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会えたらしたいこと
#46:本日はキングスの事務所にて 1 - side 誉史
しおりを挟むプロゲーミングチームを運営する事務所に、まさか自分が来ることになるとは思わなかった。
そもそも講師打診という名目で、俺の個人事務所に訪問する機会を与えられるわけで――いつか盤さんとゲームができたら――という彼の希望を叶えることができるのではないかと目論んでいた。
しかし夏河からの思わぬ条件を強いられたのだ。返答はメールだった。
【夏河です。冬くんに講師打診を引き受けてもらいました。やさいゲームでの講師となりますが、後々、事務所の人間がウラで個人指導をしていたというのも聞こえが悪くなるといけませんので、あなたが見学という名目で来ていただけるなら、ついでに事務所でのゲーミングルームの試遊を許可します。その際、やさいゲームの指導があったとしてもウチへのメーカーから提供機材の試遊をさせてもらっていたと言えば周りも納得するかと思います。宮田も先日お世話になりましたので、盤さんの空いている日程に合わせて改めてご挨拶させていただきます。お手数ですが、ご訪問の日程を調整いただけませんでしょうか。よろしくお願いします。 夏河腎】
俺が、のちのち再び困らないように夏河が先手を打ってくれた。
ズルしてゲームの上手いプレイヤーから配信外で指導を受けていたことが、あとから知られたら、また俺に炎上騒動が起きることを懸念しての提案である。
「大会前なんて腕の上手いプレイヤーを呼んで、ちゃっかりコラボする奴だっているのにな。コラボだから指導とは違うとか言ってた配信者も確か過去にいたっけ」
恐らく過去の大会で起きた炎上云々の出来事も、ちゃんと記憶しているに違いない。
今年でチャンネル登録者数も100万人を迎えるから配慮した上で俺を呼んでくれるのだろう。
遊びに行かせてもらえるなら、こんな機会は二度とないかもしれないと思った。
プロゲーマーの集まる事務所に向かうのは、まだ人生で一度もなかった経験なのだ。むしろ興味深い。
俺はすぐ返答をした。本当は翌日にでも行きたかったが、コラボの依頼が週に4本入れていたし、新作ゲームが2本、既存ゲームのアップデートが1件あった。更に自分で編集してアップロードまでを兼ねている都合上、そんなに都合よくスケジュールを変えることができなかった。
もちろん群錠には何も言わなかった。キングスのことは群錠の方が遥かに詳しいが、言えば「俺も行きたい!」と我儘を言い出しかねない。
まぁ、今回は一人で遊びに行ってからの事後報告で良いだろう。
そう決めて一週間。楽しみにしていたキングスの事務所訪問は、豪華なロビーを目の当たりにしたとき、あまりのゴージャスなシャンデリアに見惚れてしまった。
おい。ここは、ホテルなのか?
キラキラと輝く天井を見上げていたら、声が掛かった。
「お待たせしました。盤さん」
若くて可愛い声に名を呼ばれた。聞いたことのある声だった。振り返ると、灰色のマスクをした上目遣いで俺を見る男の子がいた。チャコールグレーのカーディガンに白いシャツと青いジーンズ。二重で目が大きくて、長いまつ毛だ。ショートボブの柔らかそうな黒髪は、どころどころでピンと上向きに少し、くせ毛が跳ねていた。
「あの、冬です」
俺の胸くらいまでしかない。顔も小さくて全体的に小動物みたいだ。マスクを取ったら、もっと可愛い顔立ちをしていそうだと正直思った。
「やぁ。冬くん。こんにちは」
彼は目を伏せると「夏河社長から案内するよう言われてるんで、まずオフィスを軽く案内しますね。こちらへどうぞ」と促してくれた。
若干、微妙にだが震えていたような気もしたが、もしかして緊張してるのだろうか。
「ありがとう。冬くん」
小さな彼の背中に付いていくと、角を曲がったところでエレベーターが見えた。ロビーのシャンデリアも凄かったが、またエレベーターも凄く綺麗だった。
俺は完全に、おのぼりさんだった。目の先をキョロキョロと見回して、豪華さに見惚れた。
黒い大理石のような石造りの壁や床、白く光る上行きのガラスボタン、エレベーター上部のパネルにはデジタルでギリシャ数字が映し出されている。階層を表すのだろうが目的地に着くと一瞬で、すぐに日本語の数字に置き換わるのだ。
銅製の扉が開いた。エレベーター奥の角のコーナーには、革張りの小さな椅子のようなものが見えた。
「あれって防災用のキャビネット?」
「あ。よくご存じですね。一応、中で閉じ込められちゃった場合に備えて取り付けてあるんですよ」
彼は7階のボタンを押していた。どうやら上から順に案内してくれるようだ。
「珍しいね。アレがあるの日本だと百貨店とかホテルでたまに見かけるけど、大体は荷物置いたり、子供が座ったりしてるよね」
「あーそうなんですか? 僕、全然外出しないから他のところは良く分からないけど、でも自分が住んでるマンションにはないから、やっぱ珍しいんですかね。あ、着きました。ここが7階です。打合せスペースと、飲食スペースが一緒に併設されています」
エレベーターから降りると、お洒落なバーカウンターが見えた。良く見るといろいろなお酒が置いてある。端っこのボトル瓶には、夏河、海堂、宮田、と名前入りのタグが掛けられていた。
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