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モンスター

#96:ワイズとキングスの関係は - side 時生

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 電話の向こうから相馬の頷くような声が聞こえた。

『ふぅん。ワイズのあつれきって奴に会ったのか。しかもリスナーだったとはな』

「そうなんだよ。で、過去の配信を遡ってみたら3月での配信でもサブスク購読が入ってた」

『3月って、プロかストリーマーか、どっちに進むか進路決めをしたときか』

「そうそう。プロにはならないよってリスナーさんたちに宣言したときの雑談枠で、あつれきくんは4カ月目のサブスクだったよ」

『マジか。じゃあ去年12月からの配信で既にガチのリスナーだったのか!』

「何か特別な配信とかやったかなぁって考えたけど、特になくて。12月といえば、僕と相馬の誕生月じゃん。バースデー配信は普通にお祝いした雑談ってだけだし」

『いやいや。やったじゃん。オンラインに繋げないで、やさいゲームをやって2万点出してただろ。ネットに繋いでりゃあ、ランクインしたのにって皆で騒いだじゃん!』

 指摘されて何となく思い出した。そういえば、バースデー配信中に軽いノリでやさいゲームを起動して遊んだら2万点超えを叩き出したっけ。

「あー。そんなこともあったね」

『タイデスだって、ランクを聞かれてさ。上位層まであるって話したら、やって欲しいってリスナーから声が飛んできたのに1戦1戦が長くなるし雑談してる暇もない無言での個人配信になるからライブではやらないって言って、リスナーに煽ってただろ?』

「僕が?」

『そうだよ。だから中には期待する奴もいる。どんなプレイをするのか気になるからフォローだけはしとく奴』

「はぁ」

『きっと、やさいゲームにせよ、タイデスにせよ、トッキーとゲームをしたいのは間違いないと思う。俺から来月中旬か下旬にコラボしてもらえるか打診しとこうか?』

 ふと考えてしまった。

 初のコラボ第2弾ができるかもしれない。しかも相手はガチのリスナーである。だが、ねまき猫との状況とは少し違うのだ。

 相手はワイズマンのストリーマーである。タイデスの競技シーンでは、いつもキングスとバチバチにやり合うところである。僕の記憶が正しければ数年前までは、キングスではなくワイズマンが国際競技に進出していた。いつしかSNS上で昔は強かったワイズマンと言われるようになった。

 プロスポーツを見ているリスナー界隈では、何かと自分のいる事務所と比較されるから、事務所内ではワイズマンとの共同コラボというのは過去一度もない。

「あー。コラボかぁ。どうだろ。ワイズマンのストリーマーとサシでコラボできるかどうかは、分かんないな。あつれきくんがコラボOKでも事務所がOKとは限らないから。ちょっと夏河社長に聞いてみる」

『そっか。了解。あ、それで話戻るけど。何で、らふTV主催の夏イベに出られるんだっけ?』

「あ。それは小瓶を投げて退治した2日後に、責任者の田幡さんからメールで連絡が来たんだ」

『田幡さんってRPイベントのトップの人か?』

「うん。そうみたい。本当は他に仕切ってる人がいたけど感染で、交代要員として引き継いだって」

『なるほど』

「それで、僕が投げつけた小瓶がね、らふTVのエンジニアたちが追えるマーカーなんだって。だからログインしていたユーザーを突き止めることができたからって御礼を言われた」

『へぇ! じゃあ気持ち悪い野郎は、不正侵入したユーザーだったのか!』

「そうみたい。でね、今後対策を打つために調整には1カ月掛かるんだって。本番で、また変な奴に入られるか油断はできないから監視の目を増やすって。だから僕に本番でも参加して欲しんだって!」

『そうだったのか!』

「配信はなしだけどね。監視役として本番でもロールプレイをしながら、ゲーム内にログインすることになる。スタッフさんも新たに編成するみたい」

『じゃあトッキーは、当日に調合師でまたゲームサーバーに入る感じ?』

「本番何をやるかは、まだ決めてないよ」

『そっか了解。がんばれよ。もし本番で録画もできるんなら編集して後日動画アップもできるけどさ。ほら、トッキーのファンだって言ってたワイズの奴。結局、本番で再会するなら、その再会シーンをハイライトして編集できれば良い再生数を稼げそうだけどな?』

「そうだね。あ、でも向こうは本番で配信と同時に録画も回してると思うから、あつれきくんの方から編集して出しても良いですかって連絡が来るかもしれない」

『あー確かに。配信名使用の許諾で連絡が来るのは高そうだよな。んじゃあ、トッキー。ちゃんとピースピースってモーションの動きを出してあげて、うまく相手の配信に映り込んでくれよな?』

 そもそも数百人以上が参加するゲーム内は広いフィールドなのだ。あつれきと出会うには、なかなか難しいかもしれない。

「生憎、ピースをするエモートはないからね。それに敵役を相手が選んでいたら、出会うには同じ敵同士か、あるいは僕が勇者とか戦士とか魔法使いとか、メインキャラになって冒険に行かないと。でも人気だろうからログインした瞬間にメインキャラのガチャが外れたら他のキャラになるわけで、運ゲーになる。そうなると結局会えないままになる。だから出会う確率は低いと思うよ?」

『じゃあ武闘派のメインキャラを選んで当たりガチャ引いて冒険にいけよ! フィールド内を動き回れば、いつか出会える可能性はあるじゃん?』

 何故、出会うことを前提にキャラを選択しないといけないのだろうか。僕としては、できれば経験したことのないキャラでゲームを開始したい。

「あんまり深くは考えてないけど僕は敵役をやってみたいなって、ちょっと思ってるんだ。中堅ボスになって冒険者たちを蹴散らす役回り。RPGで勇者を何度もプレイしたことがあっても、なかなか敵役でやれるゲームってないし」

『あっそ。じゃあ何でも良いけどさ。腹減ったから牛丼行くわ。じゃあな』

「あ、うん。インターンの仕事、お疲れさま」

 相馬との通話が切れた。

 壁に視線を送り、カレンダーを見た。明日から7月だ。本来なら、明日の15時から《龍の棲む国》はプレイ開始。不正にアクセスされたからとはいえ、1カ月後の延期は長い。

「7月は、どうしようかな。ネットでも曲は買えるけど、盤さんのCD買いに行こうかな…」

 ふと思う。

 彼――戦士を操作する盤が、急遽本番に参加して、龍の棲む国にログイン後『CDいらんかね~どなたか買いませんかぁ?』なんて手売りで番宣し、ロールプレイをする想像をしたら、ちょっと笑える。

 彼は明日からのプロモーション活動で忙しくなる身。だからこそ、ありもしない身勝手な妄想に僕は思わず噴き出した。

「あー、盤さんの配信見たすぎるって! 逆にもしやってたら、僕、まとめ買いするのに!」

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