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第一章 ソシャゲの課金を止めるには?

#08:予期せぬ喘ぎ声

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 凸者本人と連絡を取ったときだ。

 当日の段取りや軽い打合せをするために、事前にメールのやり取りをするのだが、その際に判明したのだ。

 ソシャゲの課金を止めるために、あらゆることを試したけどダメだったと。

 俺は慌てて返事を返した。あらゆることって何だと聞き返したら、まず他にできる無料ゲームをやったが面白くなくて直ぐ飽きた。フットサルやジムに行き、体を動かして気を紛らわせようともしたが、時間を見てしまうと、その瞬間にしか得られない限定アイテムの取得が欲しくてスマホに直ぐ触ってしまったという。

 もちろん勉強も同じで、時間を見てしまうと次の瞬間にはスマホに手が伸びていたという。

 ちなみにソシャゲを始めた頃に、付き合っていた彼女と別れることになったという。万一、ソシャゲに理解ある彼女が出来たとしても、ソシャゲでの課金を止めないと交際費の捻出ねんしゅつも難しいらしい。

 その瞬間、俺はハッとした。これは真面目に考えて、非常にまずいと思った。

 俺が思いつく助言が、ほぼほぼ通らないからだ。

 神様、仏様、智景様。凸者のために、俺ができる助言は何ですか。

 だから再び俺は訊ねたんだ。

『ともかく。悩める鉈リスに、あらゆる相談を傾聴するのが俺の良さ。時に求められた助言を与えることも、俺の務めなんだ。なぁ、智景。どうすりゃ良い?』

 ソシャゲ配信のプロは答えた。

『じゃあさぁ。凸者がハマってるソシャゲを、宗武くんもやってみて。課金をしない遊び方でも見つけたらどう?』

 かくして俺は、7日前より急遽、凸者がハマるソーシャルゲームをやることになった。

 *

 喫茶店のテーブル上に置いたスマホをじっとみる。ソシャゲのアプリに指で触れて、画面いっぱいに可愛らしいキャラクターが直ぐに飛び出した

 内海智景の助言通り、俺は配信までの7日間みっちり、ソシャゲをやってみた。わけだが。課金をしない遊び方とやらを見つけ出すことは―――結論から言って正直できなかった。ムリだったのだ。

「無課金はすぐ負ける。明らかに課金プレイヤーの方がレベルが高ぇし、5連敗で萎えちまった」

 ソシャゲは課金をしないと楽しめない。無課金だけでは満足感が得られにくい。納得できるまでプレイをするなら課金しかない、そんな風にゲーム内のプレイ中にうながして来る課金の告知に思わず指が触れてしまいたくなるよう絶妙に設計されているのだ。

「無課金に戻るなんて、ムリゲーだ。課金から離脱するには飛んでもなく強い意志を持って誘惑に勝つしかない。いや、勝つんじゃなくて、誘惑に惑わされないことに気付かなきゃいけない。これは盲点。まさに盲点…か」

 椅子から立ち上がり伝票を手に取った。気が付けば夕暮れは既に落ちていて、外は暗い。ふと店員と目が合う。

「あの…閉店30分前です」

「あ、すみません。もう出ます!」

 申し訳なさそうに女性店員は軽く会釈えしゃくした。

「そうだ。牛乳買って帰らなきゃ」

 俺が出した凸者への助言を頭の中でまとめながら、急いでスーパーに向かった。

 そしてスーパーから小走りで、マンションに戻り5階のフロアまで一気にエレベーターで上がった。

 チカチャンネルの配信は、本日定休日。連日、ライブでソシャゲ案件、料理配信をやっていたから休息日なのだ。

 10階建てマンションの5階の一番端っこが、俺と智景のルームシェアで借りている部屋になる。エレベーターが開いて大股で、部屋まで真っすぐ向かう。しかし、あと一部屋を通り過ぎるときだった。

 俺は直前で足が止まった。

「…んあっ! だ…だめだよぉ…あっあっ…あぁん!」

 卑猥ひわいあえぎが聞こえてしまった。

 まさに自分らの住む部屋の隣から。智景の声だ。

 おいおい。玄関先で、おっぱじめてる! マジかよ!

 どうやら智景の恋人、田茂晋也たもしんやが数か月ぶりに旅行先から帰還したようだった。

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