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救済と決断と
#122:猫の手 - side 時生
しおりを挟む―『冬っちに誘われて今回参加したんですよ。タイデスはタクティカルとオースの両方をやったことはあって、まぁランクは本当に低いんですけどぉ、それでも猫の手を借りたいっていうかぁ、冬っちが色々と分かりやすい指示をくれたから、それに従っただけなんです』
―『戦略といったものは具体的に、どのようなものだったのでしょうか?』
―『オースの試合中は角待ちでミーチャーを構えるだけで良いっていう指示なんですけどね。相手の影が見えたら直ぐ撃ったんですけど。でもぉ相手は格上ランクだからぁ、直ぐ撃たれちゃいましたけどね。ランクのない方も仲間にいて、あたしと同じように遮蔽物を利用して角待ち待機してたんですよ。だけど直ぐ撃たれちゃって』
―『一番の勝因って何だと思いますか?』
―『それはやっぱり、冬っちの的確な鞭さばきじゃないかな。ディザーガンは頭を狙わないと倒せない武器で、鞭は体のどこを当てても10%くらいのダメージしか入らないのに、1%以下の確立で即キルできる当たり判定があるんです。けど、1%以下だから普通は鞭を選ばないです。でも冬っちが相手の3人の1%以下の急所を的確に当てたの。明らかに勝因だね。あたしも鞭で倒せるとか普通に見たことなくて。試合のあとでリスナーさんが教えてくれたんですけど、昔のタイデス試合でオランダのミランダ・ウェブっていう選手がタクティカルの休憩中にオースで遊んでたときにやってた戦い方なんだって!』
―『なるほど。タイデスのトップ選手の戦い方だったのですか。では最後の質問です。あのう、つかぬことを聞くことになりますが。冬珈琲選手は、プロではないようなのですが、先ほどからコメント欄が非常に盛り上がっていまして、タイデスのトップランカーと呼ばれるウィンタースターというユーザーがいます。冬珈琲選手は、そのウィンタースターという方である、というのは本当なのでしょうか?』
―『あー、うん! そうみたい! てか、まさかウィンタースターだっていうのは、あたしも直前まで知らなかったの! だから凄いびっくりした! 特別試合のあるタイデスのカスタムにログインしたとき、合流したパーティーの中に見慣れないアカウントがあって、ウィンタースターの名前だったから悪ふざけなのか、憧れで似た名前で付けたのかと思ったんだけど、普通に戦歴を見たら本人だった。オンラインになってるときに見れる戦歴があって、ランクのリザルトがタイデスの最高ランクで戦った記録だった。冬っちにVCで聞いたら、ウィンタースターだったの。もう一人のメンバーの子は、全然驚いてなくて。なんか異次元に来たのかなって思った!』
―『なるほどVCで本人に確認されたのですね!』
―『オランダのフェジェスタが12億で欲しがってる世界ランカーなんだもん! あたし本当に本当に本当にびっくりした!』
タンッと両肩を叩かれて、直ぐ後ろを振り返った。
手作りだろうか。白いレース生地の付いたマスクに、ハッキリとした二重で、ニコっと笑顔を向ける彼女は「ごめんね冬っち。待たせちゃったわね! あれ。タブレットで、あたしを見てたの?」と話かけてきた。僕はタブレットを閉じて、テーブルの端に置いた。
「ねまきちゃん。本当に東京にいるんだね。びっくりしたよ」
半袖の白いブラウスとピンクのひらひらなスカートを履いた彼女は、裾を少し押さえて向かいの白い椅子に座った。
セミロングのふわふわな金髪にバッチリ二重と大きな瞳は青くて、とても綺麗だった。特徴的な茶色い丸眼鏡がお洒落だ。彼女は僕と同じくらいの背だった。以前のコラボしたときよりも格段に滑らかな日本語で、可愛らしいカナダ人である。
綺麗なピンク色に塗られた爪先でメニューブックを軽くコツコツ弾くと、近くのウェイトレスに声を掛け、紅茶を一つと言葉を投げた。
「東京に来るのは前々から決まってたからね。ママとパパで、ママの実家にお盆っていう期間に来る予定だったんだけど、パパが取ってくれたチケットが一昨日のフライトだったの。ほら。今の世の中いつフライト・キャンセルになるか分からないじゃない?」
「そっか。まだまだ感染が多いもんね」
「それよりビックリしたのは、こっちの方だからね?」
「え?」
「だって東京に着いて早々、オースのプレイが出来ないかって連絡来たときは凄く焦ったんだから! 機内モードをオフにした途端、VC経由のテキスト・メッセージを受け取って、何事って思ったもん! それに下手したら、参加できないかもしれなかったわけだし!」
「あー。うん。本当に参加してくれて助かったよ」
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