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第三章 コラボはムリなんですが?

#01:紛れもなく現実

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『好きなんだ。お前のことが』

 そうハッキリと告げた先輩から続けざまに『返事は急いでない』と言われたが、そのあと俺はどうやって自分の部屋に戻ったのか覚えてない。

 帰る間際にサラリと告げられて、まさかと思ったが、紛れもなく言われた言葉は現実で。

「いで!」

 頬をつねってみたが、やはり痛かった。現実である。

「いやいや嘘だろ。マジか!」

 部屋のベッド上で右にゴロゴロ、左にゴロゴロしながら、これからどうすれば良いのか頭の中をグルグル考えを張り巡らせた。

 嬉しくなかったわけではない。高校時代から淡い気持ちがなかったわけではないから、正直嬉しい。

 女子生徒からの羨望を一身に浴びて、モテまくっていた先輩に再会したとき、ちょっとこれは運命だなと実際思っていた。

 がしかし。俺は素直に喜ぶことはできない。先輩からの好意を簡単には受け取れないのだ。

「まずいな…どうしよ。先輩に何て返せば良いんだ…俺…」

 できることなら今すぐにでも、俺の悩みをリスナーたちに聞いてもらいたい。だが、そんなことできるわけもない。

 どうしたって俺の悩みは、俺がやっている配信そのもの。配信を通して得られたリスナーとの距離感。この距離感に、実はちょっとした問題が起きているのだから――。

 俺が抱えている悩みを先輩が知ったら、たとえ昔から見てくれている古参なリスナーであっても、恐らく考えが変わるだろう。

「配信者なんて辞めろよって、言われるだろうなぁ」

 俺は、ゆっくりベッドから起き上がり、スマホを起動させて自分のSNSアカウントを眺めた。

 配信を開始するたびに、リスナー向けに告知する呟きを行っているウェブアプリケーションだ。

 世の中便利なもので、SNSというコンテンツにはアカウント作成者に直接メッセージを送れる機能がある。オフにすることもできるが、万一お悩みフォームが機能しなかったり、配信画面がちゃんと映っていなかったりする場合、イレギュラー的にリスナーから指摘が貰えるよう、SNSのメッセージは開放している。

 とはいえ無暗やたらに言葉を送られてきても、しょっちゅう確認するわけにはいかないから配信上では時々SNSの俺宛にダイレクトメッセージを飛ばしてきても俺は返信しないことを告げている。

 にも関わらず、俺宛のダイレクトメッセージには〈今日の配信楽しかったよ!〉とか〈今日のアドバイスはちょっと甘すぎませんか?〉などの他愛ないものから〈付き合いたいんだけど私じゃダメですか?〉や〈鉈ちゃん。私ずっと前から好きなの。友達からで良いので連絡先教えてくれませんか?〉などの交際を申し込まれるものから〈お前の配信おもんないよ〉〈灘広の二番煎じは正直いらない〉とする批判的な中傷なるお気持ちメッセージが届くのだけど。

 数か月前、俺宛のSNSのダイレクトメッセージには、とある言葉も飛んできた。

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