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今できること

#134:遅すぎた気付き 1 - side 誉史

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 実況付きの特別試合が終わった直後だ。

 SNSのゲームカテゴリーは、ウィンタースターの話だけで盛り上がっていた。伊出キャスターが、まねき猫へのインタビューした内容がSNS上で広く拡散されたが、俺は知らなかった。

 タイデス界隈では、ウィンタースターと呼ばれるプレイヤーが有名らしい。世界各国のプロゲーミングチームが欲しがっているとされるプレイヤーでもあり、また世界ランカー保持者であることも広く知れ渡っている。

 世界ランカーとは、100万人以上いるタイレル・デスゲームのプレイヤーの中で、上位100名を差す。ランキング形式でアカウントは発表されており、ウィンタースターはトップに君臨している。

「常に1位の座を譲らないタイデスのトッププレイヤーが、冬くんだったなんて。やさいゲームの自己ベスト記録も凄いけど、プロにならないの勿体ないな…」

 圧巻だったという言葉に相応しい試合は、素人同然の俺でさえ鳥肌が立つほどだった。

 3人を相手にした絶体絶命の場面で、俊敏な動きで鮮やかに1発で仕留めた鞭さばき。1試合10秒でカタを付けた、連続3試合は夢でも見ているのかと思った。

 タイデスで世界王者フェジェスタのリーダー、ミランダ・ウェブという選手がオースで鞭を振るう戦い方になるのだが、完全にコピーした戦術だと海堂選手は教えてくれた。トップ選手の行動を真似ても簡単にできることではないが、驚かされたのはそれだけではなかった。

『試合データはDLできるから実は戦術を分析することもできるけど、冬くんはさぁ、いつも対戦相手の過去プレイしたデータを全部見ててレポートにしてんだよ。国内外問わず。オースにしろ、タクティカルにしろ、相手の動きを全部頭に叩き込んでる。数百種類いるキャラに応じた技と武器選択の組み合わせだけでも何千以上の戦術があんのに、頭の中で引き出して試合に臨んでんだ。マジでやべぇ奴なんだ』

 海堂選手が一目置くほどに、凄まじい腕なのだと改めて知った。

 だが、そんな凄腕のストリーマーがウィンタースターだと知られた翌日には神楽が大昔にやらかした荒らしグループでの立ち振る舞いを問題視する声が上がり、あっという間に契約解除とする声明がレクシアズから放たれた。

 正確に言えば、契約解除のご報告なる話が世に出た1時間後に鉢野からメールが飛んできた。

[ 盤さん。お世話になっております。鉢野です。レクシアズより神楽くんの契約解除が出ました。それに伴い今月れこ盤でプロモする予定でしたが全てペンディングです。直近、今週分は放送キャンセルとなります。事後報告ですみませんが既に決定事項です。次週以降どうするかは決まり次第また連絡します!]

 緊急だからこそ電話を掛けてくるのではないかと思ったが、俺と話をする暇もないくらい対応に追われているのだ。不正侵入の件もまだ調査は続いている最中、れこ盤の番組プログラムを1か月分も調整しなければならず、且つリスナーからの問い合わせにも応じなくてはならない。普段の3倍以上労力が掛かって大変だろう。

 勿論、俺にもリスナーからの問い合わせが直に届いてる。俺宛のSNSやVC用アカウント経由で、今後の放送はどうなるのかと訊ねる質問が多く届いていた。だが番組決定は俺が権利を持っているわけじゃないから、あれこれ勝手に答えることはできない。

「今日夜中の雑談配信で、お気持ち出しておくべきか。それとも重い話をするよりも、何か一つゲームでもしておくべきか」

 デュエット曲が販売休止になった今、正直言えば、あんなにボイトレを頑張ってきたのになんだかなぁという感情はある。リスナーに歌を聴いてもらいたいという気持ちよりも――自分勝手なことではあるが――ボイトレじゃなくて普通にゲームのコラボとか、新作ゲームのレビューだとか、本来そっちの方をやっておけば良かったのにと感じてしまった。

 乗車していた電車の扉が開いた。

 東京駅に着いた。

 ぼんやり眺めていたスマホをポケットに仕舞い、さっと下車して目的の場所までやってきた。

 手をあげて声を掛けると、なんだか済まそうな顔をして彼は苦笑いをした。黒いキャップを軽く持ち上げて会釈えしゃくする。

「まさか本当に来ると思いませんでしたよ。盤さん。俺の見送りなんて別に良いのに」

 彼とはパワレコ以来の再会だったが元気そうだった。勝敗の動向次第ではワンダイフやレクシアズからの責任問題に問われかねない事態に陥っていたのだ。

「何もお咎めが無くて本当に良かったよ。まさか圧勝するとは思わなかったけどね」

「俺もどうなるかなって思ったけど、トッキーが何とかしてくれたから。ウィンタースターの無双さまさまです」 

 トッキーというのは、冬珈琲――冬くん――のことだろう。

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