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大手のリアルなコラボ事情
#61:僕はもう迷わない 1 - side 時生
しおりを挟む「なぁトッキー。まさかインターンを受けるとは思わなかったんだけど。ほんとうに良いのか?」
僕に訊ねた相馬を見ると、彼は顎で指した。
てくてくと新宿都心のビル群を歩いてきた先には、20階はありそうな高めのオフィスビルを仰ぎ見る。
大学生といえば、インターン就業である。求職活動を大きく有利に進めるには、必ず通る道だ。
「新人のストリーマーとはいえ、配信を毎日やっても数十人から数百人くらいしか集まらないからね。日によって同接数にムラがあるし、大学を出る頃までに食べていける保障もない。夏河社長にはストリーマー部門に入っても食べてくのは大変だよって言われたよ。だから配信が安定するまでは、どこかに就職して仕事をやりながら配信やりますって言ったから。インターンをやるくらい全然大丈夫!」
プロゲーマーの選手とは違い、ストリーマー部門に加入していても固定給という保証が実はないのだ。キングスの選手にはある契約なのだが、ストリーマーの場合は本当に自分の力でファンを集めないといけないのである。
「そっか。社長にも話通してんなら何も心配する必要ねぇか。そりゃ良かった」
「本当はさ。編集を毎回凄く頑張ってくれている相馬には、楽をさせてあげたいなって思ってる。でもゴールデンウィークを過ぎてもコラボをやりませんかっていう誘いは全然ないでしょ?」
そう。実のところ、これが現実なのだ。
らふTVでチート解説動画の閲覧が多く再生されて、コメントを多く貰えてもコラボ依頼は全然ない。
相馬が面白く切り抜いた、ねまき猫との初コラボ動画に関しても、閲覧が多く再生されたものの、やはりコラボ依頼は来なかった。
「確かにな。俺も四方にコラボ依頼を掛けてみたけど、何だかんだでスケジュールが空いてないとかで遠回しにお断りされちまうんだよな。一応、トッキーのマネージャーとしてもあるのに、こんなにも交渉が上手くいかないのかって痛感してる」
相馬は深い溜め息を吐いた。
「ごめんね。相馬。多分だけどさ、ねまき猫さんとコラボできたのって運が良かっただけなんだよ。キングスの名前は配信界隈では有名だけど、僕は多分ね、他の配信者からは冷ややかな目で静観されてると思うんだ」
「静観?」
「うん。チートの解説動画を出してるヒーロー気取りの配信者。でも本当は言いがかりを付けてきた奴なのかもって。未だ誰なのか分かってないしね」
彼を貶めようとした犯人は以前、不明のままなのだ。
「俺はさ。ぶっちゃけプチ炎上程度くらいだと思ってた。だから次のコラボ相手も直ぐ決まるもんだと楽観してたよ。マジで爪が甘かったな」
配信者には炎上が付き物、と相馬は以前口にしていた。しかし誰でも良いからコラボをしたいと思うゲーム配信者が逆に見つからなくて落胆しているのだ。
「不甲斐なくてごめんな。盤さんとのコラボだってさ、簡単に上手く決まるものだと思ってた」
また相馬が大きく息を吐いた。
一番の目当てだった大手配信者との密かなやり取りが途絶えて、当てが外れたと感じているのだろう。
「そんなことないよ。僕は本当に嬉しかったし。多分まだ奇跡は続いているんじゃないかなって思ってる」
1万人記念の配信直後だ。僕が呆けているとき、肩を叩かれて振り返ると満面の笑みを浮かべた相馬が言った――いますぐ返事を送れ!――と。
僕は言われるまま、彼宛のVCフレンドのチャット欄を通してメッセージを送ったのだ。
【盤さん。記念配信に来ていただきありがとうございます。嬉しいです。あんなに沢山恐縮です。フルーありがとうございました。】
【冬くん。記念配信お疲れさま。準優勝できたのも君のお陰だから。フルーは好きに使ってね。】
【もしよろしければ、ですけど。遊べる都合の良い日がありましたら教えてください。今度はちゃんと事務所に話を通しておきます!】
【じゃあスケジュール確認したら折り返し連絡するね】
【了解です!】
最初は勢いで書いた僕自身のメッセージだった。フルーを贈ってもらったのに、御礼をまったく言っていなかったから。
だが2回目の返信は、相馬の考えた言葉という名の誘導に従ってメッセージを送った。
ここまでは順調な流れであった。ところが、彼からの返事は1週間が経った今も返事がないのだ。
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