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なんとかしたい
#39:なんでこうなった? 2 - side 時生
しおりを挟む「なぁ。トッキー。複雑なのは、気持ち分らんくもない。だけど一応はさ、もうストリーマー部門に正式加入したんだ。そろそろ『ストリーマー部門になったよ! これからも応援よろしく! ありがとう!』って呟いておけよ。1万人に到達した記念と抱き合わせでさ。な?」
恐らく記念の切り抜き動画を相馬は作りたいのだろう。僕が個人活動の自粛をしている今、相馬は過去の配信データくらいしか触れないのだから暇で仕方がないのだ。
「分ったよ。あとで呟いておくよ。あ、でも。チート行為の解説動画に関することは記念動画に含めないでほしいんだ。あれは緊急でやったこと。記念動画に加えると、いつもやってるみたいに見えるから」
「了解。言いがかり犯人撲滅の解説動画に関してはノータッチってことで!」
言いがかり犯人撲滅。ちょっと噴き出しそうになった。相馬のネーミングセンスは、ときどき僕を笑わせてくれる。
「じゃあ、トッキー。これまでのゲーム遍歴の歩みを良い感じに動画化して、まとめておくよ!」
相馬はスマホに冬珈琲のチャンネルページを表示させた。指先でスライドさせながら、投稿済の過去の動画リストを眺めている。
頭の中では、既にどういうゲーム遍歴の歩みなる記念動画にするのか構想が飛び交っているのだろう。
「もちろん。盤さんの緊急配信に僕が出たアーカイブも取り上げないでね?」
「それはいいけど、何で取り上げちゃいけないんだ?」
「いやだって、それこそ便乗してるからだよ。チート行為って言いがかりを付けてきた人は謎のまま。僕が解説動画を出した直後に告発者はアカウント削除。そして僕は1万人達成の記念動画が作られようとしている。炎上に便乗して再生数と登録数を稼ごうとするヤバイ配信者にしか見えないじゃん!」
「俺としては、そこにぐっと切り替えてやった方が良いと思うけどな?」
「ちょっと相馬!」
相馬は笑い声を上げた。
「トッキー。配信者なら今や炎上も付き物だからさ、俺はもっと図太くやっても良いと思うけどねぇ」
僕は、冷めた目で相馬を見た。そして静かに大事なことを教えてあげた。
「僕、そういうスタイルでやる配信は目指してないから」
「はいはい。わかったよ。盤さんとの絡みが、ある意味一番インパクトがデカいけど、流石にやめておくよ。この先で、ちゃんとコラボしたときの編集のお楽しみにしておく!」
相馬は、自身の右腕に目を落とした。
「やば。コンビニのバイトに行かなくちゃ。さっき店長から連絡入って、おばちゃんが感染で高熱出したから休みでさ。めんどくせぇけど緊急のシフトなんだ」
「うわぁ大変だね。相馬も感染には気を付けてね」
椅子から立ち上がった相馬は鞄を肩に掛けたとき、ハッとした表情を浮かべた。
「あ、そうだ! トッキーに一つ聞いておかなきゃいけないことがあったんだ!」
「僕に?」
相馬は首を何度か上下に振った。
「そうそう。ねまき猫っていうVキャラの女から問い合わせが来てて、トッキー約束したんだろ?」
言われて、僕もハッとした。すっかり忘れていた!
「そうだ。彼女の実況を解説動画に使わせてもらう条件で、コラボに付き合うって約束してたんだった!」
「ちょっとバタバタしてたもんな。いつにするかって連絡がメールに来ててさ。謹慎1ヶ月だよな?」
異世界かくれんぼを実況していた、ねまき猫という名のVキャラの女性に、日程が分かったら返信すると言ったまま、僕は連絡をしていなかったのだ。そりゃあ、お問い合わせも逆に来るわけだ。
「ごめん。相馬。君にも迷惑掛けて」
「いや。いいよ。俺、暇だし。一応状況を説明しておくから。コラボも謹慎明けのゴールデンウィーク頃になるって伝えておくけど、それでいいか?」
「それで良いよ。コラボ内容も、ねまき猫さんのやりたいゲームで良いよってことも伝えておいて」
「了解。事務所にもさ、コラボすること一応伝えておくよ。じゃあ、トッキー。俺はバイトあるから。お前は講師を頑張れよ!」
ウインクをかまして、相馬は手を振って駆け出していった。
午後に授業はない。今日はもう荷物を部屋に置いたら、事務所に向かうだけ。
「僕も行かなくちゃ。どんな顔で会えば良いんだろ…やっぱ笑顔で再会とかいう感じじゃない…よね…」
どういうわけだか講師を彼にすることになったけれど、今この緊張する状況を僕はなんとかしたい。
僕の理想的な現実が起きてるとは呼べないだろう。
だって、彼に会ったら最初、口にする言葉は決まってる。
謝罪だ。今回一連の件で、迷惑を掛けてしまったから。
そう考えると夏河社長は、挽回するチャンスを与えてくれたのかもしれない。
はぁ。緊張するな。何年ぶりだっけ。
迷いながらも僕は、一歩を踏み出した。
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