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第3章 躍動篇

第14話 入学にさいし

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 入学式、前世からの通算で言えばええと……5回目だ。俺は前世では大学までは言ったが大学院にまではいかなかったからな。ちなみに卒業の回数は4回だ。ダブることなくしっかりと卒業してやった。

 そんな学校にはもう通うことは無いなんて思っていたがまさか転生をした上にこうやって学校通いをすることになるとはな。もっとも俺は敷地内の寮に卒業まで居ることになるようだから通学はしないが。

 学校の概要についてはユリウスやアルジャーノン……長兄から聞いているが詳しくは知らない。これでもし士官学校のような超体育会系だったらどうしようかという不安はないわけではない。たとえば『目の輝き不備!!』なんて言われたりな。そんな話は出なかったし一応7歳の幼子が通わせてもらえるような学校である以上あんまりにもあんまりなことはしないと信じているけれど。

「ええ……であるからして……私が言わんとするのは……。」

 で、入学式ってものはどの世界でもどうやらそんなに変わらんらしい。お偉いさんの相も変わらずよく分からん話を聞き流すという工程は必ず入るらしい。俺は入学式会場の片隅、新入生の席に座りながらそんなことを考えていた。まあ……お偉いさんはお偉いさんでちゃんとスピーチの内容考えてきてくれて俺たちの為にってんでお話してはくれているんだろうが……。

 若干のうしろめたさも感じつつお偉いさんの話は聞き流して、入学式を終えた。この後はオリエンテーションだ。予め決められたクラスに割り当てられた教室へと向かう。ちなみにどちらかと言えばこの学院は日本の高校に似たシステムを取っているようだ。ホームルームで授業を受けつつ一部の授業は他のクラスと合同。プラスアルファでゼミと言うか研究室というか、そういうものにも加入できる……らしい。まあ詳しいことはオリエンテーションで話してくれるだろう。

 我がホームルームに到着し、自分の席に座る。ちなみに指定席だ。くじ引きでも名前順でも無いらしい。まああれなんだろう。ヘタに公爵令息と男爵令息を隣同士にしてトラブル発生みたいなのを防止する意味もあるんだろう。

 ……そんなことを思っていたら、早速カラまれる羽目になってしまったようだ。

 妙に品定めをするような目で俺の前に立った男が居る。その後ろには取り巻きっぽい連中が二人。何の用何だか……。なるべく平和に過ごしたいというのに何なんだ。

「お前がアルフォンス・リュシオールか?」

 随分とぶっきらぼうに聞くもんだな。礼儀がなっていないなぁ。もっともこの年齢の子供に年下に礼儀を求めるのは難しいのかも知らんが。とはいえ礼儀がなっていないのは中身が大人のこっちとしては正してやらんといけないな。

「人にものを尋ねる時はまず名乗るのが礼儀では……?」
「……マティアス・エスカーダだ。」

 思ったより素直だな。なんとなく粋がりたいだけか?それならそれで対応するだけだが。

「マティアスさん、して要件は?」
「決まっているだろう。なぜまだ学校に通えるような歳でもないおまえがここに居るかだ。」
「飛び級で特別に入れて貰ったんですよ。」
「特別?俺でさえ飛び級できなかったというのにか?」

 なるほど……不正を疑っているのね……。この子はプライドもなんとなく高そうだし、解らんでもない言動だ。だけど少なくとも俺はやっていない。ユリウスだってそんなことに手を染めるような愚か者ではない。

「さあ……。僕も本当に入学できるとは思っても居なかったので。ただ不正なんてしてませんからね?」
「……まあいい。アルフォンス、俺はお前には絶対負けないからな!エスカーダ伯爵家の名に懸けてな!」

 そう言ってマティアスとやらは取り巻きを引き連れて自らの席へと去っていった。やたらとグイグイくる奴であった。まぁ嫌いではないが、そういう奴は。

 で、そんなこんなしてるうちに教師と思しき女性……というほどじゃない女の子、それもこの教室に居る生徒たちとほぼ同い年くらいのが入ってきた。

 なぜ教師であるとわかったかと言えば……ローブを着ているのだ。背中に校章の入った教職員のみが着用できるローブを。

「皆の者!よぉく聞けぃ!わしがお前たちの担任……ジャンヌ・グランノールじゃ!我が父は皆もよく知るであろうグランノール公爵家当主であるが気にするでない。わしのことは姉であると思い接するがよい!」

 ……うん、まぁ……随分とキャラクターの濃い子が来たなぁ。なんだろう?この歳で教師をしている以上天才なのだろうが、天才てのはこう……この世界でも変わり者なのか??

