164 / 204
望んでいること
#161:名探偵のツッコミ - side 誉史
しおりを挟む気まずさを感じながら、俺は群錠の後を付いていった。ベランダのガラス戸を完全に閉めてから、友人におそるおそる訊ねた。
「群錠。話って、なんだよ?」
「はぁ。隠れ家にいる筈の人間が何故ここにいるんだ?」
低い声で詰められた。
「そんなシリアスに聞かないでくれよ。たまたまなんだ。隠れ家がさ…」
俺は指を真上に示した。
友人は俺の指をみて「は?」と変な声を出すから、もう一度、真上に指を突き刺した。
「だから、この真上」
「え…まさかキングスの隠れ家なのか!?」
流石に驚愕の眼差しで、群錠はベランダから顔を少し突き出して上を見上げた。
「バカッ! 大声で言うなって!」
「はえー。灯台下暗しってやつか。引っ越したときに気付かなかったのか?」
「全然。なんか個人名の表札みたいなのが出てたけど、夏河さんの名前じゃなかったし」
「案外、名義は別の人で押さえた部屋なのかもな。それで、なんで隠れ家からお前の部屋に?」
上を見上げていた友人は、俺に視線を戻した。
「別に上にいても、下にいても同じだろ?」
「同じじゃない」
「はぁ? 何言ってんだ」
「何言ってんのはお前の方だろ。上にいるのと、下にいるのとでは全然意味が違うだろ?」
「意味が違うって」
「ここで静かに暮らしてるつもりでも、盤さんと一緒にいるってことは企画を潰した相手といるってことだ」
「冬くんが企画を潰したわけじゃない」
「お前が上にいなきゃいけない筈の人間を、ここに連れ込んでるだろ?」
「それは!」
「大方、一人でいるなんて心配だーとか言って無理やり引っ張り込んできたんじゃないか?」
何て勘が良いのだろう。すぐに言い返そうとしたが半歩遅れた。
「違う、そういうんじゃなくて。たまたまゴミ出しのときにバッタリ会って」
「さっきの冬くん寝起きだったよな。隠れ家にも寝室くらいあるだろ。何で、ここで寝泊りしてるんだ?」
「それは、昔話して、ゲームして、時間潰してる内に寝落ちしたから」
「答えになってない。確かベッドでないと寝覚めが悪いって前に言ってたよな。ソファはあり得ないって。でも盤さんがベッド使ったら、もう一人が寝るにはちょっと狭いだろ。ベランダに来る途中で、リビングのソファに乱れはなかった。じゃあ起きたばかりの冬くんは、どこで寝てたんだ?」
こんなところで名探偵を発揮しなくてもいいのに。いちいち答えるのが億劫に感じた。
友人は深い溜め息を吐いた。
「冬くんをどうするつもりなんだ?」
「どうするって」
「配信に戻らせないのかよ?」
「戻るさ」
「いつ?」
「それは本人次第だ」
「はぁ? じゃあ聞いてくる」
「あ、おい! 群錠! ちょっと待てって!」
戸を開けた群錠は、キッチンでジュースを飲んでいた彼に声を掛けた。
「冬くん」
「あ、群錠さん」
「君に話がある」
「話?」
「聞きたいことがあって。あ、そうだ。ついでに、できれば上の見学もしたいんだけど、チラッと覗かせてもらえる?」
「え。見学、も?」
群錠を見上げていた彼は視線を少しずらして俺を見た。少し不安そうな表情を浮かべていた。
「悪い。キングスの選手に推しがいるんだ。群錠は根っからのファンで。悪い奴じゃないんだけど。ちょっと強引なところがあって。済まない。でも別に応じる必要はないから」
「俺は冬くんとサシで話したい」
ほぼ同時だ。
「え?」
彼と俺も同じ言葉が出た。
「サシでって。おい群錠!」
「二人だけで話したいことがある。真面目な話さ。抜き打ちテストだよ。前に言ったろ。古参リスナーでもアンチかもしれないって」
それは、俺にチート行為だと濡れ衣を着せようとしたSNSでの告発者のことだ。冬珈琲チャンネルの解説動画で匿名のアカウントは直ぐ削除されたから、群錠は古参リスナーである彼の仕業ではないかと疑っていた時期がある。
「そんな前のこと、まだ気にしてたのかよ?」
「本当に純粋な古参リスナーなら、俺だけが知ってる盤さん情報の質問をしたら淀みなく答えられるのかテストしてやる。アンチなら気にしないから質問には答えられないだろうな。それに誰でもさ、理論上は古参アイコンは取得済ユーザーからアカウントごと買収したら手に入れられるからな」
「おい。犯人捜しはもう終わりって言ったよな?」
「次は誰がターゲットになるのか分からない世の中だ。だから直接、俺が確かめる。お前のチャチャが横から入るとウザいから俺と冬くんだけにしてくれ」
苛々して言い返そうとした瞬間だった。
「分かりました。話、聞きます。テストも受けます」
俺と群錠に割って入るように、大きな目が真っすぐ見上げた。
「それじゃ行ってくるから。まぁコーヒーでも淹れて、のんびり飲んでろよ。な?」
2度、群錠に肩を軽く叩かれた。
