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第一章 ソシャゲの課金を止めるには?
#14:休憩! - 1
しおりを挟む音声の消音設定と同時にフリーBGMへ切り替えた。椅子の背もたれに大きく体を傾けて天井を仰ぎ見る。
「ふぅ。つかれた…」
「お疲れさま」
カウンター上にガラスコップが置かれた。氷が入った水のようだった。
「た、助かる!」
すぐさま手を伸ばしてガブガブと飲んだ。ずっと喋りっぱなしだったから、もう喉がカラカラだ。
「サンキュー。先輩!」
いつの間にか近江大は、カウンター内に戻っていた。両手で食器を磨いている。
「御礼を言うのはこっちの方だよ。そんな風に配信をやってるんだなぁって間近に見れて興味深いよ」
「あ、そうだ。このスペースも急遽、借りてすみません。本当は自分の住まいに配信部屋があるんですけど、できなくなっちゃって」
「できなくなった?」
「俺、部屋に同居人がいるんですけど」
「え。女?」
「違う違う! 男。安月給で雇われた小っちゃい出版会社で出会った後輩なんですけど、パワハラが酷くて、ほぼ同時に辞めたんです。配信一本で食べていけるまで、バイトとかやって食いつなぐのに精いっぱいだからルームシェアで同居生活してるんですけど、隣人が帰国したようで今は同居人の恋人と部屋でイチャイチャしてて」
「隣人…恋人とイチャイチャ…」
先輩は静かに聞いていてくれているが、イマイチ伝わっていないようだ。
「あー、おせっせ始まっちゃって」
ハッとした先輩が、ふと柔らかく笑った。
「なるほどね」
「急いで町の会議室とか探す羽目になったんですけど、見つかるのは錦糸町とか田町とか、なんか遠いところばっかりで。だから使わせてもらえるの本当に助かるって言うか」
「そうだったのか。じゃあ、危うく今日の配信がポシャるところだったのか」
ポシャっても、オイシイけどな。定時の配信がなければリスナーの間で話題となってSNSを賑わすことになるかもしれないからだ。
遅れるくらいなら過去に何度かはある。数分、遅延しただけで、かなり心配する声もコメント欄にたくさん流れたのだから。
「ていうか、なんか…ごめんな」
「え。先輩? 何で、謝るんすか?」
カウンター内にいる先輩は、少し落ち込んだように暗く見えた。食器を磨く手も止まっている。
「昨日、宗武が配信やってるって話してくれたとき、素っ気ない返事をしたこと。メッセージをくれて、なんて返せば良いかわからなくて」
先輩の手が止まった。食器を下ろすと、真面目な顔で俺を真っすぐに見た。
「あー」
「送り届けてくれたとき、部屋、見ただろ?」
「え、あー、まぁ…」
ばっちり見た。鮮明に残る記憶には、今、俺がノートパソコンに映している一枚絵の配信部屋、鉈ちゃんがライブ実況をしている部屋を完全再現した実写版だ。
「正直、引いたよな?」
「え…いや、凄く驚いたけど、その引くっていうよりかは、配信画面内の俺のVキャラの部屋を、よくもまぁ忠実に再現できたなって感心しましたけど。部屋の配置とか完璧だったし」
「本当はさ。結構昔から見てたんだ」
「昔から?」
「7年前から」
「わーお。初期から見てくれてたんすか!」
先輩は苦笑いを浮かべて目を細めた。
「フランスに渡って、田舎にあるブーランジェリーの店で働いた話をしただろ?」
そういえば朝まで先輩と飲んだとき、酒を飲みながら話を聞いた。
フランスのリヨン駅からバスに乗り、南フランスまで向かった片田舎で赤いレンガ造りの店に美味しいパンとケーキを販売する店を見つけたと言っていた。
「あ。修行した話!」
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