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泣き虫
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「………美味しくない」
レインが眉間に皺を寄せてスプーンを置く。
「そんな!クキさんの自信作なのに!」
「この世にシチューを美味しくないって言うヤツがいるなんて………」
クキとヒスイが打ちひしがれて床に崩れ落ちていく。
「……何やってんの?」
「あ。トーカ。おかえりなさい」
外から帰ってきたトーカが、クキとヒスイの様子に呆れかえって聞いてきた。
「僕がどんな料理なら好きかなぁと色々試してくれてるんだよ」
「ああ。なるほど」
おでかけ以降、レインはすっかり心を開いて打ち解けてくれている。
ちなみにレインを連れ出したことは秘密にしている。ソラやルリは気づいていそうだが、レインがよく笑うようになったので黙認してくれている状態だ。
「やっぱり変な味付けせずに新鮮なものを食べた方が良さそうだね」
「でも慣れてなかっただけで、美味しく感じるようになってきた料理もあるよ」
「ええ!どれだどれだ!」
盛り上がる3人を微笑ましく見ていたトーカの通信機がなる。ソラからの連絡を聞いてトーカの顔が曇った。
「………レインのおじ達と連絡が取れたらしい」
ソラとルリはすぐにやってきた。
「おじさんとおばさんはレインがいなくなってからずっと探してたらしい。無事だと伝えたらとても喜ばれたよ」
ソラは嬉しそうに話すが、レインは複雑な表情だ。それを見たヒスイがレインを諭す。
「………レイン。おじさんとおばさんはお前のことを迷惑だなんて思ってなかったんだよ。お前のことを愛してくれてる。ならこんな慣れない土地にいるより、家に帰ったほうがいいんじゃないか」
「ヒスイくん。それは……」
「決めるのはお前だ。お前の未来のために、どうするのがいいかよく考えて決めるんだぞ」
レインはただ頷くしかできない。ヒスイの言葉から、本当にレインのことだけを考えているのが伝わってきたから。
「………僕……家に帰ります」
地上に戻るなら長居は無用と、レインはそのまソラ達と共に隠れ家を離れることになった。
「本当にレインを地上に帰していいの?」
心配そうな顔でソラが聞いてくる。
「ああ。アイツならここでのことは話すなと言えば絶対話さないだろう」
「いや。そうじゃなくて……」
ヒスイはソラの聞きたいことをのらりくらりとかわし続ける。『まるでトーカみたいだな』と自嘲しながら、それでもレインを帰すことへの意思は固かった。
「お世話になりました」
少しの荷物を持って、レインが部屋から出てきた。
「体に気をつけてな。無理はするなよ」
「レインくんいないと寂しくなるよ。おじさんおばさんと仲良くね」
トーカとクキが別れを惜しむ。レインも「はい」と寂しそうに答えた。
「ヒスイ……ありがとう」
「うん。あんまり1人で抱え込むんじゃないぞ」
優しく頭を撫でられる。その手が震えてるように感じたのは、レインの気のせいだったのか。
「さようなら」
ソラの運転する車で中央を目指す。
レインの横にはルリが座っている。
「綺麗なブレスレットだね」
レインの腕に輝くブレスレットを見て、ルリが褒めてくれた。
「はい。お出かけした時にヒスイが買ってくれ……あっ……」
「いいよ。君達がでかけた事は気づいてる。レイン君の心のためには必要な事だったんだろう」
ルリは優しく微笑んでいる。秘密にしなくて良くなったことも相まって、レインの口は軽くなっていった。
「おでかけの時にヒスイが言ってくれたんです。我慢しなくていいんだって。辛さや痛みを受け止めてやるからって」
ブレスレットを見ながら悲しそうな顔をするレインに、ルリは優しく語りかける。
「ヒスイ君らしいね。彼はとても大きなものを背負っている。でもそれを全て受け入れて進んでいる強い人だからね」
