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第三章 コラボはムリなんですが?

#15:ついにこの時が来た

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 リスナーからの感想付きの投げ銭コメントを読み上げたあと、俺は配信を切った。

 配信を無事に終えられた。途中で映像や音声が途切れることもなく、変な輩から連投コメントもない。アクシデントがない配信だったのだから。いつもこんな配信でありたい。

 企業勢シュクラ所属のりあると、個人勢ゲーム配信で名を馳せたゼノゼノン。二人のイザコザに、更なる溝ができてしまったら炎上の火の粉は俺にも飛んでくる。だから失敗はできない配信でもあった。

 両者への和解を取り付けるのは必至だったから、りあるの事務所だけでなく、ゼノゼノンにもSNSのダイレクトメッセージを通して事前に、今回の配信でコラボ拒否問題を取り上げることは言っておいた。

 告知しなければ、ゼノゼノンは俺にも抗議をするのは目に見えている。また配信に出演してもらうには、承諾も得られることを取り付けなくてはいけない。

 何も準備をしなければゼノゼノンは配信中で、無理に声を掛ければ予定していた配信を切り上げて彼のリスナーを混乱させてしまうだろう。それは避けなくてはいけない。

 何事も本人の預かり知らぬところで俺が勝手に取り上げるのはNGだ。不幸を招く恐れがあるのだ。

「俺は灘広みてぇに相談者からの一方的な話を聞いて配信なんてできねぇしな」

 灘広は、俺とは対極にいる配信者だ。あっちは、関係各所に連絡をして裏取りをまったくせず、ぶっつけ本番で関係者にコンタクトを取るのだ。灘広からの配信に相手が出ないだけで、逃げていると灘広のリスナーには思われてしまい更に炎上を招くから、後日に訴えられたりする。

「お。俺が今やった配信で、りあるさんへの中傷が変わってきたな…ゼノゼノンに同情と批判と応援がない交ぜになって呟かれてる」

 スマホでさっとSNSを眺めた。りあるに向けられていた中傷コメより、ゼノゼノンにも非があることを配信で初めて知ったリスナーたちが驚いてる様子やショックを受けている言葉が見られた。

 ともかく、あとはシュクラの運営が、りあるへの謹慎をいつまで続けさせるか、だ。誤解は少しづつほどけていくだろうから沈静化までは時間の問題だろう。

「さて、と。午後10時過ぎか…はぁ…行くかぁ…」

 スマホの時刻を目にして、俺は重い腰を上げた。

 パティスリーまでの距離は遠くない。走れば数分で行けるけど。しかし店に行くということは近江先輩と顔を突き合わせることになる。

 わざわざ新作スイーツの試食で釣って俺を呼ぶのは答えを聞くためだ。

 先輩から告られた返事をしなくてはいけない。

 素直に言えれば良いが。

 俺には別件、ストーキング行為を受けている裏事情がある。配信者をやっている以上、いつかはあるかもしれないと多少なりとも覚悟はしていた。意外と人に言えそうで言えないのが辛い。

「怖がるといけねぇから智景にも言えてないんだよなぁ」

 しかも、俺的な問題だけでなく、先輩の店に訪れた女性客のこともある。くっきりハッキリ、バッチリ見てしまったキスシーン。あれは何なのか。

 問い質したいところだが、今の俺が言える立場ではない。

「はぁ」

 実にさまざまな問題に気が沈みそうになる。

 足取りが重いまま、俺は先輩の店の扉をゆっくり開けた。

「こ、こんばんは」

 一歩、店に入ったが、

「あれ?」

 店内の電気は点いている。

 カウンター上は綺麗に片づけられており、先輩の姿だけ見当たらない。空なのだ。

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