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モンスター

#99:適宜、的確な助言 - side 誉史

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「昔の俺のことをペラペラと人に喋るような子じゃないのさ。というか、冬くんとは高校から知り合ったって言ってたんだけど、神楽の件だって、そうだ。冬くんに話したのか聞いてみたら伝えてないらしい」

『神楽のことも話してないのか!』

「言えば相手のことを気にして、冬くんが将来コラボするときに悩むかもしれないから中学時代にあった諸々のことは言ってないんだって」

 別に伝えても構わないだろうと思えるのだが。厳しい目で見れば、編集担当の身に起きた悲劇は、配信者からすれば赤の他人に起きたこと。

 更に何年も経つのに個人配信すら諦めている現状を聞いてしまった。あの子に――君が配信をやれないのは可笑しいよ――とまで指摘したのだが、ハニカムように、ハハハと笑うだけだった。

『あっそう。じゃあ、だったら盤さん専属の編集担当にすりゃあ良いのでは? やりたくない編集は盤さん自身がやればいいわけで。冬くんの担当編集の替えくらい、キングスの事務所がどうにか用意するだろ?』

 その案は、考えなくもなかった。どうせなら今の環境を変えてやれば問題は解決する。俺の個人事務所で働いてくれたら、やりたくない編集は俺が引き受けたって良い。

 だが――。

「できない」

『何で?』

「冬くんは俺の古参からいてくれるリスナーでもあり、同時に、あの子にとっては高校時代からの大切な友人でもあるんだ。配信者と編集の二人三脚でやってきてる彼らを引き剥がすなんて忍びなさすぎる」

『なんだそれ。折角会えたのに、昔の話をしただけで終わったのか。それじゃ俺から言えることは何もないな。静観するしかないじゃん。ま、究極、盤さんの個人事務所で働かせてくださいって言われるのを待つか、いつでもウチに遊びにおいでよって誘うとかさ。あ、そうだよ。事務所に来てみるかって誘ったか?』

「誘ってない」

『はぁ? 何で誘わなかったんだよ。時生くんは冬くんの編集をしてるんだろ?』

「編集をしてるから何だって言うんだ?」

『俺の勝手な想像だけど、学生が高額なPC環境を使ってるとは思えない。それに事務所は選手やストリーマーにスポンサー企業のPC機材を提供することはあるけど、事務所に片足突っ込んでるだけの学生にPC機材の提供はしないんじゃないか?』

「冬くんと同じPC環境じゃない、とは言ってた。ただキングスの今のオフィスを立ち上げるときに機材搬入の手伝いというかバイトして、貯めたお金で買ったやつを今も使ってるんだって」

『なるほどね。ってことはさ、そこで編集に詳しい盤さんの強すぎPC環境を見せびら…いや、今後の参考に見てもらう機会として遊びに来てもらったら良いじゃん!』

 群錠のふざけた言い方に突っ込む気力もなかった。

 既に、あの子と話したのだ。

 マウスをプレゼントした折にPC環境について、それとなく聞いた。ブロックス、カリオ、テンキュール、ラストクール、国内生産の有名なメーカーを主に使っていると言っていた。その殆どは、群錠のPC環境と似ているなと思ったが、俺は黙っておいた。しかし編集環境に向いているPCまわりのデバイスについて談義したことだけ、飯の席で唯一、盛り上がった話だ。

 応答しないままでいると、友人は続けて詰問してきた。

『ちょっと、盤さん。聞いてる? …もしかして小学生のときに盤さんのチャンネルを全然見てなかったっていう話が響いてるわけじゃ…ないよな?』

「物凄く響いてる」

『ガチ萎えかよ!』

「俺が今まで、どれくらい努力してきたか分かるか? 風邪をひいても動画を編集したり休まずアップの設定をしたりとか、朝、昼、晩、色んな時間帯でライブ配信してみたり、長時間やる耐久企画だってしてきた。いつか再会できたときには、何が面白かったのか聞くのを物凄く楽しみにしてたんだ。結局、最新のアーカイブ2つか3つしか見てないって言われたんだ」

『うわぁ。想いが重すぎる。大勢リスナーを抱えてんのに、たった一人のリスナーじゃなかっただけの話だろ!』

「見てるか、見てないか。俺には重要なことだったんだ!」

『怒んなって。だったら逆に、これからどんな配信が良いか聞けば良いじゃん。一緒に企画を考えてもらう、とかさ』

「それはもう聞いた。旅行が好きらしい」

『旅か。いま時代的に一番まずいやつだな。仕事で仕方なく移動ならリスナーも許してくれるけど、観光するために旅行するとかやったら炎上するかもな』

「だろ? どう考えても良い案が浮かばないんだ。再会のタイミングが悪かったというか…そもそも会わずに何年も経てば、人の好みも人生観も変わるしな。俺の思ってた結果とは全然違ったけど、なんていうか肩透かしを食らった感じだ」

『ふーん。淡い恋心も消えてしまったわけか』

「おい。やめろ。俺は、親心っていうか、いやむしろ小さな弟の面倒をみてたって感じのやつで、そんなよこしまなこと考えてないから!」

『おいおい、何言ってんだ。写真まで無断で所持してた奴がよ!』

「うるさいな。写真は良い思い出を残したかっただけだ」

『何が良い思い出だよ。そもそも叶わないから自分の将来をどうでも良いと考えて、英華さんと結婚を決めたんだろうが!』

「あーうるさいな。クソ。お前に言わなきゃ良かった!」

『はいはいはい。とにかく、盤さんの淡い“期待”てやつが叶わなくて粉々になった。これからをどうするか考えすぎて沼にハマり、配信を辞めたくなる気分に苛まれてるってことだ。ま。リリースの仕事が終わったら、配信を休んで少し一人でぼーっとする時間くらい作れって!』

 まともなアドバイスだった。確かに、俺はいろいろと考えすぎているのかもしれない。群錠の指摘する沼に浸かって抜け出せない感覚が拭えなかった。

「たまには良いこと言うじゃないか」

『俺はいつでも適宜てきぎ、的確に言ってますよ…あ!』

 思わず耳からスマホを引き離した。群錠が急に変な声を上げたからだ。

「なんだよ急に!」

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