【完結】今後の鉈枠は、

第四章 言い掛かりを止めるには？

＃０２：これは全部

「え。そうなんだ！」

「店を開いてケーキを売るにも食品衛生責任者っていう資格はいる。あと製菓衛生師の国家資格も俺には必要だ。まずは学校行ってカリキュラムに沿って知識と技術を学んで、卒業後に実店舗でキャリアを積んで、国家資格や店を開く資格を取得して、営業許可を取って、やっと店が開けるんだ」

「なっが！　めっちゃ大変な道のりじゃん！　てか資格の取得ってあとから取るんだ？」

　弁当が空になり、先輩はランチ用の風呂敷で空箱を包んだ。

「一般的な流れだよ。おっと、時間だな。俺はそろそろ行くからな。じゃあな！」

　椅子から立ち上がり、先輩は教室を出て行った。廊下には大勢の女子生徒たちが待ち構えていた。「今日の放課後は調理室行きますか？」とか「砂糖菓子を作ってきたんですけど食べてみてください！」とか「新しいケーキ屋がオープンしたの知ってます？」など、黄色い声がきゃっきゃと飛び交っている。

「相変わらずモテモテだな。なぁ求宮。ところで何で、いつも先輩はここに来てお前とランチしてんだよ？」

　小野木だ。病欠で休んでいた生徒の机に移動してもらって勉強していた小野木が、自席に戻ってきたようだ。先ほどまで先輩が座っていた俺の席の前列に座った。

「自分のクラスだと他のクラスから同級生の女性が結構ズカズカ入って来るんだって。地下の食堂だと色んな女子に囲まれるし、中庭は夏場暑くて冬は寒いからな。部室で使ってる視聴覚室は、部活以外で使用禁止だし。究極、後輩のクラスで後輩と食ってれば流石に囲まれることはないらしい」

「なんだそれ。羨ましいなぁ！」

　小野木は大げさに息を吐くと、ふと思い出したように視線が廊下から俺に戻った。

「そういやさ。さっきオレのこと見てたよな？　先輩と何話してたんだ？」

　小野木でケーキ屋の店主として想像をしたときのことだ。目線は教科書に向いていた筈なのに、気づいていたようだ。

「あ…いや、別になにも」

　俺は思い出してしまい思わず笑いが出てしまった。

「おいおいおい。その笑いは何なんだ？」

　小野木がペチペチと俺のことを叩いた。

「痛てぇ痛てぇ！　特に何も言ってねぇよ！　委員長兼、生徒会長さまは今日も忙しそうに勉強してるなぁって見てただけ！」

「嘘つけ！　求宮、コラ吐けよ！」

　叩く力に力が籠った。強めどころか、物凄く強く叩かれて思わず俺は呻いてしまった。

「痛ってぇ！」
　
　バチンっと頬が痛い。

　だが視界に移る景色は暗い。

　殴打された頬も、肩も、腕も足も痛い。額から顎にかけて流れる水滴がポタポタと落ちて太ももに当たるのを感じた。

　下を向いて俺のジーンズには赤い液体が染み込んでいる。汗じゃない。俺の、血だ。拭うことすらできない。

　俺は身動きできないのだ。縛られていて。

「やっと起きたか」