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救済と決断と

#123:3人目の条件は - side 時生

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 一昨日おとといだ。相馬と僕とでタイデスによるオース対決には、あと一人が必要だった。

 試合は強制参加で拒否することはできず――僕は、どうすれば?――と夏河社長に訊ねた。

『手加減なしで暴れてくれば良い。相手はレベルの確認もしなければ、大会経験者であるかどうかさえ把握しない。それに期日を設けて練習期間も挟まない。頭に血が上ってて、今すぐにでも叩きのめすって感じにも見えるから、全力で戦って分からせたら良い』

『でも神楽くんが負ければプロモ参加が取り止めになるかもしれないし、怒って訴えてくるかもしれないから相馬には不利になります!』

『プロモ参加の有無は私たちには関係ない話だから気にするところじゃない。ま、もし本当に訴えてきたらの話だけどね。レクシアズや音楽会社が、個人を訴えるというのも実際ムリがあるよ。でも万一、神楽くんがダダを捏ねてレクシアズ経由で音楽会社に文句を言って、プロモ損失の穴埋めをワンダイフが個人に訴えてくるなら、そのときは私が話を付けるから』

『ありがとうございます』

『でも条件がある。3人目のメンバーは今後の取引、またはコラボで利害が生まれない人選が良い。冬くん。頑張って今からでもメンバーを探せるかい?』

 そう告げられたのだ。

 ワンダイフとレクシアズという日本でも大きな企業が背景に絡んでいる以上、キングスの選手やストリーマー、あるいは国内活動を主とする配信者を巻き込むと、後々面倒なことになるかもしれないと夏河が懸念点を挙げた。

 勝ち負けにしても、日本企業とは無縁な立場にあるプレイヤーを選ぶことは必至で、その適任者は、僕の中で彼女しかいなかった。

「まぁ良いけどね! お陰様で、あなたがウィンタースターだって改めて知ったし、キングスの事務所にお邪魔してゲーミングルームを使わせて貰えたし、しかも対戦相手にプロが二人いるのに勝ったんだもの! 試合のあとにアメリカの事務所のスタッフが早速切り抜きをあげてて、再生数は凄く良いし登録者数も爆増中! ほんと良いこと尽くめしかない! 誘ってくれてありがとうね冬っち!」

 紅茶が運ばれてきた。店員がテラス席に、彼女の分の紅茶を置いた。英語で御礼を述べた彼女は白いマスクを取り外し形の良い小さなピンク色の唇が、白いカップに口を付けた。

「それより冬っちは学生さん…だよね?」

「そうだよ」

「やっぱりね。幾つなのかは知らないけど、こんなにベビーフェイスだとは思わなかったよ!」

「それ褒めてる?」

 彼女は声を出して笑った。

「ごめんごめん。あたしはもう夏休みに入ってるんだけど、冬っちは学校あるよね。今日は平日じゃん。大丈夫なの?」

「大丈夫。オンライン授業でいつでも受けられるから期間内にアーカイブを見れれば良いし、レポートの提出物は指定日までにドキュメントファイルで送れば良いからね」

「そうなんだ。なら良かった。じゃあ今日は、あたしの買い物に付き合ってくれるってわけだ?」

 彼女が半日観光がてらに買い物もしたいからオースに出る代わりに付き合ってというのが今回の条件なのだ。

「全然良いよ。今は気分転換したいしね」

「SNSで、いま超盛り上がってるもんね。ウィンタースターのこと。でも家にも事務所にもゲーム関係の記者が張り付いてるっていうのも大変ね。そんな状況じゃあ落ち着かないわよね」

 タイデスのオースでの試合後、コメント欄の視聴者たちが騒ぎ始めたのだ。僕のアカウント名を写した画像がSNSにあっという間に広がり、日本語のコメント欄の中に英語も混じるコメントが流れたときには特別試合の配信はクローズした。

 しかし興奮気味に語る、ねまき猫のインタビュー映像もまたSNSに広まると、ゲームカテゴリーのトレンドになるほど話が拡散された。騒ぎはSNSだけに留まらず僕に直接コンタクトを取ろうとするゲームライターなる記者たちが、キングスの事務所と何処で仕入れたのか分からないが、僕の家の前にまでやってきた。たまたま買い物に出たタイミングで帰宅する直前に気付いたが。

「あたしは日本企業のことはよくわからないけど、あなたのお友達も冬っちも、別におとがめなしなんでしょ?」

「うん。今のところはね。ほんとは負けた方が良いのかなって思ってたんだけど、夏河社長には選手もストリーマーも手を貸すことはできない代わりに、もし訴えて来たら守るって。だから全力でやってって言われたんだ」

 彼女は、ふふっと柔らかく微笑んだ。

「良い社長さんよね。ウィンタースターを守りたいっていうのもあるのかもしれないけど、あなたにキングスで、もっと活躍してもらいたいってことなんだね!」

「そうかな。僕はいろいろ夏河社長には迷惑を掛けてばかりだよ」

 プロゲーマーを辞退したのだ。ストリーマーで活動を続けると話した折に夏河社長の落胆した顔を覚えている。なのに僕を守ってくれるというのは意外だった。

「ねぇ。ちょっと幾つか聞きたいんだけど」

「なに?」

「なんでプロにはならないの?」

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