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ファンタジックな運命

#79:さっそく僕は異世界に行ってみたけど普通にヤバかった件 4 - side 時生

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『パートナーって、え。何?』

 そう言葉を繰り返した彼は紙の束に視線を向けてから顔を上げた。

『もしかして95番目のこと?』

「それです。さっきの人、それを無理やりしてこようとしたんです」

『さっきのって、人に化けたモンスターに襲われてたんじゃなくて?』

 どうやら、いまいち説明が足りていなかったようだ。彼はゲームの中で自然発生的に生じたアクシデントの一つだと思って助けてくれたようだ。

「どういう理由で入り込んだのか分からないけど、ゲーム内に勝手に入り込んで新機能を試すとか言って抵抗したら殴られたんです」

『入り込んだって、プレイヤーだったのか…でも新機能を知ってたっていうのは…』

 何事かとブツブツと呟く彼は、何かを打ち込んでいるようだった。キーボードを叩く音がカタカタとオープンVCから聞こえた。

「盤さん。もうパートナーっていますか?」

『いやいないよ。試遊といっても確認はついでにするみたいなもんだから全部はしようとは思ってなくて。戦士を選択するバグ回収のプレイヤーは他にもいるだろうからね。あ、ダメだ。さっきの人のIDが、どれか分からないや。今ゲームにインしてる人、アウトした人の入れ替わりが激しくてログデータからは判断できないな』

 運営に通報するために倒したプレイヤーを追っていたようだ。

 薬を作る最中に、僕もログは見た。でも勝手に入り込んだ人物は、ゲーム内にインしている状態でを受けないと何度でも入り込めてしまうから厄介なのだ。次回から名前を変えてもログインできないように、現行犯で相手のPCを直接突き止めてBANするしかない。

「今の検証期間中は新機能が仮実装されていて、また現れたら被害は出てくるかもしれないです。でもパートナーが出来れば1週間くらいは他の人とはできないみたいなんで、その…なってくれると助かるんですけど」

 嘘ではない。ちらっとルールページも見たのだ。あくまでも新機能は、ひとまず試遊期間に設けたお試しと記載があった。好評であれば本配信のときに実装されるらしい。相手がいない異性のキャラクターのみを対象とするルールだ。

『…………いい、けど…俺、今日ログアウトしたら、もうインしないけど。大丈夫?』

「はい。大丈夫です。あと数日ここで作業したら私もログアウトするので。その期間に邪魔が入らなければ効率よく検証作業が進められますから」

『そっか。効率よく作業するためだね…その前に一つ聞かせて欲しいんだけど、もしかして君って中身は男?』

「…え…あ、そうですけど?」

『あ。そうなんだ。じゃあ、いいよ』

 今の間は一体、何だったのだろうか。急に性別を訊ねられた。何か、まずいことなのだろうか。まさかキャラクター操作をする中身が女性だと都合が悪いのだろうか。だとしても、彼は既に独身ではない。言い寄ってきた相手には断りを入れて回避できるだろうに――。

『えーと、パートナーって、どうやってなるんだ? あー、確認事項の注釈に書いてあるコレか。パートナーを決める場合は、エモートってやつを出して相手に受け入れてもらうと。エモートって、ポーズとか仕草のことだよな。で、エモートは、キスから始まると。なるほど?』

 またガチャガチャとキーボードを叩く音が聞こえた。彼の使うマイクは高音質だから、静かに付く吐息も拾って直ぐ近くにいるような錯覚を覚えた。

『それじゃあ、Yキーを押してもらえるかな?』

「あ、はい!」

 僕の操作するキャラクターが、彼に抱き着いて少し背伸びしながらキスをした。ピンクのハートマークが、チラチラと周囲に飛んでいる。

『しまった。甲冑のままだったね。なんかムードも何もなくて、ごめんね』

「あ、良いんですよ別に。それより何で性別を聞かれたのか、そっちの方が気になるんですけど…」

『あ、変な質問だったね。ごめん。実は前に配信外で同じようなことがあったんだ』

「同じようなこと?」

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