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大手のリアルなコラボ事情
#65:1 week later 予期しない降臨 - side 誉史
しおりを挟む―――1週間後
「何で鉢野の奴。なんも連絡して来ねぇんだ!」
苛々としながら蛇口から出る水で両手を洗った。
1週間だ。俺に対する数日収録の挟む連絡を待ってみたが、まったく音沙汰なしだった。
人とのコラボ依頼3件分の約束が日程を決められないままだ。
これはもう直接問い質すしかないだろう。そう決めて、とりあえず、先にやるべきことを終えることにした。
タオルで丁寧に手を拭い、洗面所から配信部屋に戻ると、俺の名を呼ぶリスナーからのコールコメントが飛び交っていた。
「ごめんごめん。待たせたな!」
声を掛けると温かい言葉が滝のように流れて、俺の声が聞こえたタイミングで、どっとフルーとサブスクも投げられた。
「ライトスターライトさん30フルーありがとうございます。ピラニアジェムさん25フルーありがとうございます。ラブラブライフさんサブスク40か月目ありがとうございます。ホットパンツよろしくさん25フルーありがとうございます。ぴよひこたろうさん45フルーありがとうございます。まさきちくんさん10フルーありがとうございます。ゆゆゆんさんサブスク48か月目ありがとうございます。えむちんさん35フルーありがとうございます。はい。というわけで、かなり夜の深いこんな時間までお付き合いいただき本当にありがとうございました。本日の配信はここまでとなります! ご視聴いただき―――」
いつもの決まり文句を口にした刹那だった。
俺の耳に突如、音が響いた。
ピロン♪
VCに入室する音だ。これは誰かが俺の使っているVCルームに人が入ってきたことを意味するのだが―――おいおい。人の配信に凸してくるなんて、一体どこの荒らしなんだ?
コメント欄も急に入って来たVC音の訪問客が誰なのかと、ざわついている。
何でも言い合う仲である友人の群錠でも、人の個人配信中にやってくることは流石にない。最低でも事前に連絡をきちんと入れる奴なのだ。一応、英華にもVCアカウントは知らせているけれど今まで一度だってVCを使って話したことはない。恐らく使い方なんか既に忘れているだろうけれど。
となると故に俺の終わろうとする配信間際に来るのは限られている。配信を荒らしに来たアンチ。それか熱烈なリスナーだ。
通常、一般のリスナーがVCに入り込むなんてことはない。だが前に50万人登録者記念の配信の際に、VCで直接リスナーと対話する機会を設けたことがある。VCの使い方を覚えたリスナーが、どうやったら普段使っている配信用のVCルームに辿り着くのか、突き止めたのかもしれない。
考えてみたら、かなり怖いことだが「これはやってはいけないよ?」と優しく諭さなければなるまい。
そう思い、画面の端に寄せて置いたVC画面のブラウザを引き寄せると、相手の名前を目にする直前、俺は名前を呼ばれた。
『お疲れちゃああああああああん! 盤のアニキィィィ!』
クソうるさい明るいハスキーな声が耳に響いた。今日これから配信が始まる直前に待ち合わせて合流したかのような錯覚を起こしてしまいそうなほど元気な声だった。
「うわっ、うっさ! か、神楽玲央? おめーかよ!」
『そうだよ。レオちんだよ! お、久っっっっしぶりぃ!』
案の定、コメント欄もウルサイだの、耳破れるだの、耳キーンなる、などなど苦情が殺到している。
ふざけながら五月蝿すぎる自己紹介を神楽がするものだがら、俺は思わず神楽のVCの音声ボリュームを思い切り下げた。こいつは、ただでさえ甲高い声なのだ。歌い手ならではの声量があり、よく通る。ハキハキとした声がVCを通して聞こえるのは、音質の良いマイクを使っているのだろう。雑音がなくてクリアなのだが、俺にはキツかった。
「全然久しぶりじゃないよ。つい二、三週間前の大会以来だろうが。もう配信切るところなんだから、急に凸してくるんじゃない!」
コメント欄を、ふいに見た。パッと見〈え。これから配信はじまる感じ?w〉〈不意打ち合流やんw〉〈やべぇ奴きたwww〉〈おおい今日は寝られないじゃん!〉〈盤さん昼までやる感じ?〉などと好き放題に書かれている。
急なコラボ配信を期待してコメントを打つ言葉が多く流れているようにも感じた。配信終わりは離脱するリスナーもいるのに、数字は減少することなく、どんどん増加している。
神楽が配信に出たことを、俺のリスナーがきっとSNSで呟いたのだろう。
歌手活動をメインに行っている人気のVキャラなのだ。配信外に人の配信へ凸するなんて奇妙な行動は――あまりないこと――だが、先日らふTV主催で行われた、やさいゲーム大会で一緒にプレイしたチームメイト、俺と群錠、もう一人が神楽玲央だった。
大会が終わったあと、SNSではコラボをやってほしいという言葉も見られて、俺の知るリスナー界隈では大会コラボのチームロスが起きて、注目されている。
個人で配信をやってる俺はともかく、神楽は人気のVキャラ事務所レクシアズに所属している。許諾なく配信のコラボを急にするのは良くないのだが、神楽の場合は人の配信に登場するや自身は配信もしないでゲリラ的に、そのままゲームに参加してくるというツワモノでもある。事務所トップの配信者らしいが、一体どういう教育をしているのか。
そんなわけで取り扱い要注意な配信者の一人だ。
「皆に一応言っておくけど神楽とは配信予定ないです。約束してないのに突然押し掛けられてます」
『盤さん。そりゃないよ。準優勝オレたちしたじゃん。また遊ぼうって配信終わりに言ってくれたのに全然連絡くれないじゃん?』
「連絡って。君に言った言葉は社交辞令だから」
『ええええー! ひーどーい! オレをたぶらかさないでよ!』
「たぶらかしてない! そもそも深夜5時。いやもう早朝だぞ。今から配信したら俺の体が持たないしムリだから」
『えーしょうがねぇなぁあ。じゃあ、今から急遽やるコラボ配信はなしとしてぇ』
こいつの脳は一体どうなっているんだ。マジで今からコラボする気でいたのかよ!
『ともかくオレとの約束は果たして貰いますから!』
約束?
そんな約束をした覚えあっただろうか。
どこかで約束したかと思い出すように考えてみたが、まったく心当たりがなかった。
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