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第二章 ヘイトコメを止めるには?
#07:今回は部屋で
しおりを挟むシェアルームとして使っている相棒の内海智景の姿はない。冷蔵庫の前を通ると手書き文字で、ゴミの分別と出す日を赤文字で書かれており、視線を更にズラすと紙のカレンダーに10月23日に赤丸が入っていた。戻りが23日になるという意味で、丸々一週間近くは隣人、旅系配信者の紫煙こと田茂晋也と箱根の強羅温泉に出かけているのだ。
一度、誘われたがキチンと断った。というか不満そうな田茂晋也の顔が、お前は来るな・お前は来るな・お前は来るな、というような怖い視線を寄越してくるから智景の提案に乗るわけにはいかなかった。
「ともかく今回は部屋で配信できるんだ。明日の準備しておかなくちゃな」
スマホに目を落とすと、近衛百理子からメールが届いていた。今回のコラボについての礼だった。律儀にホテルで撮影した動画は早く確認ができるよう、編集の真っ最中とのこと。
行動が早い。普通、撮り溜めて先の予定として公開するのが配信者界隈ではあるあるのこと。しかし、彼女が投稿する動画には中傷コメが目立つようになったから、悠長に、のんびりと編集、のんびりと投稿というわけにはいかないのだろう。
「まぁ公開されれば多分俺のリスナーがコメントを書き込みしに行くと思うし。中傷コメを書かれたら、打合せ通りに画面を撮影して証拠を取って訴えるなり、削除するなり、あるいは通報なりするしな」
早いところ配信やって、中傷コメが収まってくれると良いけど。
今回の配信は、特殊だ。いや特殊というか、悩みを聞いてあげて皆に〈中傷コメは止めよう!〉という呼び掛けをするために配信するのではないのだから。角度が違うのだ。角度が。
俺は何度か頭の中でシミュレーションした。明日の配信のために。
正直、小学校時代の同級生まめこだったとは思わなかったが、小さくて低いコロコロした彼女は今や立派な配信者だ。ヒールの分も加算されていたが、170はある筈の俺の身長より、まめこの方が高かった。すくすくと高校から成長したらしいが、俺は高校から伸びなくなった。ま、別に良いんだけど。
また中学時代の悲しい出来事も次いでに聞かされることになるとは予想外ではあった。結婚して配信の収益化もできて軌道に乗って来たのに、中傷コメントでネチネチと苛める発言をする奴らはいただけない。
ノートパソコンを起動させてウェブブラウザを画面いっぱいに表示させた。近衛百理子のチャンネルページを映し出してから、ホテルブッフェを紹介する動画を一つ再生させた。続けて、ウェブページをスクロールさせると数々のコメントが書き込まれている。
未だ、中傷コメントはそこにある。いくら削除しても新しくアカウントを作られて、中傷コメントは再度出現すると聞いた。この中傷コメントは何度書かれたのだろうか。
「暴露系配信者じゃねぇけど。49.1万人の前に配信者を悩ませる事例として紹介するのは有りなんだよなぁ。丁寧に、じっくり分かりやすく、お前のコメントを大きく引き伸ばして映してやるから楽しみにしてろよな?」
俺は、コメントの文字の画面をコツコツと叩いた。
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