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第一章 ソシャゲの課金を止めるには?

#02:酔いつぶれた先輩を

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「ふぅん。そんな配信してるんだ?」

 先輩の店のカウンターテーブルで、コンビニから調達してきた缶ビールをあおった。既に頬が赤い。互いの近況を語り合う内に楽しくなって勢いのままハイペースで酒が進んだ。

「そうっすよ。先輩。俺もうすぐ登録者数が50万人になるんです。今月、いや遅くても来月には到達すると思うんで、そうしたら店で祝ってくださいよ!」

「おお。いいぞ。店の開店は週3日だから特別に定休日に店を開けるよ」

「へへ。楽しみだなぁ。先輩からのお祝い。卒業式の日、俺に何て言ってたか覚えてます?」

 先輩の頭がふわふわと揺らいで、俺から手元の缶ビールに視線が下りた。缶を掴むと、ゆっくり持ち上げて彼は一口飲んだ。

「え…俺、何て言った?」

 どうやら覚えていないようだ。

「先輩。嬉しそうに『じゃあ行ってくるよ!』って言ってたんですよ。店ができたら連絡来るのかなぁって思ってたけど、全然来ないから。どうしてるんだろうなって」

 音信不通のまま時が立ち、10年以上も連絡を取っていなかったのだ。

 パティシエになるのは難しい道なのか、それとも別の人生に歩みを進めたのか、その後どうしているのか気にはなっていた。先輩のことだから、店ができたときには連絡を寄越してくるものだと俺は思ってた。

「製菓菓子を卒業したあとに、フランスにもちょくちょく行ってたんだ。地方も回って色んな店の甘い物を食べ歩いて、これだっていう店に出会ったんだ。そこで修行したりとかしてたら、あっという間だったな」

「へぇ。修行っすか!」

「ここは安く借りられる店だから贅沢は言えないけどさ。きちんとした店を持つ前に、まずはシェアキッチンで始めて勝負をしてみたいんだ。それで正式に自分だけの店を持てたら、宗武に連絡をしようと思ってたんだよ。そうそう。すげぇ旨いお菓子をフランスで見つけてさ――」

 先輩の話に耳を傾けながら、更に酒が進んだ。聞いてる話は甘いスイーツのことばかり。正直、そんな話よりも、俺には高校時代よりも更に一層垢ぬけた先輩の顔を見ている内に、ふと思った。

 顔だけで客は寄ってくるんだろうな、と。

「あれ…先輩。せーんぱい。あれぇ、起きない…もう寝ちゃったんですかぁ?」

 俺もベロベロである。しかしカウンターでして寝入ってしまった先輩を置いて、帰れるわけがない。

「ほらぁ。帰りますよぉ? 先輩、住所教えてくださぁい!」

 俺は、なんとか住所を聞き出した。スマホで確認すると、先輩が住まう家は、意外と近かった。俺の居住地とは真反対ではあったが、店からはそう遠くなくて。

 俺より身長が少しあるものの、そんなにデカいわけでもないから、おんぶして部屋まで連れていくことにした。

「えーと、あ…ここかな?」

 黒い玄関扉の前まで、おぶってきた先輩の部屋に辿り着く。

 この扉前で一度先輩を下ろしたけれど、頬を叩いてみても起きる様子がなくて、仕方なく先輩の鞄から鍵を取り出した。

 再度先輩をおぶってから、玄関扉を開けてみると誰とも同居、いや同棲していないのか、廊下の奥は人けがなかった。

「…そういや、誰かと付き合っているとか、そんな話はしなかったっけ…」

 女の話は皆無だった。俺も誰とも付き合っていないから、特に話すこともなかったけれど。逆に先輩の方は、誰かと付き合ったことぐらいはあるんじゃないだろうか。

 ちゃんと子供の頃からの夢を実現させて先輩の凄さには恐れ入るけど、放っておく女がいるのだろうか。

 いや誰と付き合ったって、俺は応援するけどさ。

 ともかく玄関先で先輩を下ろして転がすわけにはいかない。おぶった先輩を寝床まで運ぶまでが俺の大事なミッションだ。

 薄暗い最後の扉を開けて俺は電気を付けず、なんとなく見えるベッド上に先輩を、ゆっくり下ろした。

『着きましたよぅ。先輩…イデ!』

 ふらふらする自分自身の体がバランスを失い、俺は何かの家具に当たって足をぶつけてしまった。

 家具の配置が変わってしまったかもしれない。

 静かに寝息を立てている先輩は、ぐっすりと熟睡中。きっと明かりと点けても、大丈夫そうだと思い部屋の電気を付けた。

 パッと明かりが点いて、今ままで見えていなかった部屋の景色を目にした。

 驚愕。

 俺が配信活動で行う際、画面に登場する俺の分身、なたちゃんの2Dキャラクターで埋め尽くされている部屋だった。

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