上 下
120 / 204
ケリのつけ方

#117:蚊帳の外 - side 誉史

しおりを挟む


『つまり神楽は中学時代の因縁の相手とケリを付けるためにやるってのか!』

 事の次第を説明したところで、群錠は小さく息を付いた。

「しかも、ミラー観戦ができるURLを配信の関係者に送ってるから公衆の全面で、あの子は晒し者にされる」

『おいおいおい。いくらなんでも、やり過ぎだろ! だって神楽の相手は、一般人の時生くんなんだろ?』

「そうだよ」

 認めたくないが、これは現実なのだ。できれば俺が、なんとか代わりに出場して助けてやりたい。

 しかし神楽は俺の参加など絶対認めないだろう。

『ってことは、少なくともオースは3on3だから、あと2人は必要じゃないか。ていうか、そもそも時生くんはタイデスをやってるのか?』

 少し前、ご飯に行ったときのことを思い出してみた。冬珈琲チャンネルの編集を担当していると聞いて、普段ゲームはするのか、そんな話も聞いたのだ。

「えっと確か…自分はあまりやらないって言ってた気がする。冬くんは選手の練習試合に付き合うほど上手いらしいけど、自分がどんなにやっても話にならないからゲームは見てるだけだって。ただ編集上でルールとかキャラとか分からないと解説動画なんて作れないから、NPCを使って仮試合くらいはやるって言ってた。ランク上げはやったことがないらしい」

『ほぼ素人じゃん!』

「だと思う。だからこそケリを付けるにしても、神楽がタイデス配信してたのを俺は過去に何度か見たことあるし、レベルは俺より全然上だから、まともな試合になるとも思えないんだよな」

『そりゃそうだろ。普通に考えて、素人じゃ勝てないぞ? でも万が一、神楽の方がワザと負けたりしてさ、最悪の場合、プロモの影響が出たりとかして訴えられる可能性あるんじゃないか?』

 群錠も俺と同じ考えに気付いたようだった。

「ありえる。考えたくないことだけど、俺もそう思う」

『じゃあ明日どうする?』

 結局のところ明日の14時には試合が行われるのだ。何事もなく負け試合であれば、問題をうれうこともない。だが何かモヤモヤするのを感じた。

「試合が終わったあとで、多分、田幡さんかワンダイフから連絡が来るかもしれない。週明けからのプロモの件で神楽と、どう合流するか聞かなきゃいけないと思う」

『神楽とは直接連絡を取れないのか?』

「ワンダイフの窓口からは神楽に直接連絡するなとは言われてる」

『まじか…あ、いや、むしろ掛けてくるかもしれないな』

「え?」

『向こうからのご指名でデュエットしたわけじゃん。でもリリース初日にパニックになって、盤さんに説得されて一度は帰ったのに、勝手に一般人と、ある意味サシでやることを決めたからな。試合のあと、神楽は盤さんに謝ってくると俺は思うね。《勝手に開催してすみません。でも試合は面白かったでしょ?》って。昔のケリをエンタメに変えて面白おかしく魅せた対決を、むしろ自慢してきそう』

 正直、配信者のやることではない。冬珈琲チャンネルの編集を担当しているとはいえ、ゲームに関してはほぼ素人の相手を神楽が見世物として対決するのだ。

 イベント開催後に、俺に謝ってきたところで今後のコラボなど、もはや考えられない。

「謝ってきても一緒にプロモはやりたくないな。ケリを付けるにしても、やり方が間違ってる。時生くんを犠牲にしてまで配信のエンタメにするなんて、俺は普通に見ていられない」

『落ち着けって。まだ始まってもいないんだ。怒りたくなるのも分かる。だけど試合のあとで、お前とプロモなんてやりたくないって言っちまったら、それこそ台無しになるんじゃね?』

 冷静な指摘だ。

「明日の試合。群錠はミラー観戦するのか?」

『うーん。事情を知っちゃうとなぁ…やりにくいな。オースってさ、時間制限ないじゃん。でも相手が素人なら、まぁ劣勢に見せかけるにしても明日のルールを踏まえると――』

「待て待て、明日のルール。俺はまだ知らないんだけど?」

『え、まだ知らないだ?』

「ミラー配信をやること自体、群錠から知ったばかりだからな。そもそも俺には何も来てない」

 自分宛のメールを開いてみたが何も告知は来ていなかった。らふTVやワンダイフからも、神楽からも何もない。

 特に、れこ盤のスタッフは複数人いるが、重要ポストに就いている二人からも連絡はない。

 鉢野はワクチン接種で今頃は家で療養中。会社のことを知るのは恐らく週明け。代理で立ち合いを頼まれた田幡は恐らく自社で起きた不正侵入で対応に追われているか、神楽の引き起こした件はどう対応するべきか静観という選択しか取れないだろう。

『現場にいたのに蚊帳かやの外か』

「だから頼む。ルールがあるなら教えてくれないか?」

『ルールは、3本先制勝負になる。オースは時間無制限とはいえ、試合運びによっては1試合で5分か10分ってところか。でも神楽の思惑が含まれるなら、ワザと負ける立ち回りをして15分か20分くらいに引き延ばす試合にさせるかもな。短い試合にさせないよう3試合トータルで、1時間程度。そう見るのが目安か』

 3試合も神楽の茶番に付き合わなくてはならないなんて。溜め息が出た。

 群錠には申し訳ないが、ミラー配信をする気はもうなかった。

『別にミラー配信しなくても良いかもな。俺と盤さんが配信しないなら、海堂選手はしない理由を聞いてくると思うし、いずれ話すことにはなる。となると恐らく海堂選手も配信しないと思うけど』

「悪いな」

『別に良いって。でも、どうする盤さん。配信をしないなら、明日の試合は見届ける気あるか?』

 群錠からの問いに直ぐ答えられなかった。見るかどうかは、明日の試合直前まで考えると伝えて、通話を切った。

 こんなことになるのなら最初から神楽玲央とのデュエットなんてするんじゃなかった。そう考えるまで遡り、頭の中が酷い後悔と、じめじめとした暗い気持ちになり俺は苛々した。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

処理中です...