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第四章 言い掛かりを止めるには?

#01:店を開くには

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「宗武」

 名前を呼ばれて振り向くと、つき出された箸の先に何かが見えた。だが視界の中の焦点が合わぬ内に「はい。あーん」と先輩が言ったから、俺は脊髄反射で口を開けると何かを放りこまれた。

「うんま。芋?」

「里芋。煮てみた」

「凄ぉい。先輩。赤坂の料亭で働く板前になれますって!」

 机を挟んだ真向かいで、先輩は自身が持ち込んだ大きめの四角い弁当を広げていた。

「生憎。俺はパティシエになる予定なんで板前は拒否する」

「だって卵焼きもタコさんウィンナーも炊き込みご飯もこんなに美味しい。このミートボールなんて市販じゃなくて自分で捏ねて作ったんでしょ?」

 自分で弁当を作り毎日登校していた先輩は料理の腕もピカイチだ。

 家で菓子ばかり作ってると怪しまれるから、菓子以外にも料理をするのは学校の調理実習のためだと親に言っているらしいが。

「カモフラで料理人気取って頑張ってる学生を演じるためには、なんでも作ってトライするにも必要なことだからな」と、ミートボールをぱくり。

「あ、それ俺にも頂戴。んぐ。うんま! そういやパティシエって免許とかいるんでしたっけ?」

「免許はいらない。資格はあるけどな」

「じゃあ明日から菓子作って販売とかできちゃうの?」

 先輩は噴き出すように笑って首を振った。

「いや。免許がなくてもパティシエにはなれるけど、普通に菓子を作れるだけじゃダメなんだ。例えば、あそこにいる黒いメガネの生徒を見てみろよ」

 先輩が指を差すので、教室の後方を振り返った。クラスの中に一人いる委員長こと、小野木雄一おのぎゆういちである。彼は今日も次の授業の準備に余念がないようだ。机に向かって、分厚い黒メガネを指で調整しながら数学の教科書を開いている。

「小野木のやつ。次の授業の勉強をしてるみたいですけど」

「彼は生徒会長も兼務しているじゃん。でも大学受験のことを踏まえて、いつも休み時間に教室で勉強してるって確か学校新聞の生徒会長の抱負だかコーナーに書いてあった。でも彼がもし受験を止めて、急にケーキ屋を開いたらどうする?」

 先輩が変なことを言った。振り返って向き直り、俺は想像してみたが、白い服を全身に纏い首元に赤いスカーフを巻いた委員長の姿を想像したら、ちょっとウケた。

「笑える!」

「そうじゃなくて。お前は面白がって買いに行くかもしれないけど、普通の人は多分、買うのは一瞬戸惑うかもな」

「え、なんで?」

「有名なパティシエとか、評判が良いケーキ屋とか、普通は選びがちだろ?」

「まぁ、そうかも」

「クラスメートとか親族の身内ならよしみで買うこともあるだろうけどさ、名もなきケーキ屋じゃあ余程美味しくないとリピートも望めない。それに無資格じゃあ販売はできない」

「あれ。でもさっきは免許いらないって!」

「免許はいらないけど、資格はいる」

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