ああ。なら、やはり自分は家に帰って良かった。彼の重荷にならなくて良かったとレインが思おうとした瞬間。ルリから思いもしない言葉が出た。
「だから、君みたいな優しい子がそばに居てくれたら、とても力になるんじゃないかなと思うんだけどね」
目を見張ってルリを見る。優しい微笑みはこの後の言葉を強く肯定してくれていた。
「あの………僕、わがままを言ってもいいのかな………」
勇気を振り絞ったその言葉に、ルリは強く頷いた。
「もちろん。子供のわがままを聞くのが大人の仕事だ」
隠れ家ではヒスイが死体のようにソファに横たわっていた。
「そんなに落ち込むなら行くなって言えば良かったのに~」
レインが去った寂しさでクキが少し責める口調になっている。
「言えるわけないだろ。どう考えたって地上に帰ったほうがいいんだから。それに最後はアイツ自身で戻るって決めたんだし」
「そうだね。大事なのはレインの意思だもんね。だからどんな結果になっても受け入れないとね」
「………?」
やけに含みを持たせるトーカの言い方に、ヒスイがソファから起きあがろうとする。同時に玄関に誰かが来た声がした。
「はいはい。誰ですか………へ?」
誰が来たのか確認しに行ったクキが間抜けな声をあげる。そのまま扉を開けるとレインがいた。
「お前……なんで……」
驚いて駆け寄るヒスイの服をレインがガシッと掴む。そして聞いたこともない大声でこう訴えた。
「僕……ここにいたい!」
心の底からの叫びがヒスイの心を打つ。
嬉しいと思うのに、言葉は反対のことを言い続けた。
「………まずい飯ばっかり出るぞ」
「いいよ。なんなら僕が作る」
「行動だって制限されるんだぞ」
「みんなが一緒にいてくれるなら、それでいい」
「………お前にまだ言ってない秘密もたくさんあるんだぞ」
「………ヒスイのこと信じてるから大丈夫」
ポタポタと涙が落ちる。ヒスイの目から落ちた涙だ。嬉しいのか困ってるのかわからないその顔を掴んで、レインは笑った。
「クキの言うとおり、ヒスイは泣き虫だ」
レインが眉間に皺を寄せてスプーンを置く。
「そんな!クキさんの自信作なのに!」
「この世にシチューを美味しくないって言うヤツがいるなんて………」
クキとヒスイが打ちひしがれて床に崩れ落ちていく。
「……何やってんの?」
「あ。トーカ。おかえりなさい」
外から帰ってきたトーカが、クキとヒスイの様子に呆れかえって聞いてきた。
「僕がどんな料理なら好きかなぁと色々試してくれてるんだよ」
「ああ。なるほど」
おでかけ以降、レインはすっかり心を開いて打ち解けてくれている。
ちなみにレインを連れ出したことは秘密にしている。ソラやルリは気づいていそうだが、レインがよく笑うようになったので黙認してくれている状態だ。
「やっぱり変な味付けせずに新鮮なものを食べた方が良さそうだね」
「でも慣れてなかっただけで、美味しく感じるようになってきた料理もあるよ」
「ええ!どれだどれだ!」
盛り上がる3人を微笑ましく見ていたトーカの通信機がなる。ソラからの連絡を聞いてトーカの顔が曇った。
「………レインのおじ達と連絡が取れたらしい」
ソラとルリはすぐにやってきた。
「おじさんとおばさんはレインがいなくなってからずっと探してたらしい。無事だと伝えたらとても喜ばれたよ」
ソラは嬉しそうに話すが、レインは複雑な表情だ。それを見たヒスイがレインを諭す。
「………レイン。おじさんとおばさんはお前のことを迷惑だなんて思ってなかったんだよ。お前のことを愛してくれてる。ならこんな慣れない土地にいるより、家に帰ったほうがいいんじゃないか」
「ヒスイくん。それは……」
「決めるのはお前だ。お前の未来のために、どうするのがいいかよく考えて決めるんだぞ」
レインはただ頷くしかできない。ヒスイの言葉から、本当にレインのことだけを考えているのが伝わってきたから。
「………僕……家に帰ります」
