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ずっと避けてきたこと
#185:共感した言葉 - side 時生
しおりを挟む― 出会いは4年前だそうですが、当時トロントで開かれた映画祭で知り合ったドラマ制作の関係者という話には、ちょっとびっくりですよね。ユナさんが成人を迎えれられたときに、良いお友達から真剣に交際を考えるようになったとのことですが、いつまでも末永くお幸せに、女優業もがんばってほしいと思います。我々報道部に映像のご提供を、ありがとうございました。それでは次のニュースです!
画面は直ぐに切り替わってしまった。今見たことに、頭の中の整理が追い付かない。
僕と知り合う前から、ねまき猫は彼女と会っていた。つい最近まで、両親と日本に来ていて観光を楽しんでいた。でも考えてみれば、仕事のことで日本に来るのものなのだろうかとも思う。
「それに盤さんのことは一般人だから、そっとしておいて欲しいって話なのに、何で交際相手のことは実名公表したのかな…」
ふと思い出す。ねまき猫に観光の案内をするため、待ち合わせてお茶をしたとき、左手の薬指には指輪が嵌められてあった。
シルバーリングには可愛いピンクの宝石が光っていた。僕と観光なんてして良いのか一瞬考えたが、問い詰めて気分を害するかもしれないから、指摘せずにそっとしておいたが。今思えば、僕と観光している際、ねまき猫のご両親は夫婦水入らずで楽しんでいると勝手に思っていた。もしかしたら英華と交えての話し合いだったのかもしれない。
いや、そんなことは今更どうでも良い。一番、僕が驚いているのは交際宣言のタイミングだ。離婚が報じられた直後に、交際報道が出るなんて。きっと、ねまき猫とは前々から交際していたのではないかと思う。映像の中では、成人を迎えた彼女と最近になって真剣に付き合い始めたみたいな印象で報じられていたが、なんとなく、それは嘘のように思えた。
出会いが4年前なら高校生のときから知り合いだったということになる。その頃から、二人は真剣な付き合いではなかったのだろうか。その方がしっくりくるような気がした。
通知だ。テーブル上に置いていたスマホを取り上げると、メッセージが届いていた。
【冬っち元気? そろそろ日本で報道されてるかな。あたしのこと。唯一知ってる日本人は少ないから。びっくりさせちゃったら、ごめんね! あ、もしまだニュース見てないなら、また今度話そうね。それと住まいはカナダからイギリスになるんだ! 落ち着いたら連絡するね!】
ねまき猫からの短いメッセージに、僕は即レスで返すと彼女の方からも返事が直ぐに来た。
【ニュース見たよ。びっくりした。実名で公表されてたけど、大丈夫なの?】
【配信のこと心配してくれてるんだね。ありがとう。全然だいじょうぶ。実は、あたしのことストーキングしてくるヤバいリスナーがいて、お盆に行く話を配信で度々してたんだけど嘘なんだ。先回りして空港で待ち伏せされるから。だから誰にも言わないで時期ずらして日本に来たの。名前公表は、むしろエイカが守ってくれるからしたんだよね】
【そうだったんだ。イギリスは、英華さんと住むってこと?】
【そだよ。今度の撮影が北欧であるんだ。ここだけの話だけど、アメリカの事務所は来月で卒業する。個人で活動するから、あたしとまた遊んでね!】
【え。辞めるんだ!】
【辞めるんじゃなくて卒業だから。事務所にいるとアメリカ国内のリアルイベントに呼んで貰えるけど、正直エイカと一緒にいたいから参加パスしたいんだよね。配信も元々はエイカが、あたしを見る為に始めたことだし。両親も最初は凄い反対してて、あたしがちゃんと独り立ちできるように、エイカも応援してくれた。近い内あたしの個人配信にエイカも出るから。ソシャゲ配信するんだ。楽しみにしててね!】
「そういえば盤さんがラジオ収録のとき、英華さんソシャゲするって話してた。彼女のためだったんだ…ねまきちゃんが配信始めたのは英華さんのため…」
驚愕だった。ねまき猫の返答には、やはり配信を始めたときには付き合っていたということだ。だから両親は反対していたのだろう。
最近のことじゃない。ニュースは少し歪曲されて報じられていたのだ。
別に誰が誰と付き合うなんて話は、特に気にすることじゃない。悪いことじゃない。でも、だったらもっと早くに、彼と別れて二人が付き合えば良かったじゃないかとも思った。
海外で仕事することが多いのは知ってる。彼の配信で、ときどき話していたことだから。今日という日を迎えたのも、きっと彼女が地盤を固めたから今頃の発表となったのだ。
「英華さん。いつから女性のこと好きだったんだろ…」
考えたくないことが頭の中で回りだして、ムカムカ、イライラするのを感じた。
ねまき猫に――おめでとう――って送りたいだけなのに、メッセージを打てない。こんな短文でさえ僕は紡げない。
だって心から喜べない。僕の心が沈んでるから。とてつもなく深い底に。
「食欲なくなっちゃった…」
リモコンに手を伸ばしテレビを消してから、キッチンに戻り食材を冷蔵庫に戻した。
軽い吐き気と、頭にズキズキした痛みと、多少の息苦しさを感じて床に蹲った。
いつもコレだ。英華のことを考えると、僕は苦しくなる。僕にはないものを全部持っていて、一生敵わない人だから。
僕の人生に関わることもない彼女は、もう日本にいない、そのことを考えるだけで僕は落ち着く。
ずっと、そうなれば良いと思っていた。彼の配信で彼女の話をする日が来なくなるから。いつも、いつも話をするから凄く嫌だった。そのときだけボリュームを落として見るか、耐えられなくなって一瞬だけ消したこともある。
エゴサしてSNSの中で、英華に対するヘイトを見つけては、
〈盤さんの配信また嫁の話しててイライラするから消しちゃったぁ。早く別れて消えてくんないかなぁ〉
〈英華と盤さん全然お似合いじゃないから。そもそも二人の性格って合ってないし早く嫁はそのことに気付けよw〉
〈英華の話がでたタイミングで他のチャンネル見てるから嫌なひとは対策したほうがいいよ!〉
リスナーたちの言葉に、僕は心底共感した。
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