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最終章 想いを告げるにはどうすれば?

#02:今いる場所は

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「じゃあ今からPCを切り離すので、一瞬待っててね!」

 ノートパソコンからスマホに画面を切り替えて、俺は手早く荷物をまとめて部屋を出た。

「てことで俺は今、羽田空港に来ております。急な仕事が入ったときに一人用の会議室があるブースを使っておりました。もちろんPC作業ができるノマドワーカー向けにコワーキングスペースなる施設もあるんですよ。航空内に神社とかもあるし、全国の有名なお土産を一同に介して並ばずに買えたりできる。飛ぶだけじゃない。今の空港って凄くない?」

 景色を180度回転させて、ぐるりと周囲を映した。会議室ができたスペースには人がいなかったからだ。

「ま。空港でわびしくオンライン配信してる奴は今のところ俺だけみたいですけど。さて、今日からね俺は全面顔出しの解禁です。相談系配信者をやめて、旅系配信者で活動しようかな。どう思うよ皆んな?」

 景色から自分が映るようにスマホを操作し切り替えた。どっとコメントが沢山流れた。

〈鉈ちゃん顔出し!〉〈マ?w〉〈やるじゃん〉〈旅系良いんじゃない?w〉〈はじめて近距離でみたww〉〈割とイケメン?w〉〈可愛い鉈ちゃん返して!w〉〈今日は空港から配信なのか〉

「おいおいおい。割とイケメンってなんだよ! 完全に俺は男前だろ!」

 自由きままにコメントが賑わっている。ゲリラ的に配信を始めたが、見てくれているリスナーたちは既に1万を超えている。俺が退院後に再開した配信時には、同時接続数が10万を超えたっけ。

「俺さぁ。ニュースになっちゃったじゃん。もうさぁ、どこかのネット記事には俺のフルネームを載せられたから、退院記念配信のとき、俺の本名を書き込むリスナーが大勢いて正直びっくりした。あんときニュースを細かく見れてなくて、普通に名前は配慮してくれるものだとばかり思ってた。けど本名が出ちまったからさ。リアル凸も割と直ぐあったし。近所迷惑になるから急遽、部屋も引き払うことになったんだぞ!」

 そうなのだ。退院後に待ち構えていたのは、リスナーに本名だけでなく家の住所もバレて、老若男女。特に10代の若者がグループで凸してきたときなんかは、家の前でファンサしなければ帰ってくれなかった。

 それだけじゃない。スーパーへ買い出しにいけば、遠目からじっと親子に見られていることは勿論のこと、リアル凸じゃなくても郵便物には俺のことを心配して現金の入った封筒が投函されていた。無論、差出人不明だった。

 結構恐ろしい状況になってしまい、早々に部屋を出ることになったのだ。

 智景には隣人に引き取ってもらい、俺は家具諸々を売ったり廃棄したのだが、ゴミ置き場に移動させる際「不要ならくれませんか?」とする近所では一度も見かけたことがない青年らが現れて、面倒なのでタダで持っていってもらった。

「皆んなの好意は有難いんだけどさ、俺が落ち着いて住めなくなったから他の場所に避難したんだ。でもね、俺は決めたよ。自分の今後を。どうしていきたいか。少し前にさ、俺が配信者をやってることを気遣って、早く就職してくれってリスナーからメッセージを貰ったんだけど、報告がある。俺は今日、お世話になる人といる。今から皆んなに紹介するね?」

 少し歩いてスマホの画面を俺から景色へと切り替えた。映像の中には、椅子から立ち上がり腕時計に視線を落とした人物を捉えた。

「先輩! もう行く時間?」

 時計から視線を上げた先輩と目が合った。今日も爽やかなイケメンは、軽く微笑んで「チェックイン時間は始まったから、もういけるぞ。それまだ配信中?」と答えた。

「配信中でーす。皆んなぁ、こちらの方はオウミ・パティスリーの近江先輩です。高校時代に出会って、以来、先輩って呼んでるんだけど、これから先輩が知り合いの店に行って引き継ぐことになったんだ。行き先は、フランス。実は俺も手伝うんだけど、現地で配信しようと思ってる。どうよ、凄くない?」

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