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モンスター

#91:この根深い問題は - side 時生

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 何だって?

「待って。相馬の同級生って、盤さんと今度デュエット出す神楽玲央くんってこと?」

『ああ。その神楽玲央に、脅されてる』

「脅されてるって…え?」

『有名になったら潰してやるって言われたんだ』

「え、どういうこと?」

『全部あいつの勘違いなんだけど。あいつは……ごめん。トッキーにとっては意味不明だよな』

 全く意味不明だ。

 神楽玲央に脅されてるという話だけでも、信じられない話だった。

「うん。ゆっくりで、いいよ。それで?」

 まず話を聞いてみないと判断できないだろう。

 相馬は、ゆっくりと昔を振り返るように、ポツポツと話出した。

『中学2年の時さ。英語の小テストがあって』

「小テスト」

『うん。仲間内で見せあいっこするのが普通にあったんだ。誰が一番、得点が高かったか。みたいなさ』

 僕も中学時代は、クラスメートたちと返却されたテストの見せあいっこをしたことがある。優劣を付ける得点の見せあいは、ちょっとしたマウントの取り合いになるのだが、一番成績が悪かったらゴミ当番を代わりに引き受けるものだった。

『それで一番得点が低いやつがジュースを奢るっていうのがあって。それで一人、結果を見せたくないってやつがいたんだ。だけど一人を除いて皆んな見せあいっこしたから見せろよってなるじゃん。でも全然見せてくれなくて』

 どうやら相馬の中学では、誰が奢るかで競い合い、得点の見せあいに応じなかった者がいたらしい。

『結局そいつは見せなかったんだけど、翌日休んだんだ。そうしたら糸重いとしげが…あー、神楽玲央の本名のことなんだけど。昨日、新井くん達が小テストで見せたくないって言ってるのに、ムリにテストを取り上げようと揉めてたから今日休んでるっていうのを言ったんだよ。朝の出席を取るときにさ。糸重が先生に言ったんだ。それで揉めるのは良くないぞって先生に注意されてさ』

 他愛のない中学時代の朝の話のようだ。だが昨日のことのように語るのは恐らく相馬にとって記憶に強く残るほど嫌な出来事なのだろう。

『んで、翌々日に、登校してきたんだよ。休んでたのは風邪って学校には伝えてたみたいなんだけど。実際に風邪だったかどうかは分からない。でも俺ら険悪になってて。小テストのこと見せられなくてゴメンって謝ってきたんだけど、その…話しかけられても、一日無視したんだ。金曜だったから週末を挟んで、しゃーなし週明けに話つけるかって、なったんだけど。そいつ、学校に来なかったんだ。というか引っ越したんだ』

「小テストを見せなかった同級生が引っ越したの?」

『ああ。そうしたら糸重の奴が、お前らが苛めたから引っ越しちゃったじゃん。お前ら最低だって指摘してきて。んで喧嘩になった』

「あー。そうなんだ」

 きっと神楽は正義感を持って、相馬のグループに抗議したのだろう。

『最悪だったのが、糸重は本名で動画チャンネルを持っててさ。学校で、あったことを動画で自分を撮って話したんだ。で、自分のチャンネルに投稿した。素顔を晒して投稿してたから、動画をみた視聴者からのコメントはかなり殺到したんだ。学校名もクラスメートの名前も、イニシャルで言うんじゃなくて晒してしまえば良いのにっていうコメントも多かった』

「うわぁ。相馬たちのグループが、苛めで仲間の一人を引っ越しに追いやった、ていう告発動画を投稿しちゃったのか…でも、そんなことしたら」

『そうさ。動画を見たクラスメイトから親に伝わって、次に親から学校の先生に直ぐ知られたよ。で、最後は教育委員会にまで伝わった。結局、教育委員会側が子供による勝手な投稿を問題視した。学校名も個人名もイニシャルだったから、名指しこそしてないけど、糸重は自分の部屋を晒してゲーム投稿したり、近所でカード買ったりガチャしたり、普段から居場所が特定されかねない動画を撮っては投稿してたんだ』

「うわぁ…まじ…」

『だから学校を特定されるのも時間の問題で、チャンネル運営を止めないと退学にするって話になった』

「え、退学!?」

『俺じゃなくて、糸重がね。それで糸重のチャンネルは、削除されたんだ』

 相馬の話は、自身の過去を話している筈なのに知られざる神楽玲央の過去でもあるのだ。

 高校時代から知り合った相馬は、小学校の時の話はチラホラと聞いたことはあったが、中学時代の話は殆ど聞いたことがなかった。

 相馬は話を続けた。

『それで卒業式のときに言われたんだ。糸重に。お前らのせいでチャンネルは消えた。お前らがしたことは絶対に許されることじゃない。一生許さない。有名になったら俺が潰してやるからなって』

 だからだ。相馬はネット活動をしない。

 配信をやらない理由が、昔のことで尾を引いていたからなのだ。

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