【完結】僕らの配信は――

ほわとじゅら

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会えたらしたいこと

#47:本日はキングスの事務所にて 2 - side 誉史

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「うわ。なにこれ。滅茶苦茶お洒落なカフェバーじゃないか!」

 漆黒のカウンターには、革張りのスツール。竹細工で施された壁には間接照明で当てられたオレンジのライトに照らされて、耳障りではない程のジャズっぽい音楽も流れている。

「やばいな。本当に打合せスペースなのかよ」

 名建築で見かける年代物のローテーブル、肌障りの良いブラウンの革の生地で出来た長いソファと一人掛けの椅子が、品格の高いインテリアで統一されている。

 普通のオフィスビルにはない内装である。恐らく豪華なラウンジに見立てた夏河腎の趣味を再現したものではないだろうか。

 事務所への訪問前に、公式ホームページくらいはチラッと見た。こんな景色は、まったく紹介されていなかった。きっと訪問客を驚かすために、秘匿にしているのだろう。
 
「次は6階です。エレベーターが行ってしまったんで、階段だと早いから、こちらへどうぞ」

 ずんずん行くので、俺も後を付いていく。内心、写メりたかったが、恐らくどこへも投稿できないだろうし、ここはグッとこらえることにした。

「冬くんは、ここに入ってどのくらい経つんだっけ?」

「僕は2年ですね。準備生になったのは3年前だったんですけど」

 そういえば群錠が指摘していた。配信生活が2年前だと。

「準備生って、主にどんなことをやるの?」

「人によるんですけど、僕の場合はFPS部門の選手の練習に付き合ったり、選手が配信を行ったあとで、事務所のスタッフが切り抜きをする際に動画の中身を再チェックしたり、動画のタイトルの候補案を挙げたりとかしています。あとは、ゲーミングルームで機材の組み立てと設置と起動までのセットアップを手伝ったり、事務所に届いた荷物を運んだり、雑用をやったりしてます」

「へぇ。いろいろ多岐に渡るんだね。ここって新しいビルに思えるくらい凄く豪華な作りだけど」

「カフェバー凄い作りですよね。僕も毎回凄いなって思うけど、ビル自体は3年前にリノベーションしたんです。僕が高校2年のときに夏河社長に初めて会ったんですけど、そのときは工事が始まったばかりの頃でした。あの頃は新宿の雑居ビルを借りてたんですよ」

「そうなんだ。へぇ。あれ。冬くんって今いくつ?」

「僕。21です」

 若! 俺より一回り年下だ。いや、見た目からして若そうには見えたけれど、確か、宮田選手も番組内で23と言っていた。

 やはりプロゲーミングチームに所属する人たちは、年齢の若い子が多いのだろうか。

「じゃあ4年前から事務所に出入りしてたんだね。でも配信は2年前からなんだ?」

「僕は高いPCを持ってなくて、社長に提供を受けたんです。PCのレビューをしてほしって。社長はゲーミングPCのレンタル事業を今はやってるんですけど、それが事業として成り立つかどうか、まずは性能を知りたいって頼まれたんです。僕の他の準備生たちも、配信とか動画投稿もやったことがないから、一から教えて貰いました。それでレンタル事業ができるのと同時にFPSとストリーマー部門が3年前に始まって、僕も配信するようになったんです。最初の頃は、ただ性能の良いPCでゲームをするのが楽しくて、なんか配信するっていうのも考えてなかったんですけどね」

 成る程なぁ。準備生という子たちは、事業を支えるサポートを行っていたようだ。

「さて。ここが6階です。今日は選手たちの取材と撮影が全室使われているんで、いつもより人手がありますけど、普段は静かな会議室です」

 案内された会議室のフロアには、撮影機材がゴロゴロと置かれていた。簡易的な撮影スタジオが2つの部屋で行われているようだった。奥の部屋からは笑い声も聞こえてきた。

「実は、あと案内ができる部屋は、2階のゲーミングルームだけなんですけど、5階にはエンジニアと社長だけが入れるサーバールームがあって、3階と4階が社員さんが主に使うオフィスになります。ここで撮影された映像とかは4階にいる社員さんが直ぐ編集します。映像と販促物を作るのが主に4階って感じで、人事関係とか事務的な仕事は3階になります」

「成る程なぁ。全部このビルで管理できちゃうんだね」

 感心しながらフロアを眺めていた。遠くから、マスクをした二人組がやってきた。どんどん近づいてくるから、俺は思わず「あっ!」と声が出た。一人は、見知った顔だった。

「盤さんじゃないですか!」

 明るくて高い声が響く。先日、れこ盤にゲストで出演してくれた宮田篤彦選手だ。すぐ隣には仕事のできそうな男前がいる。

「誰。このおっさん?」

 男前が俺を見て指を差し宮田に訊ねた。

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