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ケリのつけ方

#116:復讐のあり方 - side 誉史

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 うまく場をおさめたつもりだったのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。

『悪いニュースだ。来田。神楽くんから、どうしてもケリを付けたいっていうんで、タイデスのオースで決着を付けることになった。雇用者の責任として相手に取り次げって言われたよ。この試合、神楽くんが負けたらプロモは全部取りやめになるかもしれない。決着は明日だ。試合は14時になる。言っておくけど、神楽くんに連絡を取り付けてやめるよう説得するのは控えてくれ。余計に話がこじれるからさ。悪いな。お前は大事なクライアントだから伝えたけど、レクシアズからは盤さんには伝えないでくれって釘を刺されてんだ。もし情報が洩れても静観しててくれって。俺はお前に口止めしなきゃいけない立場なんだ。だから絶対動くなよ?』

 土曜の正午だ。ちょうど昼くらいを回ったタイミングだった。社会人時代からの元同僚である大鳥から電話で連絡を受けたとき、一瞬、何を言っているんだと思った。

 昨日のパワレコでは、混乱の起きた午前中、俺が神楽玲央に冷静さを取り戻すよう説得をしたのに、翌日の今に何故、決着を付けるためにゲームをするのか、さっぱり意味が分からなかった。

 あの子にも一言なにか声を掛けるべきだったのに、俺が説得している最中に大鳥は帰宅させてしまったから何も言葉を掛けられなかった。

 しかも傍にいた彼――冬くん――ですら、声を掛けられず、俺はワンダイフ・グループへの挨拶回りに向かうしかなかった。もちろん、パワレコで起きたことは直ぐ関係者に共有されて、同行した大鳥や田幡と共に俺は謝罪も含めて挨拶をした。

 特にワンダイフ・レコードの社長は憤った様子で「どういうことなんだ!」と、大鳥に詰めている場面もあった。俺が間に入って、一緒に謝罪をしたが、無論、大鳥も田幡も俺が謝罪するのは違うと言ってくれたが、パニックになった神楽に、冷静さを取り戻させるため独断で帰宅を促したのは俺なのだ。

 関係者に謝罪をすることぐらいなら、そんなに難しいことではない。一悶着があったにせよ、因縁の相手同士を引き離してしまえば、もう会うことはないだろうと思った。

 だからこそ週が明けたら、気を取り直した神楽と共にプロモを再開できれば良いと安易に考えていた。

 しかし神楽玲央の考えは違っていたようだ。彼なりにモヤモヤした中学時代からの確執がある相手――浅沂時生――と決別するためには、自分自身が得意とするフィールド上で叩きのめしたいのだろう。

「だからってゲームでケリを付けるのかよ」

 握りしめたままのスマホを見た。今すぐに神楽に連絡を取り付けて止めさせたい衝動に駆られた。だが、大鳥の立場も考えると俺が動くのはマズいだろう。レクシアズとの関係が悪い今、ワンダイフとしては事の成り行きを見守って、試合が無事に終われば良いのだ。

 恐らく、あの子なら考えるだろう。インターン先の取引相手が神楽玲央なのだから、これ以上揉めるのは良くないだろうと、きっと負ける。

「復讐を考えて仮にワザと負けた場合、逆に何でワンダイフの売り上げの為に、ワンダイフが雇ったインターン生に負けて貢献しなくちゃいけないんだって、神楽はダダをねるかもしれない。危険なのは神楽が完全にプロモを拒否って、出た損害をレクシアズ経由でワンダイフに訴えることか。あの子は窮地に立たされるかもしれない」

 最悪である。

 そんなことに、ならないようにするには、どうあっても負ける選択しかないのだ。

 スマホから通知音が届いた。群錠からのメッセージだった。

【明日のタイデス配信は時間をズラしたい要望が来てる。海堂選手が見たいオースの試合が14時からあるんだって。逆にミラー観戦もできるらしい。どうする?】

「……て、これ…え、いやまさか!」

 あり得ない考えだが、万が一ってこともある。

 いくら何でも神楽玲央は、自分のケリを配信に載せるなんてことはしない―――そんな甘い考えは、群錠に電話を掛けた直後に打ち砕かれた。

『掛けてくると思ってましたよ。明日ですけど、さっきも送ったメッセの通り、海堂選手とのオース配信は時間をズラしたいんだって。神楽がオース配信をするらしくて、身内の配信者に観戦用のURLを配りまくってるらしいぜ?』

「配りまくってる?」

『俺にも、ついさっき来たんだけど。メールでミラー配信やりませんかってレクシアズから。SNS見たら特にタイデスの選手間にも広まってた。何か凄ぇヤバい選手同士のタイマンでもあるのかって話題になってんだよ。ミラー観戦の許可は誰でもOKらしい。俺らもやる?』

 俺は、頭がくらくらした。事務所だけでなく、プロや配信勢までも巻き込んでいるとは思わなかった。

「神楽のやつ!」

『え。盤さん? 悪い。よく聞こえなかった。なんだって?』

 これは間違いなく公衆の面前で晒し者にする神楽玲央のショーなのだ。

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