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モンスター

#97:あぁ…ぁ…( ´Д`)=з - side 誉史

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 夢にまで見た浅沂時生との再会は、俺にとって頭を叩かれたかのような衝撃的で軽く眩暈めまいを覚えるほどだった。

 ご飯に誘い早速、小学生のときに俺のチャンネルを見ていたか尋ねると、彼は答えた。

― 俺、見てないんですよね。

 当時、他に何を見ていたのか尋ねてみれば、電車が登場するアニメに夢中で視聴していたと楽しそうに語った。

 正直ショックだった。

 てっきり俺のチャンネルを見ているものだと思ったからだ。そもそも彼はリスナーではなかった。

「はぁ。俺の13年は何だったんだ」

 2008年から、らふTVで活動して13年の月日が経つ。今日まで頑張って続けてこれたのは、どこかで俺のチャンネルを見ているだろうと思ったからだ。

 次は何の企画をやろうか。面白く見てくれるだろうか。いつだって俺は、あの子のために配信や動画を投稿し続けてきた。

 なのに再会して嬉しかった筈の気持ちが彼との食事を経て帰宅するときには既に胡散うさんしていた。

 冬珈琲チャンネルの中の人――冬くん――は、古参リスナーであったのに。2人が逆の立場だったら、と―――そんな考えになり頭を振った。

「最低だな。俺は」

 携帯が震えた。鉢野――という名前が見えたが、出る気はなかった。手を伸ばす気力が湧かなかった。

 どうせ明日2日はデュエット発売日。プロモの初日だ。しかし、今は何も考えたくなかった。

 神楽玲央。彼の名前をプライベートでも耳にするとは思わなかった。

 ご飯の席で、どうして配信をやらずに編集をしているのか尋ねたときだ。彼は話してくれたのだ。

 神楽玲央とは中学時代に揉めた因縁の相手であると。神楽玲央の所為で配信をするのははばかられると懸念していたのだから――発売日を迎えても楽曲を聞いてもらえることはないだろう。

「あーもう、すべてが面倒臭いな」

 彼は淡々と語っていたが、初めてのインターン先での仕事がよりにもよって神楽玲央だと知ったのは採用されてから。苦々しい思い出を抱えながら仕事を進めるのは、きっと、きついに違いない。

 事情を知れば知るほど胸が痛くなった。やりたくない仕事なら関わらなければ良いが、学生で、しかも感染広がる世の中で将来を考えて就職活動をするのは難しいだろう。

 俺が鉢野に口を利いて、らふTVに入れることだって難しくはない。だが、ゲーム配信界隈の視聴は普段から避けていると言っていた。となると卒業後は、きっと別の道を選ぶのではないだろうか。少なくともゲーム配信界隈に身を置くことは薄そうに思えた。

 もし今のまま編集活動をやっていくならキングスの事務所に入りそうなものだが――神楽玲央みたいな100万以上ファンのいる配信者は事務所がコラボをしたいと考えるだろう。なら因縁の相手と関わらずに生きていくには、むしろ配信とは無縁な職場。

「電車が好きで鉄道会社に万一入ったところで、広告塔にVキャラ使った事例も最近あるよな。観光地なんかも現地で行う謎解きツアーかなんかにVキャラ案件を織り交ぜてる話がネットニュースにもなってた気がする。Vキャラを使わない案件って何だ…建設か?」

 土木系でも結局、建造物が出来たときに集客を図る企画でVキャラ活用だってあり得る。むしろ避けるのは困難なのではないか。

 今やレクシアズは、かなり大きい事務所だ。普通に考えれば女優を起用する方が宣伝効果も大きいのだが、例えば英華の場合だと最低でも何千万というギャラが掛かる。

 一方では、Vキャラを起用した案件は一桁は安く済む。俺が最後に担当した3年前くらいの広告案件では、見積もりの数字はそんなような数字が記載されていた。一桁でも安く済むなら、依頼主は安い方を選ぶ。しかも効果がデカければ、それだけ儲けも大きいのである。

 だからこそ今の時代に、Vキャラの案件は増加する。むしろ逆にVキャラと関わらない仕事を選ぶというのは結構難しいかもしれない。

 ふと携帯に目を落とした。いつの間にか鉢野からの着信は消えていた。だが鉢野から不在着信の通知と共に短いメッセージも、いくつか届いていた。

 開いてみると、明日の集合場所に田幡が来るという旨が記されていた。鉢野はワクチン接種日だから、リリース会場へ立ち会う代わりの人間を、田幡で立てたのだろう。

「ん。何だ?」

 スマホを机上に置こうとした瞬間、新たなメッセージの受信だ。

 今度は、群錠からだった。

 直ぐ開いた。らふTV主催のイベント開始が延期されたという内容だった。

 何も考えずに電話の受話器ボタンを押した。いつものように群錠の気怠い溜め息が聞こえた。

『ちょっと盤さん。既読が早と思ったら、やっぱり電話してきた。こういう電話は困るんで、もういい加減に――』

「あの子だった」

『は? え、なに?』

 群錠の言葉を遮って、俺は話を続けた。

「いっそ、もう配信者を辞めたい」

 唐突だったかもしれないが、それが俺の今の本音だった。

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