【完結】僕らの配信は――

ほわとじゅら

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モンスター

#93:普段見てるチャンネルは - side 時生

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 情報量が多くて、僕は頭の中が混乱しそうだった。

「ええと。全然話が見えないんだけど、盤さんに僕たちのことがもう知られてるっていうのは?」

 まずは大事なことから相馬に訊ねてみた。

『大鳥さんとは元々知り合いみたいなんだ。雇用した俺らのことを盤さんに話したみたいで。だからもう知ってるって言われた』

「それって配信活動していることも含めてってこと?」

『うーん…じゃないかな。多分、採用前に大鳥さんが業者に頼んで、俺らのことを調べたんじゃないかと思う。ほら、SNSアカウント持ってるかどうか企業が調べることってあるらしいじゃん?』

 確かに、最近の春先のニュースでも企業側が学生を対象に、裏アカウントを所持する学生がいないかSNSの身体検査を業者に頼んで調べてもらうことがあると報じられていたのを耳にはした。

 ワンダイフ・コーポレートは、ワンダイフグループの中でも子会社だが、超大手企業の傘下であり問題を起こす学生を採用することは慎重になるのだろう。

『でも俺らのことを知ってるのはチーフの大鳥さんと盤さんだけで他の従業員の人たちには知られてない、と思う。俺さ。盤さんに冬珈琲チャンネルの編集担当で事務所にも出入りしてることを他の人には言わないでって念押しで口止めを頼んだんだ。念のためね』

 言葉が直ぐに出てこなかった。インターン先の仕事は、ここ2週間近く行っていない。在宅でもできるサイト更新の確認くらいしかやっていないから、彼とは会わずに済んでいるけれど、まさか既に知られているとは思わなかった。

「でも配信活動がバレたんなら印象よくないじゃん。採用見送りになるかもしれないし。大鳥さんに何か言われなかった?」

『いや何も。でもバレたんなら、とっくに解雇されても可笑しくないと思うんだよね。インターン先で普通に仕事の指示貰ってやってるし。咎められてもない』

「そうなんだ」

『考えてみれば俺らみたいな学生採用でSNS調べないで採用は絶対ないよ』

「確かにそうかも」

『それで盤さんから何か連絡はあった?』

「え。盤さんから連絡って、特にないけど?」

『そっか。何もないのか。リリース日の直前だし忙しいのかな』

「なんで盤さんが僕に連絡をくれようとするの?」

『そりゃあ、トッキーが冬珈琲の中の人だっていうのを、盤さんはもう知ってるってことは、元々知り合いなら久々に連絡してみるかってなるんじゃないのか?』

 検証中、彼に助けてもらった経緯はある。だがオリジナル音声を活用したボイスチェンジ機能を通して女性の声で少し話をしたくらいだ。あのときは男であることは告げたけれど、冬珈琲であることは告げなかった。僕であることを彼は知らない。しかし相馬の言うことが正しければ、彼はとっくに僕のことを把握していて、連絡は敢えて控えてくれたということになるのだろうか。

「あー…うーん…どうだろ。特に何も連絡ないから分からないな」

『その内、落ち着いたらあるかもな』

「そう、だね。あ、それで、ご飯して、マウスを買ってもらったっていうのは?」

『ああ、それは。インターン終わったあとにさ電気店行って、マウスを買おうとしたんだよ。予約した新しいマウスが来るまでの繋ぎ用に。それで電気店で盤さんと偶然会って買ってくれたんだよ。ご飯も奢ってくれたんだけど、編集大変だねって労ってくれた。あの人、配信歴長いじゃん。こんな一個人の編集スタッフにも優しくしてくれて、マジで神対応だよな』

「そうなんだ。変なこと聞くけど、根掘り葉掘り聞かれた?」

『あ、俺? うーん。どんなチャンネルをいつも見てるか聞かれたくらいかな。あ、そうだ。もう一つ、トッキーに言ってないことがあるんだった』

 急に話が変わった。相馬は、今更言うのは申し訳ないと更に謝罪してきた。

「言ってないって。なにを?」

『俺さ。盤さんの配信、殆ど一切見てないんだわ』

「え?」

『いやさ。トッキーが事務所に所属して俺が編集担当することになった日から、トッキーが誰かとゲームをしたりコラボをしたりするときは、軽く相手を調べることはしてるんだ。でも糸重のことがあるからさ。ゲーム配信系界隈は前のめりに見てないんだよ。人のゲーム実況配信も実況動画のアーカイブもね。ほぼ見てない。トッキーほど古参て呼ばれるくらい全然見てないんだ。だから盤さんのことは超大手だし、2つか3つくらいのアーカイブは見たけどさ』

「そうだったんだ。知らなかった」

 いつも雑談をするときに、相馬とはゲーム配信者の話をして、よく盛り上がった。海堂先輩や宮田先輩が、他の事務所との配信者と絡むこともあり僕は色々なゲーム配信を見たりしていた。あれが面白い、これが面白いと相馬に話すたび「面白いよな」と言って、いつも頷いてくれていた。

 でもそうではなかったらしい。僕に合わせて話を聞いてくれていたのだ。

「相馬は、いつもどんな配信を見てるの?」

『いつも俺が見てる配信はさ、こんな感染だらけの世の中なのに世界中に旅してる配信者って一定数いるじゃん。凄いなって、つい見ちゃうんだ。あと外国の景色を見ながらご飯食べるのも好きなんだ。空港のBGMというか環境音とかな結構好きだぜ。コンビニの弁当を食いながら、羽田とか成田のライブ映像見て、空港の環境音流すとマジで空弁食ってる気になるっていうか。そういうのが好きなんだよな』

 初めてだ。相馬の好むチャンネルが旅系だったなんて。電車やバスに乗るのも好きで、移動する景色は見てて飽きないらしい。夢は海外に納品された日本製の鉄道に乗ることらしいが、そんな話を聞くのも初耳だった。

『悪い。俺ばっかり話ちまって。ここんとこ、トッキーとはあんま話してなかったから…ていうか、どこまで話して良いか、ずっと悩んでた。これで他に言うことはないし、言えてスッキリしたぜ』

「うん。話してくれてありがとう」

『でさ、さっき配信途中まで聞いてたんだけど、らふTVのイベントに出られるって話、それいつ決まったんだ?』

「あ『龍の棲む国』のRPイベントのことだね。えっと昨日なんだけど」

『マジか。で、初日から配信やんの?』

「いや、配信はできない。登録者数5万人に届いてないから」

『え。でも、なんで出られるんだ?』

 僕が出られることになったのは、少し特殊なのだ。

「あ、さっきの配信では言わなかったんだけど。実は検証を暴力行為で邪魔してきたキャラの出現があって」

『まじかよ。キモい奴がいたってこと?』

「うん。僕はギリギリ大丈夫だったんだけど。被害者が出たんだ」

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