【完結】今後の鉈枠は、

ほわとじゅら

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最終章 想いを告げるにはどうすれば?

#03:不意打ち

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 スマホに俺自身を再び映るよう配信を切り変えた。ピースサインをかまして、サラっとコメント欄を見る。

〈これからパリかよ!w〉〈いいなおフランス!!〉〈イケメンと旅裏山ww〉〈パティシエめっちゃ顔面偏差値高くね?w〉〈もしやカップル配信なのか?w〉〈先輩とどういう仲?w〉〈現地配信たのしみ!!〉〈すげーwww〉

 俺は再び先輩を映した。先輩の顔を売って鉈リスたちに、フランスの店まで来てもらえれば店の売り上げにもなるからだ。

 カメラを向けても、近江先輩は全く物怖じしない。そればかりか、配信に映っても問題ないか空港に向かうがてら事前に訊ねたのだが『構わない』と返事は了承済み。淀みない即答で緊張などなく、どこか余裕すら感じた。昔から目立つ顔で人が寄って来るから慣れているのだろう。

「先輩。それより聞きたいことがあります!」

「何だ?」

「もし俺が配信をできなくなっても、俺のことを面倒みてくれるんですよね?」

 部屋を引き払い一時的に先輩の部屋を借りたときだ。

 俺は本名が広く世間に知れ渡り、今後の活動を一瞬悩んだ。

『鉈ちゃんで活動しても身バレしたから名前を連投する奴も多くて、削除も追いつかない。そんなの無視すりゃ良いけど、やってくる凸者を困らせてしまうかもしれない。はぁ。俺、どうしたら良いと思います?』

 そんなとき、先輩は答えてくれた。

『最悪、配信ができなくなったら、全部、俺が面倒みてやるから安心しろよ!』

 冗談のように聞こえはした。だから逆に、どこまで自由にやって良いのかとも俺は思ったわけで、

『じゃあ俺が配信者を続けている内は、ダメなんですか?』と聞いてみた。

『ダメじゃないけど』

『だってそこそこの収益を上げてるのに、俺、配信止めたらニートになるっすよ?』

『そいつは困るな!』

 彼は笑い、即答だった。

 そんな他愛ない冗談を数日前に言い合ったのだが、今もう一度、確かめてみたかった。

 本当に冗談で返したかもしれなくて、別に不安とかじゃないけど。

 あとから――そんなことを言ったか?――って、すっとぼけるかもしれないわけで。

 皆んなの前で、ハッキリさせたかった。

 近江先輩は、一度チラリとカメラを見てから、俺を視界に捉えた。

「おう。任せとけ」

 力強い言葉だ。茶化すことなく、欲しかった言葉でもある。

 しかし、スマホを向けていた腕を取られた。勢いよく引っ張られて俺は思わず前のめりに傾いた。

「ちょっ、先輩!?」

 激突する直前、先輩の肩を掴んだ。

 彼は、俺の腰を引き寄せるとゼロ距離で詰めてきて、首を傾けて、塞がれた。視界も、俺の唇も。

 すぐ離れたけど。

「先輩!」

 俺の腕を再び手に取ると、スマホ画面に先輩は映りこんだ。

「ごめんね。皆んな?」

 一言を述べてから直ぐ、俺は開放された。先輩はスーツケースを、ガラガラと引いて颯爽さっそうと歩き出していく。

「先行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待って! あ、えーと、てことで俺は…あれ、今なにを言おうとしてたんだっけ?」

〈ねぇ今ちゅーしたよな?〉〈そういう仲なんすねwww〉〈カップル公式配信はここでしたか!w〉〈画面ブレたけど見えたぞ!w〉〈熱烈だなwww〉〈鉈ちゃん受けかよw〉〈お熱いですねww〉〈永久就職のご報告たすかるw〉

「あ、そうそう。俺は、これからも配信活動は末永く続けていくんで。どこかの企業に就いて仕事するってことはないと思います。はい。そう、それが言いたかったんだよ!」

 永久就職なんて言葉も見えたが、ひとまずスルーした。不意打ちでキスされるとは思ってもみなかったから、頭の中に思い描いていた挨拶の言葉が飛んでしまった。なんとか言葉を口にすることはできたが、コメント欄が物凄い速さで滝のように流れていた。

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