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第2章 黎明編

第9話 主要取引先:冒険者ギルド

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「さて、今日は日がまだ高いので早速依頼をこなしてみることが出来ると思いますがどうしますか?」
「そうだね。何かやってみたいし、そうするよ。」

 俺は例の掲示板に歩みを進めて、自分にもできそうなものを吟味してみる。討伐、護衛などなど確かに色々とあるようだ。だが多くは戦闘力があることが前提の依頼が多いようだ。ぱっと見は全体の7割といったとこか。

 さすがに今の俺ではクリアすることも難しい以上それはひとまず除外しておく。となると採集の依頼ってところか。そう思っていると、よさげな依頼が目に飛び込んできた。

・【フェン茸の採集】10個で銅貨1枚/随時受付

 これは肩慣らしにちょうどいいかもしれない。

「マリー、この依頼だけれど……。」
「ああ。これですか。これは冒険者ギルドが初心者向けに出している物ですね。私も駆け出しのころはこういった依頼で糊口を凌いでましたよ。これ、やってみますか?」
「そうするよ。」
「では、やってみますか。アルフォンス様のギルドカードはまだ出来て居ないので少し手続きは必要ですが私の方でやっておくことにします。」
「助かるよ。ありがとう。」

 さてどんなもんか。採集だからそんなに時間もかからないだろう。事業が開始するまではお金がただ出ていくだけだしこういうところからも多少財務の足しにできれば良いな。足しになる程は稼げないかもしれないが。

 依頼の受領の手続きを済ませた俺たちはギルドの支部を早速出発し、フェン茸を採集しに行くことにした。ギルドの受付の人、さっきのウィルという新規登録窓口の男とは違う人であったがその人が言うには付近の森に普通に自生している茸だそうで、見つけるのが上手い人なら1時間ほどもあれば2、300個くらいは集めてこれるそうだ。

 で、その森に10分ほどで到着したわけだが、なるほど確かに茸がよく見るとそこらに生えている。注意深く見なければ解らないが慣れている者ならすぐに見つけられそうだ。木の根元に生えている茸を見つけてもぎ取ってみる。大きさは幼児、つまり今の俺が両手で持つくらいの大きさだ。見た目はギルドで見せられた説明書きの挿絵にあった通りの見た目だ。例えるなら緑っぽい色をした大きめのシイタケと言ったところだ。かじったらもう一人俺が増えそうだ。やったところで結果は真逆だろうが。

 今回は試しなのでそんなには集めない。マリーと協力しながら背嚢に少しづつ放り入れていく。大体6,7割は入ったかな、といったところで切り上げることにした。

 首尾よく採集をこなして、危なげなくギルドへと戻っていき依頼受付のカウンターに早速持って帰ってきた茸を提出する。

 集計して貰うと、茸は丁度30個であったため、銅貨3枚を手に入れることが出来た。ざっくり移動時間込みで1時間くらいでこんなとこだ。そう実入りは良くない気もするが相場でいえばこんなものか。

「それと、アルフォンス様のギルドカードができましたので、こちらをどうぞ。」

 そう言って一枚のカードを受付の係員は差し出した。手にとって見てみると、たしかに【E級冒険者:アルフォンス・リュシオール】と記載があった。あとは俺の特徴などが写真代わりに記されていた。

「このカードは王国の中であればどこの支部と本部でも共通となっているのでご活用ください。」
「ありがとうございます。係員さん。」

 一つ、俺は礼を返しておく。それにしても国内だけとはいえどこでも使えるというのはすごいな。それだけしっかりと組織というものが確立されていて、なおかつ規格というものも共有されているということだろう。中世風な世界とばかり思っていたが、中世地球世界よりかは文明が進んでいるのかもしれないな。

「ところで、ここにある依頼はこの支部だけで受け付けている物ですか?」
「いえ、他の支部で受け付けた物を掲示している場合もございます。最も他で受け付けた依頼は伝令でやりとりしているので短くとも半日、長いと7日ほどは反映されるまでかかりますが。」

 なるほど、そういう仕組か。……まてよ?これはもしかしてビジネスチャンスではなかろうか?依頼人にせよ、冒険者にせよ迅速につながることが出来ればそれぞれに旨みがある。たとえばマフェーレの街で受け付けた依頼をリエルの街でその日のうちに受けることができればそれだけ優秀な冒険者の目に留まることだって考えられる。また、情報の更新が早ければ行き違いを防いで冒険者に徒労をさせなくても良くなる。

