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第四章 言い掛かりを止めるには?

#23:5人目の予約客

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「え…志多刑事!」

「ご連絡いただいたのですが直前に呼び出しがありまして定刻に来れませんでした」

 今日の志多刑事は初めて会ったときよりも渋い。黒いジャケットに白シャツ、黒いパンツスーツに、ヒールの高い黒のパンプスだ。政府要人でも警護しそうなSPみたいな装いである。あの細さで地面に立つヒールで一発蹴られたら痛そうである。

「まさか先輩が言ってた予約客の一人って、志多刑事も含まれていたんですか!」

「あれ…先日あなたに言いましたよね? 鉈さんの配信の方が好きだって」

 確かに言われた。入院時に目覚めて直ぐ受けた事情聴取で、俺の配信が好きだと言っていた。暗に灘広との配信よりも、擁護ようご、いや、よいしょした言葉だと思った。サラリと答えていたから状況的に社交辞令かと思い、スルーしたのだが。

「いやまさか刑事さんが、まじで鉈リスとか、なんか恐縮です」

 志多刑事は軽く微笑んだ。

「私は、たまに見てる程度ですけどね。いろんな方が、いろんな悩みを持っていて、興味深く拝見しています。私にはあまり小さな悩みとか、くよくよ考えることはないので、まぁ見識を広げるには丁度良い配信だなぁって感じで見ています」

 それが恐縮なんだって。リスナーに刑事がガチでいるとか、下手な事は言えないじゃないか。今後の配信で話す言葉には最新の注意を払う必要があるってことになる。

「俺の配信そんな大したもんじゃないですよ。それはそうと志多刑事が予約客の一人ってことは、店内での共有情報を吸い上げてたってことじゃないですか。鉈ちゃんを守る会に、あなたも一枚噛んでたんですか?」

「私は殆ど何もしてないですけどね。結局、近江さんのお店に行けたのは初日だけですし。参加した理由としては、素人の方々が一般人を見守るというのも危なっかしいので。よっぽどの過激な行動があれば注意しようと思ってたんですよ。でも報告は案外真面目で。様子を見ることにしたんです。ただ最初に私が提案した手前、少しばかり出来る範囲でのことは、ご協力させていただきましたが」

「出来る範囲?」

「あなたに気付いてもらうよう、お悩みフォームから送った件」

「あ、そっか。そうでしたね!」

「普通は、警察に相談を受けてから警察官は動くので、逆に私が単独で動いて警告するとか、そんな勝手なマネは許されることではないんです。遠回りとなりましたが、せめて気付いてもらえればいいなと思いまして。勝手にこちらから送りまして、すみません」

 俺が灘広関連を削除する前に、きちんと目を通しておけば良かったのだが、何だか申し訳ない気持ちになった。

「いえ。もう謝らないでください。でもちょっとだけ不満があります。刑事さんが守る会に参加なさっていたなら、もう少し俺を早く救助して欲しかったです」

 体中が、ズタボロになるまで暴行を受けたのだ。拘束されてボコボコになるとか、学生時代でも喧嘩一つ起こしたこともない。もし女の行動を、ギリギリまで泳がせるのに放置されていたのなら、ちゃんと抗議しておかねばなるまい。

「本当に、すみません。あのとき別の事件を追ってて。通報の連絡を貰ったのが遅くなりました。なんとか現場に臨場したときには、あなたは救急車に運ばれてるところでしたので」

「そうなんですか。そういやスマホって、まだ返してもらってないんですけど、まだ掛かる感じでしょうか?」

 スマホ内の諸々、コピーを取れば直ぐ返してもらえると思っていた。しかし退院して暫くたった今も手元には戻ってきていない。

「すみません。データの取り出しだけでなく、スマホには指紋や血液も付着している他、被疑者がスマホに触ってライブ配信をやったという件で色々検証と調べが済んでないんです。厳密に細かく言うと、スマホの中のアプリをどう触ったとか、どのように触ったとか。もちろん生活必需品ですから後日返却させていただきます」

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