地上に戻るなら長居は無用と、レインはそのまソラ達と共に隠れ家を離れることになった。
「本当にレインを地上に帰していいの?」
心配そうな顔でソラが聞いてくる。
「ああ。アイツならここでのことは話すなと言えば絶対話さないだろう」
「いや。そうじゃなくて……」
ヒスイはソラの聞きたいことをのらりくらりとかわし続ける。『まるでトーカみたいだな』と自嘲しながら、それでもレインを帰すことへの意思は固かった。
「お世話になりました」
少しの荷物を持って、レインが部屋から出てきた。
「体に気をつけてな。無理はするなよ」
「レインくんいないと寂しくなるよ。おじさんおばさんと仲良くね」
トーカとクキが別れを惜しむ。レインも「はい」と寂しそうに答えた。
「ヒスイ……ありがとう」
「うん。あんまり1人で抱え込むんじゃないぞ」
優しく頭を撫でられる。その手が震えてるように感じたのは、レインの気のせいだったのか。
「さようなら」
ソラの運転する車で中央を目指す。
レインの横にはルリが座っている。
「綺麗なブレスレットだね」
レインの腕に輝くブレスレットを見て、ルリが褒めてくれた。
「はい。お出かけした時にヒスイが買ってくれ……あっ……」
「いいよ。君達がでかけた事は気づいてる。レイン君の心のためには必要な事だったんだろう」
ルリは優しく微笑んでいる。秘密にしなくて良くなったことも相まって、レインの口は軽くなっていった。
「おでかけの時にヒスイが言ってくれたんです。我慢しなくていいんだって。辛さや痛みを受け止めてやるからって」
ブレスレットを見ながら悲しそうな顔をするレインに、ルリは優しく語りかける。
「ヒスイ君らしいね。彼はとても大きなものを背負っている。でもそれを全て受け入れて進んでいる強い人だからね」
ああ。なら、やはり自分は家に帰って良かった。彼の重荷にならなくて良かったとレインが思おうとした瞬間。ルリから思いもしない言葉が出た。
「だから、君みたいな優しい子がそばに居てくれたら、とても力になるんじゃないかなと思うんだけどね」
目を見張ってルリを見る。優しい微笑みはこの後の言葉を強く肯定してくれていた。
「あの………僕、わがままを言ってもいいのかな………」
勇気を振り絞ったその言葉に、ルリは強く頷いた。
「もちろん。子供のわがままを聞くのが大人の仕事だ」
隠れ家ではヒスイが死体のようにソファに横たわっていた。
「そんなに落ち込むなら行くなって言えば良かったのに~」
レインが去った寂しさでクキが少し責める口調になっている。
「言えるわけないだろ。どう考えたって地上に帰ったほうがいいんだから。それに最後はアイツ自身で戻るって決めたんだし」
「そうだね。大事なのはレインの意思だもんね。だからどんな結果になっても受け入れないとね」
「………?」
やけに含みを持たせるトーカの言い方に、ヒスイがソファから起きあがろうとする。同時に玄関に誰かが来た声がした。
「はいはい。誰ですか………へ?」
誰が来たのか確認しに行ったクキが間抜けな声をあげる。そのまま扉を開けるとレインがいた。
「お前……なんで……」
驚いて駆け寄るヒスイの服をレインがガシッと掴む。そして聞いたこともない大声でこう訴えた。
「僕……ここにいたい!」
心の底からの叫びがヒスイの心を打つ。
嬉しいと思うのに、言葉は反対のことを言い続けた。
「………まずい飯ばっかり出るぞ」
「いいよ。なんなら僕が作る」
「行動だって制限されるんだぞ」
「みんなが一緒にいてくれるなら、それでいい」
「………お前にまだ言ってない秘密もたくさんあるんだぞ」
「………ヒスイのこと信じてるから大丈夫」
ポタポタと涙が落ちる。ヒスイの目から落ちた涙だ。嬉しいのか困ってるのかわからないその顔を掴んで、レインは笑った。
「クキの言うとおり、ヒスイは泣き虫だ」
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