 まぁ、この子……ジャンヌの言う事を信じると公爵家の人間である、ということになるが……嘘は言ってはいまい。信じることにしよう。仮にも教師をやっているんだ。その立場で嘘をつくことがどんな結果を招くか、それを知らないでなっているわけではあるまい。

「と、御託はこの辺りにして、お前たちにオリエンテーションをして進ぜよう。心して聞けぃ!」

 諸々あったがついにオリエンテーションだ。

--------

 オリエンテーションの内容をまとめるとこうだ。

・学内は爵位による序列は存在しない。そのため全生徒は敬意を互いに持ち対等な立場として接すること。
・学内の設備は全生徒に開放されている。許可さえあれば誰でも使える。
・学内での個人的決闘は禁止である。違反者は制裁として当年の成績を全て不認定とする。
・学内で武器類の携帯は事前に届け出を行うこと。また管理に関しては自己責任である。

 ざっとこんなもんだ。あとは普通の学校みたいなルールだった。

 あとは既に独自に仕入れていた情報ばかりだった。

 ま、わからんことが出てきたらジャンヌに聞けば良い。まさか突然即死魔法とかぶっ放したりとかはしないだろう。

「さて、ここでやる内容としてはこんなもんじゃな。お次は校内の設備を案内してやる。背の順に並んでついて参れぃ!!」

 さあついてこいと言うような、ドラクロワのかの絵画のように旗を掲げるようなジェスチャーをしてジャンヌは着いてくるよう促し、俺たちはそれに従ってジャンヌの後をついて行くことになった。

 ゾロゾロと俺たちを引き連れて学内を行進していく。ワイワイガヤガヤやりながらこうしていると学生時代……とりわけ中高生の頃を思い出す。あの時もこんな風にしていた気がする。

 ジャンヌがここは演武場であるとか、ここは図書館であるとか、諸々を説明しながら校内を練り歩いていく。こうして見ると結構設備も充実している学校のようだ。やれることも事のほか多そうだ。

 一通り見て回り、元のホームルームに戻る道中、ジャンヌと同様新入生たちを引き連れて案内していたと思しき初老の教員がジャンヌに声をかけてきた。

「これはどうも。ジャンヌ先生。新入生たちへの案内ですか?」
「うむ。学校を活用したければその中についてよく理解する必要があるからの。」
「ええ。そうですね。では後程職員会議で。」
「うむ。よろしくお願いします。」

 一通りの言葉を交わした後、相手の教員は生徒たちを引き連れて俺たちが来た方へと去っていた。ゾロゾロと引き連れられた生徒たちの中にはこちらを気にしている様子のもいた。その目線の先は俺であっただろうか、それともジャンヌに向けられた視線だろうか?

 この後も一通り各教室などを見て回り、元のホームルームに帰ってきた。

「さて、これでオリエンテーションは一通り終わりじゃ!!後の事は入学のしおりに書いておいてあるからそれをよく読むように。もしくはわしの所に来るが良い!懇切丁寧教えてくれようぞ!!それではひとまず解散じゃ。各自自由に過ごすように!!」

 ジャンヌの言葉を聞いて各々はホールムールを後にしていった。ひとまずはこれで終わりか。この後は何をしようか……ローランの所に行っても良いな。あるいは早速図書室でこの世界のあらましを調べるのも良い。

「アルフォンス、少し良いかの?」

 思案を巡らせていると、ジャンヌが声を掛けて来た。

「な、何ですか?」
「いや、大したことでは無いのだがの、お主がやっている事業について興味があってな。少し話を聞かせて欲しいのじゃ。」
「それならお安い御用ですよ。」

 ジャンヌに俺のやっている事業について諸々話した。すると、そこそこ興味を持ったようだった。

「話を聞くになかなか興味深いの。実際使ってみたいのじゃが、まだお主の実家の領内だけなのであろう?」
「はい。その通りでございます。いずれは王国中で事業展開をしたいと考えていますがいかんせん資金が工面付かないですね。」

 まだまだ走り出したばかりの事業。まだ今月の収支すら出ていない状況だ。ここから事業拡大の資金を資金をとなると、ちと厳しいという物だ。

「そうであったか。……こう見えてわしはそれなりに個人資産を持っていてな。そうであるなら出資をいずれしたいと思うておるのじゃ。現状受け付けているかの?」
「もちろんでございます。心よりお待ちしております。」
「うむ。それは良かった。すぐにとはいかんが必ず出資することは約束しようぞ。」

 お有難い話だ。まだ口約束程度だがそれでも明確に出資するという話だ。今後事業拡大をするとなるとさらなる資金が必要になってくる。今のうちに確保できるのはいい話だ。今度マリーにも伝えておこう。あとは当然クレイグにも。

 と、事業の事ばかり考えているが今は学生となったのだ。そっちもしっかりこなさなければ。すべてを血肉にしていく、そのつもりで。折角もう一度入学したのだから。
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