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今できること
#141:れこ盤Pからの報せ - side 誉史
しおりを挟む「わかったよ。気を付ける」
『分かれば良い。じゃあな』
群錠との通話が切れた。
雑談配信まで、あと2時間ある。事務所への帰路は1時間程だから、配信をするには間に合う時間だ。
本音を言えば、あの子に呼びかけたい。初期からずっと見てくれていたのだから、もしかしたら今夜の配信を聞いてくれるかもしれない。
だが群錠に指摘されてしまった。今、冬珈琲のことを取り上げるだけで新たな火種になるかもしれないのだ。
前回のように配信で呼び出してしまったことで、チート行為だと告発した言いがかり犯ではないか、俺のリスナーたちが疑った。もうあんなことには巻き込めない。
「というか時生くんが言いがかり犯なわけないだろ。あり得ない」
振り返ってみれば、俺のチャンネルを昔から見てくれていたのだ。ライブ配信は9年前だが、動画投稿を始めたのは13年前。あの子が小学生だった筈の、あの頃は動画を見てくれていたのだろうか。
見てくれていたら、何が面白かったか、何がつまんなかったか、何がイマイチ微妙だったか、いろいろ聞いてみたい。
れこ盤だって、いろんなゲームソフトを取り上げた。何が一番刺さったか、何が一番退屈とさせたか、これからどんな企画があれば見てみたくなるのか、逆に聞いてみたい。
聞きたいことは山ほどある。
「ん。こんな時間に電話?」
駅の改札口に差し掛かった時だ。
れこ盤プロデューサー鉢野からだった。
「はい」
『あ、盤さん! あの、ちょっとお伝えしたいことがありまして』
「なんです?」
『通常なら内々に変更させていただくんですが状況が状況なんで、今回は特別に敢えて一報を入れたくてですね』
いつもよりも若干声のトーンが落ちていた。通話の奥で少し雑音が交じるようなザラツキがある。外で移動中なのだろう
「なんだよ。勿体ぶるなよ」
『あんまり大きい声で言えることじゃないんですよ。まぁでも伝えるかどうかは私の一存にあるんで、今回はお伝えします。単刀直入に言うと番組が流れました。来月の企画です』
「はぁ。来月の企画…俺なんの企画が知らないんだけど」
れこ盤は、いまや毎回、当日の収録で企画やゲストを知らされる番組制作になったから、突然流れたという話を聞かされてもピンと来ないのだ。
『ハハハ。すみません。でも流れたんで、ぶっちゃけ何の企画だったか申し上げますと、春先にやったタイデスのオースを学ぼう、という企画です』
「あー、宮田選手を呼んだ企画か」
『そうです』
「アレか。オースが、引っ掛かったとか?」
もはや俺にとっては曰く付きゲームとなったか。
『いえ違います』
「え。違うの?」
『オースは人気ゲームですからね。別にゲーム自体に罪があるものではないですから。縁起が悪いなと今は感じるかもしれませんが日が立てば、いつかは盤さんだってプレイするでしょ。問題はゲームじゃないんです』
「ゲームじゃない…じゃ問題っていうのは?」
『宮田選手です。先月まで実はゲストとして決まっていたのですが、今日付けでキングスの事務所から降りたいと言われました。いつもはキングスの事務局にいるスタッフさんと交渉するんですけど、夏河さん直々に電話が入って企画は日を改めたいと。日程は未定です。なので実質、流れたわけです』
「それって、デュエットの件が、なくなったことが影響してたりする?」
『諸にしてるでしょうね。先日の特別試合で神楽くんチームをボロクソにしたのがキングスのストリーマーじゃないですか。だから夏河さんは、ウチとの…あ、いや、もとい、れこ盤は運営が、らふTVですからね。キングスの選手やストリーマーの方々とも何かとお世話にはなっていますが、流石に空気を読んで、らふTV及び盤さんとの絡みを配慮したって感じになるかと思います』
「マジかよ」
『なので電話で敢えてお伝えさせていただいたのは、いずれ耳に入るかもしれないことですし、私が知らない内に盤さんが配信とかで話されますと、また別途必要に応じて対応せざるを得ない状況も生んでしまいますから。特に今夜は雑談配信ですよね?』
「ああ」
『だからキングス所属の人たちとも今後どういう絡みができるか分からない今、事務所所属の選手やストリーマーに対しての言及は避けていただいた方が良いかなと思いまして』
「おいおい。鉢野も同じこと言うのかよ」
『え?』
まさか群錠と、さほど変わらぬ指摘をされるとは思ってもみなかった。
「つまり俺のお気持ち配信はするなってことだな?」
『するなっていうか、別にして良いんですけど、ただ企画が流れてしまったけど宮田選手とまたオースをしたいとか、名前ですね。キングス所属の人たちの名前は取り上げないでもらえると有難いなと』
鉢野は、俺の不用意な発言で再び炎上にならないか危惧しているのだろう。
「わかったよ。気を付ける」
さきほど同じような言葉を言った気がする。だが鉢野からも同じような言葉で返ってきた。
『ああ。分かってよかったぁ。では失礼します』
深い溜め息が出た。
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