上 下
42 / 204
なんとかしたい

#39:なんでこうなった? 2 - side 時生

しおりを挟む


「なぁ。トッキー。複雑なのは、気持ち分らんくもない。だけど一応はさ、もうストリーマー部門に正式加入したんだ。そろそろ『ストリーマー部門になったよ! これからも応援よろしく! ありがとう!』って呟いておけよ。1万人に到達した記念と抱き合わせでさ。な?」

 恐らく記念の切り抜き動画を相馬は作りたいのだろう。僕が個人活動の自粛をしている今、相馬は過去の配信データくらいしか触れないのだから暇で仕方がないのだ。

「分ったよ。あとで呟いておくよ。あ、でも。チート行為の解説動画に関することは記念動画に含めないでほしいんだ。あれは緊急でやったこと。記念動画に加えると、いつもやってるみたいに見えるから」

「了解。言いがかり犯人撲滅の解説動画に関してはノータッチってことで!」

 言いがかり犯人撲滅。ちょっと噴き出しそうになった。相馬のネーミングセンスは、ときどき僕を笑わせてくれる。

「じゃあ、トッキー。これまでのゲーム遍歴の歩みを良い感じに動画化して、まとめておくよ!」

 相馬はスマホに冬珈琲のチャンネルページを表示させた。指先でスライドさせながら、投稿済の過去の動画リストを眺めている。

 頭の中では、既にどういうゲーム遍歴の歩みなる記念動画にするのか構想が飛び交っているのだろう。

「もちろん。盤さんの緊急配信に僕が出たアーカイブも取り上げないでね?」

「それはいいけど、何で取り上げちゃいけないんだ?」

「いやだって、それこそ便乗してるからだよ。チート行為って言いがかりを付けてきた人は謎のまま。僕が解説動画を出した直後に告発者はアカウント削除。そして僕は1万人達成の記念動画が作られようとしている。炎上に便乗して再生数と登録数を稼ごうとするヤバイ配信者にしか見えないじゃん!」

「俺としては、そこにぐっと切り替えてやった方が良いと思うけどな?」

「ちょっと相馬!」

 相馬は笑い声を上げた。

「トッキー。配信者なら今や炎上も付き物だからさ、俺はもっと図太くやっても良いと思うけどねぇ」

 僕は、冷めた目で相馬を見た。そして静かに大事なことを教えてあげた。

「僕、そういうスタイルでやる配信は目指してないから」

「はいはい。わかったよ。盤さんとの絡みが、ある意味一番インパクトがデカいけど、流石にやめておくよ。この先で、ちゃんとコラボしたときの編集のお楽しみにしておく!」

 相馬は、自身の右腕に目を落とした。

「やば。コンビニのバイトに行かなくちゃ。さっき店長から連絡入って、おばちゃんが感染で高熱出したから休みでさ。めんどくせぇけど緊急のシフトなんだ」

「うわぁ大変だね。相馬も感染には気を付けてね」

 椅子から立ち上がった相馬は鞄を肩に掛けたとき、ハッとした表情を浮かべた。

「あ、そうだ! トッキーに一つ聞いておかなきゃいけないことがあったんだ!」

「僕に?」

 相馬は首を何度か上下に振った。

「そうそう。ねまき猫っていうVキャラの女から問い合わせが来てて、トッキー約束したんだろ?」

 言われて、僕もハッとした。すっかり忘れていた!

「そうだ。彼女の実況を解説動画に使わせてもらう条件で、コラボに付き合うって約束してたんだった!」

「ちょっとバタバタしてたもんな。いつにするかって連絡がメールに来ててさ。謹慎1ヶ月だよな?」

 異世界かくれんぼを実況していた、ねまき猫という名のVキャラの女性に、日程が分かったら返信すると言ったまま、僕は連絡をしていなかったのだ。そりゃあ、お問い合わせも逆に来るわけだ。

「ごめん。相馬。君にも迷惑掛けて」

「いや。いいよ。俺、暇だし。一応状況を説明しておくから。コラボも謹慎明けのゴールデンウィーク頃になるって伝えておくけど、それでいいか?」

「それで良いよ。コラボ内容も、ねまき猫さんのやりたいゲームで良いよってことも伝えておいて」

「了解。事務所にもさ、コラボすること一応伝えておくよ。じゃあ、トッキー。俺はバイトあるから。お前は講師を頑張れよ!」

 ウインクをかまして、相馬は手を振って駆け出していった。

 午後に授業はない。今日はもう荷物を部屋に置いたら、事務所に向かうだけ。

「僕も行かなくちゃ。どんな顔で会えば良いんだろ…やっぱ笑顔で再会とかいう感じじゃない…よね…」

 どういうわけだか講師を彼にすることになったけれど、今この緊張する状況を僕はなんとかしたい。

 僕の理想的な現実が起きてるとは呼べないだろう。

 だって、彼に会ったら最初、口にする言葉は決まってる。

 謝罪だ。今回一連の件で、迷惑を掛けてしまったから。

 そう考えると夏河社長は、挽回するチャンスを与えてくれたのかもしれない。


 はぁ。緊張するな。何年ぶりだっけ。

 迷いながらも僕は、一歩を踏み出した。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

処理中です...