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救済と決断と
#126:大嵐の前の - side 時生
しおりを挟む「お買い物に付き合ってくれてありがとうね! あと東京タワーと浅草の、えーと、なんだっけ」
「雷門?」
「そうそう! その雷門と渋谷のスクランブル交差点に案内してくれてありがとう。キングスにはタクシーで移動して素通りだったから、横断歩道を直接歩けて良かったよ! もう超楽しかった!」
空港から事務所に直行してもらうためにタクシーで奥渋にあるキングスまで来てもらい、試合後はホテルに再びタクシーで送ったのだ。だが約束したお買い物と観光案内の中で、まさか渋谷をゆっくり観光したいという要望があるとは思わなかった。
テンション高めに横断歩道を渡るだけで彼女は凄く楽しそうに、はしゃいでいた。手持ちの小さなビデオカメラをずっと回しっぱなしで終始撮影していたが、恐らくチャンネルにVlogを載せるためなのだろう。
「喜んでくれて良かった。でも不思議だなぁ」
「何が不思議なの?」
「東京タワーや浅草の雷門は超有名な観光スポットだけど、なんでか最近は渋谷の横断歩道にも外国人をよく見かけることが多いんだ。ねまきちゃんが渋谷の交差点を歩きたいって言ったとき、渋谷って、そんなに有名な観光スポットだったかなぁ、と思って」
「あ。それはね、聖地巡礼だからだよ!」
「聖地巡礼?」
「色々なドラマとか映画に、よく東京を映すシーンで渋谷が出るの。渋谷の横断歩道がある交差点が東京の象徴みたいに描かれるから、海外のインフルエンサーとかハリウッドスターとかも実は東京を観光するとき渋谷は一番最初に来たりする。あとでSNSにアップされて、それくらい有名なんだよ!」
「へぇ。そうなんだ。ねまきちゃんは、明日も観光するの?」
「するよ! 明日はね、両親とヨコハマに行くの。明後日は築地に行って、週末は京都に移動。そんで京都を観光したら次は大阪!」
「凄い回るんだね!」
「今月下旬くらいまでは日本にいるから沖縄にも行くし、北海道も行くよん!」
流石、外国人の長期休暇は長いと聞いたことがあるけれど、本当に長いとは羨ましい限りだ。
「凄いな。じゃあ2~3週間くらいはいるんだね」
「パパがね。今度というか今後かな、日本を舞台にするドラマ作るかもって言ってた。観光はロケ地を、どうするかとか考えてるんじゃないかな」
「え。ドラマ?」
「パパはネットフェリックスのドラマ部門で仕事してて、ママは字幕担当なの」
通称ネトフェ。映画やドラマを多数ネット上でストリーミング配信を行う会社だ。近年は配信するだけでなく映画やドラマ制作にも積極的に乗り出して賞を獲るニュースも良く耳にする。
「そうなんだ!」
「日本に来る前に映画やドラマを沢山見てきたの。凄い面白い作品ばかりだったわ。冬っちも見る? 日本が出てくる映画とドラマのリスト送るわよ?」
「え!」
正直、映画やドラマは普段見ない。見る習慣はないが、キラキラした目で僕を見るから断れなかった。
「うん。見てみようかな!」
「オッケー。このあと送るね。じゃあ今日は本当にいろいろありがとう。またね冬っち!」
沢山の紙袋を持ちながら、彼女は駅の改札口へ向かった。
両親と一緒に滞在しているホテルへ向かい合流するためだ。
観光道中に聞いたが明日の朝食は、ホテル内のレストランでビュッフェらしく、凄く楽しみだと言っていた。自分らのテーブルには専属のホールスタッフがついていて、朝食用のトレーを複数運んできたら、その中から食べたいものを選ぶのだという。
ホテル飯のご飯とは羨ましい限り。行く予定もないけれど、ちょっと普段とは装いの違うお洒落な服を着て泊まったり食事をしたりするのだ。キラキラとしていて、幸せが溢れている。
ふと思い出す。そんな場所に行ったのも随分、昔のことだ。
ふわっと白くて煌びやかな新婦と照れくさそうに、はにかむ新郎が前を通り過ぎた。あの頃に見た景色は今でも昨日のことのように覚えている。まだ小学生の頃の記憶なのに、景色は鮮明でハッキリとしてる。
いや、美味しかった筈なのに肉やデザートのケーキとか味に関して言えば、実はよく覚えていない。不鮮明なのだ。明確に、どんな味だったのか。
そんなことよりも結婚披露宴だったということを、あとから知って胸の奥でズキズキと痛むのを感じたっけ。
少なからず僕はショックを受けた。それがどういうものか分からなくて、考えれば苦しくなるから考えないようにした。
結局、彼のライブ配信が始まったくらいから、のめり込む様に視聴を繰り返した。
本当は見ているだけで良かった。だけど、誰かが彼と一緒に遊んだり、彼の大学に受かって報告したり、同じ配信者になってコラボしたりするのを知る度に、羨ましくて嫉妬した。
だからキングスに入ることになったとき、もしかして、いつか彼と対面する日は来るんじゃないかって考えたりもした。
だけどコラボは未だ実現しない。あと少しで出来そうなところまでは来たけれど。
「あ、携帯」
通知が届いた。彼女からのリストが到着したのだろう。
スマホを見たとき、確かに、ねまき猫からではあった。だがリストではなかった。
「え。何、えっ、どういうこと!?」
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