適性があるか調べられるんだよ」
「ふ~ん……ん?てことは、トーカもその一族なのか?教会の人間なのか?」
「そうだよ。10年前に家出しちゃったけど」
「なんで!」
「え~。そこは、まあ今度でいいじゃない。なんでハイルがあっさり手を引いたかのほうが気になるでしょ」

いや、お前の経緯のほうが気になるんだけど。
でもこうなったらトーカは意地でも話してくれないしな。

「ヤドの家族ってね。すっごい手厚く教会に保護されるの。何でだと思う?」
「え?ヤドをこの世に生み出したからとか?」
「正解はヤドの機嫌を損ねないため。ヤドは10年間の役目に入ると世界を自分の好きにできる力を持つわけでしょ。まあその状態のヤドに自我があるのかもよくわからないんだけど、無いとも言い切れない。だから家族や大切な人間に何かあれば世界をコントロールするのをやめて滅亡に導くかもしれない」
「だからヤドの大切な人間は保護者しないといけないってことか」
「そ。産まれてすぐ引き離されるから情なんてあるかもわかんないのにさ。教会ってのは臆病なんだよね。自分達の手に負えないものを無理矢理使ってるからだね」
「前に教会はお前に手を出せないって言ってたのはそのためか。そしてナズに代替わりしたから、お前はもう用無しと」
「だからお前が代わりにならないかと思ったんだよね。実際ナズの名前を知ってたことでハイルは手を引いたし」
「うわ~。俺、めちゃくちゃ利用されてんな」

物凄く嫌そうな顔をしてるのが自分でもわかる。
まさかあの車でのことがそこまで影響力を持つとは。

「これからも利用させてもらうよ~。俺の仕事を手伝うって覚悟を決めてくれたんだからね。じゃんじゃん教会への脅しに使わせてもらいます!」
「下心を全く隠す気がなくていっそ清々しいな。まあ乗りかかった船だ。何とでもしてくれ」
「頼もしいねぇ!さすが俺の相棒!」
「お前のふてぶてしさには負けるよ。相棒」

顔を見合わせて笑いあう。
トーカのことは謎も多いし信用もできない。
でも相棒って言葉がしっくりくるくらいには、お互い認め合えるようになったと感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

シシルナ島物語 隻眼の牙狼族の少年 ノルドの成長譚

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

勇者の後物語

波動砲
ファンタジー
表面上とはいえこの世界は平和になった。至って平穏無事で退屈な日常を人々は送れるようになった。そんな平和が来たゆえに、一つの疑問が持ち上がってしまった。 今の世界に『勇者』は必要か否か 勇者とは 曰く。魔王を打ち倒す者 曰く。人類の希望 曰く。救世主 曰く。曰く。曰く しかし、悲しいかな。魔王が死に世界が平和になって数十年。勇者に対する敬意も感謝の気持ちも人々にはなくなり始めていた。平和な世界に勇者はもはや不必要な存在となっていた。この世界に魔王はいない。故にこの世界に絶望はなく。だから希望も必要なく。救世主も必要とされないのだ そして勇者は一通の書き置きと共に忽然と姿を消した 『旅に出ます。探さないでください by勇者』 これは役目を終えた勇者のお話。 ※この作品は筆者が学生の頃に書いた作品です。折角なので投稿しました

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...