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今できること
#137:解けた誤解 - side 誉史
しおりを挟むまずい、まずい、まずいまずいまずい!
雑踏行き交う駅のコンコースの中を足早に通り過ぎた。
今まで一番あり得ない事態に遭遇しているからだ。
元はと言えば、俺が何もかも悪い。勘違いで認識してしまったのだから。
なんとかして彼に会いたい。もう一度会うことができれば良いのだが――新井相馬もまた既に親友、浅沂時生との通話に繋がらなかったのだ。
『あいつ多分。スマホ切ってるみたいです。普段だったらメッセ飛ばしたら即レスになるし、電話だって直ぐに出ます。でも返事も来ないし電話にも出ない。てか電源切ることなんて普段ないのに』
『時生くんは、今どこにいるのか分からない? 家は?』
『家は、俺ん家から歩いてすぐのところだけど、記者が家に凸してるみたいで今はキングスの隠れ家にいるんすよ』
『隠れ家? 事務所じゃなくて?』
『事務所には記者とリスナーが来てるみたいなんです。だから社長に案内された隠れ家にいるんですけど、どこにあるのかまで聞いてないんですよね。てか、そもそも一部の人だけにしか共有されてないんだと思います。俺もぜんぜん知らなかったし』
『そうなんだ。じゃあ連絡のやり取りはもうできないのか』
夏河は本気で選手にしたいと考えているのだろう。ストリーマーの一人に、わざわざ避難先を与えたのだから。
だが事務所に関わるすべてのスタッフに与えられていない情報ならば、上の人間だけが所有している物件ということだろうか。恐らく個人所有のものかもしれない。
『でもトッキーに連絡を取るときは部屋に固定電話はあると思うんで、社長に聞いたら教えてくれるかも』
そう言って直ぐスマホで夏河に電話を掛けたが不通だったらしく「だめだ出ない。誰かと話しているのか繋がりません。少し時間を置かないとダメかも」と、しょげた顔をした。
『ごめんな。俺が早とちりして迷惑を掛けて』
『あ、いえ。全然大丈夫です。なんかちょっと反応おかしいな、と思うことは色々あったけど、誤解あったわけだし』
少し声を抑えるように彼は笑った。
『そんなに、おかしいなって思うことあったかい?』
『え。ありましたよ。俺とご飯行くとか何か変だなって正直思ったし、トッキーに全然連絡取らないし、なんかちょくちょく俺に、今日はインターンあるのかとか盤さんから頻繁にメッセくるし、何で俺に聞いてくんのか謎な行動すぎて』
やばい。今更だが、俺の行動すべてが滅茶苦茶に恥ずかしく思えてきた。
『本当にすまない。自分でも、ちゃんと確認しなかったのが悪いんだ』
『てか俺とトッキーのことを大鳥さんから全部聞いてたのかと思ってたから、凄く焦ったし』
『え、大鳥から?』
『そうですよ。インターン中に俺と初めて会ったとき、大鳥さんとは元同期で、だから全部事情は知ってるって言ってたじゃないですか!』
そういえば、そんなことも言ったっけ。
『あー、あれは君たちが、どこの大学からのインターン生なのかを教えて貰ってたっていう意味だったんだけど』
『え。そうなんですか!』
『あ、うん。それで、いつまでインターンを続けるのかとかね』
『じゃ、じゃあキングスの事務所にトッキーが所属してる話は聞いてない?』
『え。大鳥から? いや、事務所に所属してることは君から直接聞いたことが初めてだったけど?』
『えー。うわぁ、そうだったのかぁ…俺はてっきり全部知られてるのかと!』
どうやら新井相馬もまた何か勘違いをしていたようだ。
『俺、あいつに言っちゃったんすよ。大鳥さんは全部分かってて俺らをインターンで採用したんだって』
『いや。大鳥は全く知らなかったと思うよ。最初から全部知ってたら特別試合のメンバーから時生くんのことは外すと思うし』
『そ、そうですよね。なんか色々おかしいなとは思ってたけど、タイデスで勝負付けるとか。だから、わざと負けろってことなのかなって思ったけど』
彼は話しながら、再びスマホを弄っていた。先ほど繋がらなかった夏河に再度、電話を掛けているようだった。
『相馬くん。あとは俺が折りをみて連絡してみるよ。これ以上、君に迷惑を掛けられないから』
『別に俺は迷惑なんて思ってないっすよ。でもトッキーが心配なんで、なるべく早めに声を掛けてやってください。あいつ、コラボ凄い楽しみにしてたんで!』
忘れてはいない。彼とはコラボの約束をした。今の状況ではできないが。
『ああ、そうする』
『トッキーのやつ。SNSに書かれてる言葉とか超気にしてるんで。表面上、ヘイトとか全然スルーしてるけど、自分と関わる配信者のことになると、すっげー気にするんです!』
『そんなに?』
『俺、聞いたんです。盤さんがもともと隣に住んでたことも』
『え。知ってたの?』
彼は深く頷いた。
『最近までは知らなかったんですよ。いつからだったかな…1~2か月前くらいかな。俺が知ったら、いずれ盤さんにコラボのお願いとかを水面下でリクエストするだろうと思って言ってくんなかったんです。それで実現しても大手とコラボすると妬む奴がSNSに書き込むからコラボする相手に迷惑が掛かるって。バカが書き込むことを気にするんで、あいつ自然にコラボの話が浮上するまでは黙ってたんです』
『そうなんだ』
『やばい。もう乗る時間だ。じゃあ俺は行くんで。俺もトッキーとか社長にコンタクト取ってみるんで、また連絡しますね!』
そういって、駅の改札口で彼と別れた。
最後まで相棒を心配して、振り回してしまった俺のことも責めることはなく、大きく腕を振り回して手を振った。
新井相馬を見送ったあと、あの子の連絡先を控えるのを忘れていたことを思い出して、また彼にメッセージを送り電話番号を貰った。だが、時生本人に掛けてみても電源が入っていないスマホには繋がらなかった。
ふとパワレコでのやり取りを思い出して、遥おばさんに電話を掛けてみた。しかし、こちらもまた繋がらなかった。
思えば彼女もまた、今回の炎上騒動で何か煽りを受けているのかもしれない。そう思うと、多方面に影響を出しているのは俺もまた渦中の人間であることを思い知らされるような気がして、溜め息が出た。
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