【完結】今後の鉈枠は、

最終章 想いを告げるにはどうすれば？

＃１３：グッズより大事なもの

　またそんなことを言って。

「へえ。あっそう。でも数あるグッズの中で、ペンライトだけを残すなんて先輩も抜け目ないっすね」

「え。何で？」

「俺が襲われて今ソレ、フリマ系界隈では値が吊り上がって１本１０万。３本セットだと５０万円するんだって！」

　エグい話である。俺が死んでしまった場合、恐らくもっと値段は吊り上がるだろう。人の命で価格が変わるなんて酷い話である。

「そんなにするのか！」

　目を丸くして先輩は驚いた顔をみせた。

「そうっすよ。俺が死んだら、ソレ売って生活の資金にでもしてくださいよ」

「嫌だよ。そんなことはしない。思い出のペンライトだからな」

「思い出？」

「初めて買った公式グッズなんだ」

「まじすか！　でもそれ一瞬で完売したのに、よく買えましたよね？」

　先輩が手にしているペンライトは３本ある。３回とも完売した瞬間に立ち会って買えたということになる。

「確か１回目のときは昼間の１５時過ぎだったかな。２回目が朝７時過ぎ。３回目が夜２２時過ぎに買った」

「ん？　それって可笑しくないですか？　大分前の事とはいえ、俺はグッズ販売のとき自分で販売開始のボタンを押しましたよ？　正確な時間は覚えてないけど、最初は夜で、次が昼間で、最後は朝」

　先輩が噴き出した。

「時差。時差だよ」

「時差！」

「あのときは８時間の時差があったな。日本の方が８時間進んでる。買えたのは、たまたま。俺が休憩取った瞬間とか、仕事が終わって部屋に戻ったとき、それと朝起きたタイミングだった」

「なるほど！」

「だからコレだけは売らないよ」

　大事そうに鞄の奥にグッズは仕舞われた。そんなもの、スーツケースに入れてくれて良いのに、わざわざ手荷物にするなんて。

「嬉しいなぁ。大事に昔のグッズを持っててくれるなんて…あ、そうそう！　新しいグッズを今度作るんですよ！」

「新しいグッズ？」

「登録者数５０万人突破記念と抱き合わせで。でも転売ヤーが酷いから受注販売で出すんですけどね！」

「ふぅん。そうなんだ」

「できたら速攻で教えますね！」

　何故か先輩は首を横に振った。

「その必要はない。もう買わないから」

「え、何で？」

「お前が入院してるときに思ったんだ。守るつもりで再現部屋まで作ったのに、結局襲われて、俺は何やってるんだって。グッズを買ったり集めるのは応援する意味もあったけど、俺が本当に欲しかったのは宗武、お前だよ。俺が作ったものを食べてくれる。なのに目覚めてくれない。もう食べてくれないかもしれないなんて思ったら、俺が今まで努力してきたことは何だったんだって思ったよ」