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第二章 ヘイトコメを止めるには?

#12:休憩終了

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「これ」

 白いビニール袋だ。腕を突き出すように先輩は手にしていた白いビニール袋を俺の胸に当てた。

「え…なんで…ここに…部屋、教えたっけ?」

 反射的に袋を受け取って、ズシリとした重みを感じた。ビニール袋の底が熱い。

「この部屋の近隣から焼き菓子を届けるっていう注文が入ったこともあるから…その…お前の部屋は知ってた」

「でも俺、デリバリー頼んでな…この匂いカレー? てか先輩の店、飯屋じゃないじゃん!」

「今日のまかない。奢り」

「奢りって…」

 近江先輩は眉を八の字に下げていた。白い制服のままだ。営業時間は、とっくに終了しているから、賄い飯を作り詫びのデリバリーを直接持参してきたのだろう。

「悪かった。不躾なことを言って。不愉快な気持ちにさせてすまない」

「先輩…ほんと、そうですよ。俺、こんなんじゃ許しませんから」

 ビニール袋の中を覗いた。二つの白い箱が積み重ねてある。ご飯とルーは、白い容器に分けられており、食欲をそそるスパイシーな香りだ。

「宗武」

「だってデザートがないじゃないですか!」

「は?」

「パティシエなのにデザートなしなんて、あり得ないでしょ?」

 沈んでいた先輩の表情が驚いたような顔をみせた。目が見開いている。

「ざ、材料。あるけど作ったら食べに来てくれるのか?」

 俺より少しタッパがあるのに、上目遣いに見てくるから、もう許してしまいたい気持ちが湧いてきそうだった。

「後半の配信やって飯食って…からになるけど」

「分かった。作って、待ってる」

 きびすを返して先輩は戻って行った。俺は一言も、ハッキリ行くとは言ってない。

 部屋に戻り、渡された白い箱をビニール袋から出した。出来立てのカレーからは、まだ湯気が立つ。ご飯は少し冷めかけていたが、レンジでチンすれば温かさは直ぐ戻る。

「デザート食う店なのに賄いで、カレーを作るのかよ?」

 思わず一人突っ込みしてしまう。何だって昨日は、先輩に絡まれたりしたのか意味不明なのだ。

 ブッフェ会場を出たあとで、近衛百理子と一緒に居る所を見られても、普通あんなに怒るだろうか?

「いやまさか先輩に限って俺に嫉妬しっと?」

 あり得ないだろうと思ったとき、推し活に埋め尽くされた俺のキャラいっぱいの部屋が脳裏に過る。

 ガチ恋リスナーなら、あり得なくはない。けれど先輩の本気は、どこまで本気なのか。可愛い後輩を全力で応援してくれる良き先輩ではないのか。

「いや、そもそも良き先輩って何だ?」

 白い米にルーをかけて付属のスプーンを手にした。ルーの掛かったカレーを、一口食べてみる。

「うんま!」

 俺の好きな濃いめの濃厚カレーには、きちんと辛みあるスパイスが効いている。辛みのある中にも甘さをしっかり感じられる。米に絡むカレーは、まさに神。

「旨すぎ。先輩。カレー屋できるって!」

 スマホのアラーム音が鳴った。早く後半をやれという合図が俺に現実へと引き戻す。

「チッ。もう時間かぁ」

 皿を手にしたまま配信部屋に戻り、画面の前に座る。

 コメント欄はダクダクと言葉が流れていた。始めた当初では考えられないほどに、配信を見ている人たちによって自由にコメントが流れている。

〈まだ?〉〈なにしよ〉〈鉈ちゃん早よ戻れ〉〈トイレ長すぎw〉〈書いてもどうせ読まれない〉〈今きたもう終わりか?〉〈鉈ちゃん今日は読んでー!〉〈何書くか決まらん〉

 休憩時にいつも流しているフリーBGMを止めて、消音にしていた設定をオフにした。

「さぁて。戻ったぞ!」

 言葉を発すると同時に、コメント欄には〈おかえり〉の言葉が多数流れた。

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