10 -第三部-

ヒツジ

文字の大きさ
上 下
9 / 19

驕り

しおりを挟む
外出解禁になってから数日後。
ルリが約束を守ってレインを議事堂に連れてきた。

「立派な建物だね~」

中央に来たのも初めてなレインは、議事堂の建物に感嘆の声をあげていた。

「政治の中心部だからね。さあ、中に入ってみようか」

ルリに連れられ中に入ると、ちょうどフォーラが帰る所だった。

「あら。ルリ殿。今日は可愛い同行者がいらっしゃるのね」
「フォーラ殿。はい。議会を見学したいというので連れてきました」
「それはいいことですわ。ぜひ色々見て学んでいってくださいね」

上品な笑みを浮かべながら会釈するフォーラにつられて、レインもお辞儀する。
そのまま議論真っ只中の部屋に連れて行かれると、熱気に思わずたじろいでしまった。

「だから、まずは貧民街の問題を解決する方が先だろ」
「あと3年。地上の運営はこのままで問題なくいけそうなのか?」
「保護すると考えるからダメなんじゃないか。自立できれば……」

何人もの大人があちこちで真剣に話し合っている。聞こえてくる内容は、理解できたり全く分からなかったり。

「まるで喧嘩してるみたいだろ。でもみんな世界を良くしたい。困ってる人を助けたいと必死なんだよ」
「うん。それは伝わってくる」

迫力に少し怯えながらも、レインは熱心に話を聞こうとしている。ルリが「聞きたいことがあれば言ってごらん」と言うと、話の中で出てきた言葉や内容など次から次へと質問された。真剣に理解しようとする姿に、ルリも真摯に向き合って答えていった。



「今日は俺の地元を紹介するよ~」

また別の日は、ソラがアヤの町へ連れて行ってくれた。

「あれ?ソラ帰ってきてる」
「ついに左遷されたか~?」

町を歩くたびに色々な人に話しかけられる。それに答えていくソラの横で、レインは「アジトみたいだな」と楽しい気持ちになった。

「そして、ここがこの町を守る軍人さん達のお家です」

事務所に着くと隊員総出で出迎えてくれた。あらかじめ連絡をしたらみんな事務所に残ってくれたのだ。

「いらっしゃい。レインくん。12歳ならうちの真ん中の子と同い年だ」
「お菓子あるよ~。飲み物はお茶でいいかしら?」

クレナとヒワの親コンビがちやほやとレインを可愛がっている間に、ソラはリンドとカナリに責められていた。

「あんた。出世して帰ってくるって言って全然じゃない。なにやってんのよ」
「お前が帰ってこないと俺が中央に行けないだろ。さっさと昇進して帰ってこいよ」

自由な隊員達に『ああ。久しぶりだなぁ、この感じ』とソラが浸っていると、トキが「みなさん、ほどほどにね~」とのんびり声をかけた。



「でね。今市民からの意見を集めれるように考えてるんだけど、貧民街をどうするかが問題でね……」
「アヤの工場は色んなもの作っててね!木が綺麗な形になってでてきて………」

連日のおでかけが楽しいらしく、レインはお喋りが止まらない様子だった。ヒスイは楽しそうに話すレインの言葉に丁寧に耳を傾ける。

「明日はトーカに教会のラボに連れてってもらうんだ。アサギさんって人が案内してくれるって」
「明日なら予定ないから、俺も一緒に行こうかな」
「そう言えばそうか。なら一緒に行くか」
「ホントに!やった~!」

喜ぶレインを見ながら、「俺も行きたい!」というクキを「お前は仕事だろ」とトーカが冷たくあしらっていた。



「いらっしゃい!教会のラボへようこそ」

ラボに着くとアサギが入口で待っていた。

「すまないな。アサギも忙しいだろうに」
「構いませんよ。子供達に向けてラボを解放する話も出てるんです。だから今日はお試しですね」

ラボではみんながレインを楽しませようと、研究成果をわかりやすく体験できる形にして待っていた。

「あ、この射的、アヤの祭りでしたけど全然当たらなかったやつだ」
「ふっふっふ。あれから改良して更に跳ねるようになってるよ~」
「ホントか!今度こそ当ててやる!」

いつのまにかヒスイまで一緒になって遊んでいる。「いつまでも子供だね~」とトーカははしゃぐ2人の後ろをついて歩いた。



散々遊んで満足した2人は、「そろそろ帰るよ~」というトーカの言葉でしぶしぶみんなに別れを告げる。

「本当に楽しかった。アサギさん、ありがとう」
「楽しんでくれてみんなも喜んでたよ」

スキップしながらレインが先にラボの出口を出ると………

物陰から出てきた男に後ろから捕らえられ、ナイフを突きつけられた。



「レイン!」
「動くな!」

男はナイフを見せつけるようにヒスイ達を牽制する。

「神聖な教会のラボにこんな子供を連れ込むなんて……」

男は神父の格好をしている。

「くそ!なんなんだ、アイツは」
「多分教会の解放反対派です。最近の教会は市民達との関わりを増やしているので、ああいった輩がでてきているんです」

話しながらアサギが手に何かを用意する。その手をトーカが止めた。

「大丈夫。こういうことは俺達に任せなさい」

ヒスイに目配せする。ヒスイは頷くと大きく跳ねて男に向かった。

「おい!コイツがどうなっても……」

その瞬間、トーカが銃で男のナイフを弾く。
ヒスイは男の顔を思いっきり蹴って、レインをトーカ達の方へ逃した。

「抵抗しなければ危害は加えない。このまま軍が来るまで大人しくしていろ」

レインはトーカ達に保護されて落ち着いてるようだった。ヒスイは男にナイフを突きつけながら、それを確認してホッとした。

「……ヤド様を守る崇高な教会を愚弄しやがって。お前達なんて今にヤド様の罰が降るぞ!」

その言葉にヒスイがピクッと反応した。

「何だと……」
「ヤド様は全てを見ている!世界を守っているんだ!お前達のような世界を乱すヤツらはヤド様の怒りを受ければいいんだ!」

ヒスイの顔が怒りに歪む。恐ろしい形相で男を見下ろした。

「そうか。お前、ヤドの関係者か。なら俺のことは知ってるな。ヤドの怒りを買うのは俺達じゃない。ヤドの庇護を受ける俺を……」
「ヒスイ。ダメだよ」

トーカが優しくヒスイの口を塞いだ。
我を失っていたヒスイの目に正気が戻る。

「………トーカ。俺………」

ヒスイは冷や汗を浮かべ、愕然とした表情でトーカの方を向いた。隙をついて男が逃げ出す。
トーカが追いかけようとした瞬間、「グエッ」と言う声がして男が地面に叩きつけられた。何もない空間で。

「ガッカリですね」

男の向こうで声がする。

「私の前で自分にナイフを突きつけた君はとても美しかった。なのに、なんですか、今のは。力に驕って自分勝手に人を呪おうとするなんて」

そこに立っていたのはシムトだった。

「この男は私が処分します。心配しなくても君は関係ありませんよ。教会にもルールがありますからね。違反すれば罰せられるのは当然です」

男を抱えてシムトは去っていった。
震えるヒスイをトーカが支えている。
それを遠くから見ながら、レインは胸が痛むのを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...