玄関に向かって歩いて行く。
俺の横を通り過ぎようした彼の細い腕を取った。
「本当に良いのか?」
「僕は大丈夫です。すぐ戻りますから!」
微笑んだ笑顔が、ふわりと消える。俺から視線を変えて静かに真っすぐと前を見つめて、駆け出した。
「あ。冬くん。別に慌てなくても大丈夫だよ。それより上って他に人いるの?」
「あ…いえ、誰もいないです」
「ふぅん。誰もいないのか。ちゃんと鍵、閉めてる?」
「閉めてます」
「鍵、持ってきた?」
「持ってます!」
ポケットから、さっと取り出すと掲げるように群錠に鍵を見せた。
「OK。それじゃ、行こうか」
玄関の扉が開かれて、友人のあとを追うように小さな背中は行ってしまった。
普段。こんな暴挙に出るような奴ではないのに、一体どういうつもりなのだろうか。
40
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
【完結】今後の鉈枠は、
ほわとじゅら
BL
高校時代に知り合う先輩後輩:
ちょっとワケありパティシエ(31歳・先輩)x傾聴力に長けた人気の相談系配信者(29歳・後輩)
▶配信活動7年目を迎える求宮宗武(もとみやむなたけ)は、自身で立ち上げた鉈(なた)チャンネルの配信者・鉈ちゃんという活動名で、今日も凸者(とつしゃ)からの悩みや相談事に耳を傾けていた。
凸者とは、配信にやってくる者を指すネット用語の一つである。宗武はMC鉈ちゃんとして、鉈のリスナー(通称:鉈リス)や、ときに鉈リスではない一般人または配信者自身からの悩みや相談事を取り上げる相談系配信者で活動していた。いまや登録者数、50万人へと到達目前だった。
そんなある日、高校時代の先輩である近江大(おうみまさる)と再会する。二つ年上の近江は、近所にあるライブキッチンで、イートインで美味しいスイーツが食べられる2か月限定の店舗OUMI・PÂTISSERIES(オウミ・パティスリー)をオープンした。
卒業以来となる近江先輩と再会祝いに飲み明かした日、宗武は酔いつぶれた先輩を家に送り届けるが、部屋に入った瞬間、そこには宗武のキャラクターが、びっしりと埋まる部屋!?
高校時代から淡い恋心を持っていた宗武は、まさかのガチ恋リスナーに変貌していた近江先輩に驚愕するとき、二人の距離感は加速度的に変化していく――リスナーx配信者の物語。
★は、リアルな配信アーカイブのエピソードです
※本作は完全フィクションのオリジナル作品です
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】
君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め
×
愛を知らない薄幸系ポメ受け
が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー
────────
※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。
※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。
※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。
※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。
学祭で女装してたら一目惚れされた。
ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…
強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない
ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。
「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」
そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。
『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』
『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』
「いや、それより自由をください!!」
俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。
「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる