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モンスター

#100:配信のハンドリングには - side 誉史

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『あ、いや…悪い。さっき送ったやつだけど』

「さっき送った…って」

 電話をする直前、群錠からのメッセージには、らふTV主催の夏イベントの開始時期が延期の旨とあった。

「開始がズレる話か?」

『そうそう。開始が来月1日からになったんだ。プロモ後になるだろ。休みを勧めた手前、今年はどうする? 配信外で参加するか?』

 去年は鬼退治がテーマで、今年は龍退治。ファンタジーな世界観、仮想都市ドゥブロクニア旧市街が舞台になる。

「いや。今回は参加を見送ろうかと思ってる。デカいイベントだから新規の登録も増えるだろうけど、俺がイベントに参加して配信やってると、恐らく“鳩”が各方面に飛ぶ」

 そもそも、らふTVのRPイベントは誰が演じているのか分からないままゲーム内で出会って仲間を作り、一緒にミッションに挑んだり、レベル上げをしたりなど他者と少しづつ関係を築くのが見所にある。なのに相手の配信のコメント欄には、自分のリスナーが《お祝いしてあげて!》《100万達成!》《相手、盤さんだよ!》などと書き込む未来が見えてしまうのだ。

『折角、大台に届きそうなのに参加しないのか。じゃあ100万を迎える記念日だけ、個人配信すれば良いんじゃね?』

「それな。それができると良いんだけど、去年確か、同じようなことがあったんだよな」

『同じようなこと?』

「50万に到達した有名な歌い手の人が鬼退治の配信は一日お休みしてて、個人配信でリスナーと50万記念を祝ってたんだ。だけど、同じ事務所の後輩くんが鬼退治しにいく配信中に『今日は先輩いないんだよなぁ』って話したあと、コメント欄に〈お祝いしに凸しに行かないの?〉とか〈おめでとうって、もう言った?〉とかね、ログインしてない先輩のことでリスナーから色々と配信中に書き込まれたんだ」

『へぇ。知らんかった。そんなことあったんだ?』

「それで翌日くらいに、歌い手の先輩が〔自分がログインをしてないとき、他の配信者のコメント欄に俺の事で書き込みに行く行為は絶対やめて!〕ってSNSに発信して、しかも、そういう鳩する奴はキモイからって発言もしたから、ちょっとしたプチ炎上騒ぎが起きたんだ」

『うわぁ。めんどくせぇ。良かったぁ俺。50万もいなくて。つか10万20万でも記念配信してねぇけど、まぁ、いますよね。世話好きで知らないことを教えてあげたくなる系のリスナー。それが教えてあげたつもりでも、余計な一言っていうか、鳩禁止の配信の意味を理解できてないリスナーは一定数いるから、まぁコントロールするのはムズいよな』

「マジでムズいと思う。鳩行為も結局、良かれと思って書き込むから、そういうことを俺はリスナーにさせたくない。だからさ。まぁまぁ知り合いも参加してるイベントだし、今回は最初から参加しないのが良いかなとは思ってる」

 年末に起きたゲーム仲間の炎上も痛い事故だ。DMやショートメッセージで、やりとりさえしなければ今頃はまだゲーム配信をのんびりできただろう。俺と最後に連絡を取ったのが《じゃあ、またな!》以来、もう返事がない。

 群錠にも同じようなことが起きなければ良いが、DMでやり取りだとかメールでさえ面倒臭がって頻繁には確認しない。極力、人と距離を取っているから炎上とは皆無だろう。

『なるほど。それで参加見送りか。だけど盤さん。対策を打っておくのは別にいいんすけど…そもそもルールを守れずコメ欄に書き込んでる奴がいたら即BANすれば良いんじゃね?』

「おいおい。応援してくれてるリスナーの誰かがBANされたら悲しいじゃないか。ていうか、今思い出したけど、お前のリスナーから時々なんとかしてくれって雑談配信のときにコメント欄で言われることがあるんだぞ?『群錠さんにBANされました。なんとか解除を頼めないでしょうか?』って!」

『あー。ムシして良いっすよ。そんなの。大分前に謎解き配信やって、ネタバレ書き込んだりするヤベー奴を即BANしたり、盤さんに聞いてみようよって俺に指示出ししてくる奴とかも即BANしてやっただけなんで』

「マジか…ネタバレに指示コメするリスナーがいたのか…知らなかった。言ってくれたら良かったのに!」

『どこぞの歌い手の先輩のように忠告をSNSに出すのか? いらないよ。んなもん。今はもうBANするのも面倒だから、うざいコメはスルーしてるけど、ゲームの配信中はもうほぼコメント見てないし。つか謎解き配信は止めたんで』

「いや良くないだろ。今度、配信で改めて言っておくよ」

 俺の知らない間に、群錠の配信でいろいろとあったようだ。

『てか、自分だって時々BANするでしょ。逆に俺のところにも何とかしてくれよって言ってくるリスナーが、たまにいますよ?』

「それって英華のファンからだろ。連投コメしてくるからBANせざるを得ないんだよ。それこそムシして良いぞ」

『いやいや今さっきBANしたら可哀想って言ったばかりじゃん。まったくもう。だったら英華さんのリスナーに関しては、今後更に俺が丁寧に巻き取るんで!』

「おう。どうぞ、どうぞ勝手に巻き取ってくれ」

 群錠のこういうところが、逆に有難い。英華英華英華・・・ばかりの連投コメには、ほとほと困っていたのだ。

「そういやRPのイベントが、1カ月も丸々開始が遅れるっていうのは、ちょっと変な話だな?」

『開始時期が遅れるのは、原因があんだよ』

「お前は運営じゃないだろ?」

『いや。こっそり試遊はしてた』

「してたのかよ!」

 おいおい。試遊期間は本参加する配信者は基本、試遊しないのが暗黙ルール上にはあるんじゃなかったっけ。

 突っ込もうとしたが先ほど適宜、的確な助言を貰ったばかり。群錠とやり合うのも面倒なので俺は考えるのを止めた。

『検証は一切やってないけどな。でも何で延期になったのか原因は知ってる』

「延期になった原因の何を知ってるんだ?」

『スタッフが、一人クビになった』

「…え、クビ?」

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