 駄目で元々だ。一か八か、営業を掛けてみることにしよう。

--------

 冒険者としての登録を済ませて数日、リュシオール家の屋敷に戻っていた俺はある人物からの来客を待っていた。

 屋敷の自室でそわそわしながら窓の外に目を向けてみると、一台の馬車が屋敷の前までやってくるのが見えた。屋敷の玄関の車寄せに停められた馬車からは一人の男が降りて来た。そして、そのまま屋敷へと入っていった。

 恐らく俺への来客だ。すぐさま俺は部屋に備え付けられていた姿見の鏡を見ながら身だしなみと整えた。これから行われるのは我が事業においても非常に重要な会談だ。とにかく、僅かでも文字通り綻びの一つでもあってはならない。

「アルフォンス坊ちゃん、ご来客です。応接室にお通ししているのでご対応よろしくお願いいたします。」
「ありがとう。クレイグ。すぐ向かうよ。」

 普段はあまり使うこと無い応接室へと足早に向かう。この屋敷の中でも比較的しっかりとした、装飾もされている応接室の扉の前に立ち、ノックをする。

 返事があり、それを確認した俺は応接室へと入る。応接室の中には二人組の男が居た。片方は椅子に腰かけた隻眼に眼帯、そしてオールバックでまとめた歴戦を経てきたことを思わせる初老の男、もう片方は隻眼の男の後ろに控えていたどちらかと言えばインテリ風の細身の男であった。

「貴様がアルフォンス・リュシオールか。王国冒険者ギルド総裁である俺と会談をしたいと言っているのは。」
「ええ。本来は僕が赴くべきところ、ご足労頂き誠に感謝しております。閣下。」
「……フェン支部長からは只者ではないと聞いていたが嘘では無いらしいな。」

 いつの間にか情報が回っていたか。だが6歳の幼子が名目上とはいえ冒険者になったんだ。情報が回らんわけがないか。

「いえ、僕は僕のやるべきことをただ愚直にやっているだけです。」
「なるほどな。奴がああ言うわけだ。さて、こんな話をするつもりでは無いのは俺だけではないな?」
「当然でございます。僕が総裁閣下にご提案したいことがあって会談の機会を設けて頂きました。」
「提案、とな。」
「はい。具体的には……。」

 俺は現在取り組んでいる事業について説明をした。そしてその事業を利用すれば冒険者ギルドにとっても利益のある話であるという事を提案した。つまり、現状ギルドの支部と本部との間では情報伝達の速度が遅く冒険者にとっても依頼者にとっても不便さがある。しかし、我が事業を使えばその問題解決の一助になる、そういう話だ。

「うむ……。確かに一理あるな。だが本当にできるのか?」
「保障は出来かねます。しかし、僕たちとしては自信を持ってご提案させて頂いております。」

 ここで良いことばかり言っても信用されまい。少なくともいい物を提供する気では居るがその気があったとてそうはできない事の方が多い人の世だ。

「……分かった。ここはお前を信じてみよう。ただし、このリュシオール伯爵領内でどれほどできるのかを見させてもらう。もし、結果が伴わなければ……分かっているな?」
「もちろんでございます。」
「うむ……。では具体的な話はそこのニールと詰めてくれ。」

 ニールと呼ばれた男はギルド総裁に頭を下げた。それを一瞥した総裁は応接室を後にしていった。

「では、改めて。ユリウス・ド・カーディナル=リュシオールが三男、アルフォンス・リュシオールと申します。よろしくお願いします。ニールさん。」
「……ギルド総裁閣下よりご紹介いただいたニールだ。よろしくたのむ。」

 ……あまり感情を表に出さないタイプか。まぁ、だからと言って交渉ごとにさほど影響があるわけでも無いが。

 とりあえず、話は建設的にまとまり試験的ということで月金貨30枚で事業開始の暁には情報伝達業務を請け負うことになった。個人的には少し条件が良すぎて裏がありそうな気がして確認をしてみた。すると、ギルドで現状かかっている情報伝達のコストもそれくらいはかかっている、ということだ。

 なんでも純粋に伝令要員を雇うコストの他ダブルブッキング、つまり同じ依頼を二重にあっせんしてしあったりしたときの補償などもあってそれくらいは損失になってしまっているそうだ。本当かどうかは分からないが一応信じることにする。現状嘘をつく理由が見当たらないのだし。

 とにかく、これで安定的な取引先を得ることが出来た。これで事業の成功にも一歩前進。あとはクレイグに頼んである人員を育成していくだけだ。マリーにも頼んでマニュアルを詰めていくことにでもしようか。

 これから本格的に事業は回ってくる。今までの準備段階とはわけが違うほどの数の決断も迫れれることは間違いない。だからと言って怖気づくなどということは決してないが。まあ、やれるだけ全力でやろう。
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