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第一章 ソシャゲの課金を止めるには?
#07:安易な予告で
しおりを挟む今夜、悩める鉈リスがライブ配信にやってくる。凸者として――課金を止めたい――とする俺に助言を求められた相談事になるが、はっきり言って無理な相談である。
なぜならソーシャルゲームは、そもそも課金して遊ぶもの。無料ゲームとして提供はされるが、課金をすることによって、より楽しむために作られているからだ。
大昔の俺は、確かにソシャゲでゲーム配信をしていた。登録者数が全然つかなくて止めたけど。
当時の俺は課金をしないで無料で遊べる範囲でソシャゲを配信上で紹介したが、コメント欄には〈課金しないで遊ぶとか草〉〈無課金つまんね〉〈無課金で遊ぶ範囲は狭くてゴミ〉などと書かれた。
思わずムカついて、それらのコメントは速攻で削除したけど。いま振り返ってみれば、それがソシャゲで課金するプレイヤーの本音だったのだろう。
「しかし俺には秘策がある!」
同居人、智景のことである。彼はソシャゲ配信と料理配信をウリにしたチカチャンネルを担っているのだ。今や登録者数63万人。俺よりも登録者数は断然多い。
毎回千円、五千円、一万円という金額に切り分けた課金パックで楽しめるソシャゲの遊び方を紹介している。料理配信はたまの気分転換でやっているが、智景のリスナーたちからは〈そんな使い方あるんだ!〉とか〈やっぱレベルアップは課金しかねぇw〉だの、チカチャンネルのコメント欄を賑わせている。
そんな智景に数日前、まさに、どストレートで答えを聞いてみた。
『なぁ、チカチャンネルの智景くん』
『え。な、なに。急にどうしたの?』
本人お気に入りの黄色のパーカーに、青い短パンから素足をだらしなく伸ばしてクッションに凭れた華奢な智景は、プリンを頬張りながら俺を見た。
『次回の相談内容がさ、ソシャゲの課金を止めるにはどうしたら良いかっていう助言を求められてんだけど。何か良いアドバイスをくれないか?』
子供っぽい普段の言動とは別物で、ソシャゲ配信をするときだけは饒舌な喋りでハキハキと課金パックを語る智景なら、課金回避の方法くらいあるだろう。有識者から答えを引き出すのが一番早いと思った。
智景は、きょとんとした大きな瞳をパチパチさせて、口からスプーンを引き抜き、
『うーん、アプリを消せば?』と、あっけらかんに答えた。
そりゃ、そうだろう。遊んでるソシャゲのアプリをスマホから消せば良い。だが、凸者は酷い課金中毒者なのだ。衝動的に消しても、また課金して遊んでしまうからこそ、俺に相談を寄越したのだ。
『それができれば苦労しねぇんだよ。ヘビースモーカーが、ニコチンパッチに切り替えたいけど、どうすれば良いか聞いてくるようなもんなんだ。直ぐに切り替えても、また元に戻っちまう』
『でもソシャゲは課金して遊ぶものだからなぁ。一日に課金する金額を決めて、超えないように遊ぶとかはできないの?』
『それもできたら俺に相談してこないって。物理的に何か止めるキッカケみたいなもんが必要だ』
『じゃあスマホを触らないで、デジタルデトックスするしかないんじゃない?』
デジタルデトックスとは、スマホの触り過ぎで睡眠不足に陥ったり、生活パターンが狂ってしまった人が正常な生活サイクルを取り戻すとき、スマホを置いて距離を取り強制的に触る機会を減らすために行われるものだ。
『そんな高尚なことができたら世の中にソシャゲ中毒は生まれてないって。なんかもっと現実的で、物理的に止められるようなものはないか考えてるんだけどさ。さっぱり思いつかなくて』
『現実的で、物理的に止められる…てか何でそんな難しい相談事を取り上げるんだよ。他にも簡単に答えられそうな相談事にすりゃあ良いのに』
それはそうなのだが、俺は当初もっと単純に考えていた。他に無料でプレイできるゲームをやるとか、気分を変えてスポーツに取り組んだりとか。あるいは将来に役立ちそうな資格勉強をしたりとか。それか異性でも同性でもパートナーを作ってデートに行くとかさ。
そうすれば自然とソシャゲからは離れられるだろうと、次回の凸者に、そんな感じの助言をするつもりだった。
だから前回の配信終わりに『次回はスマホで誰しもがハマる悩みを、次週は聞いていくからな!』と予告したのだが、安易すぎる予告で甘い判断だと知ったのは、あとのことだった。
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