10 -第三部-

ヒツジ

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混線

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帰りの車でずっと黙って震えていたヒスイに、レインはどうすることもできなかった。
隠れ家につくとトーカはヒスイを部屋に連れていく。ベッドに寝かせ「ひとまず寝なさい」と額を撫でると、緊張が限界をむかえたのかゆっくりと瞼を閉じた。

「レイン。ごめんね、待たせて」

リビングで待たせていたレインに、戻ってきたトーカが声をかける。

「僕は大丈夫。ヒスイは?」
「寝たよ。疲れていたんだね」

トーカは横に座り、レインの頭を撫でる。

「怖い目にあったね」
「ううん。トーカとヒスイが守ってくれたから。でもヒスイのことは心配」

レインが悲しそうにブレスレットをぎゅっと握る。

「ありがとう。ヒスイの背負っているものはとても重いからね。みんなで支えてあげないと潰れてしまうくらい」
「僕も支えられる?」

純粋な瞳がトーカを見る。何よりも力を持ったその瞳に、トーカは優しく頷いた。

「ああ。誰よりもね」



ヒスイが目を覚さない。
あのあと帰ってきたクキにも事情を説明し、その日はそのままそっとしておこうとなった。だが、次の日になってもいっこうに目を覚さないのだ。
レインはできる限りヒスイの横で起きるのを待っている。気づけば夕方になっていた。

「レインくん。少し休憩しようか。お茶でも飲もう」

クキに呼ばれてリビングに戻ると、トーカが誰かと通信機で話していた。

「それは本当なのか?そうか。わかった」

通信機を切るとヒスイの部屋へ向かう。
しばらくするとガタッと音がしたので何事かとクキとレインが見に行くと、トーカがヒスイのベッドの横で固まっていた。
部屋を覗き込む2人の目に、ヒスイがベッドの上で起き上がってるのが見えた。

「ヒスイ!起きたんだ!」

レインが駆け寄ると、ヒスイがこっちを向いた。人形のように感情のない目で一言話す。

「俺で最後にして」



一言発したかと思ったら、ヒスイはまたベッドに倒れ込みそのまま瞼を閉じた。
クキが慌てて近寄り息を確認する。

「良かった。寝てるだけだよ」

ホッとしてレインの肩をポンポンと叩く。
そしてトーカのほうを向いて問いただした。

「トーカ。今のは何。トーカにはわかってるんでしょ」

ずっと動かなかったトーカは、戸惑いながら一言一言話し出した。

「………わからない。……でも……たぶん……今の言葉はナズの言葉だ」
「ナズ?ヤドの言葉ってこと?なんでヒスイくんがヤドの言葉なんて」
「………まさか」

トーカはそれきり黙ってしまう。
全員が訳のわからない状態で混乱する中、レインはただ心配そうにヒスイの横顔を見つめていた。



「さっきの連絡はアサギからだったんだ」

ヒスイから離れるわけにもいかず、3人はそのまま部屋に残っていた。

「ヤドを解放できるかもしれないという話だった」

アサギは4年前に教会でヤドのことを知り、以降組織と協力してヤドを解放する方法を研究している。

「それは嬉しいことだけど、ヒスイくんのことと何か関係あるの?」

クキはレインを撫でながらトーカに聞いた。

「俺で最後にして。これは、ヤドの役目を担うのは自分で最後にしてほしいっていう、ナズの訴えなんじゃないかと思うんだ」
「………だから、なんでヒスイくんがヤドの言葉を口にするのさ」

内容の見えてこない話にクキがイライラしだす。

「それは……ヒスイはナズと繋がっているのかもしれない」
「繋がってる?」
「ヤド同士は、力の継承をするために感覚を繋ぐんだ。それができることがヤドに選ばれる条件なんだが。今、それと同じことがナズとヒスイの間に起きてるのかもしれない」

クキは今度は理解できないという顔をしている。

「でも……ヒスイくんはヤドじゃないでしょ」
「……地下の人間でヤドの素質のある者は、初代を選ぶ時に全て教会に連れて行かれた。でも地上の人間は別だ」

突然地上の話がでてきたことでレインが大きく反応する。それを見てトーカはできるだけ優しくレインに話しかけた。

「ヒスイの母親は、レインと同じように地上から連れてこられた可能性があるんだ。もう少ししたらレインにも話そうと思ってたんだけど。隠しててごめんね」

トーカが優しくレインの頭を撫でる。
全て自分のためを思ってということがわかるので、レインは「気にしないで」と首を振った。

「つまり、地上の人間の血を引くヒスイくんはたまたまヤドの素質があり、たまたまナズくんと出会ったからこんなことになってるってこと?すごい偶然だね」
「ああ。でもそれ以外考えられない。きちんとした感覚の共有でなかったから、中途半端な状態になっているんだろう。ナズの死に俺の時以上の焦りを感じていたのも、昨日の男の発言に怒りを爆発させたのも、どこかでナズの感覚が混ざってしまっているせいかもしれない」

3人はヒスイを見る。
眠る姿は息をしているのがわかっていても死んでいるように見えて、不安が重く部屋に立ち込めていた。
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