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なんとかしたい
#32:冬くんの自己ベストにビビる俺 - side 誉史
しおりを挟む「はぁ? ちょっと待ってください。番組の存続の方向って。そんな重要なことサラっと言うなよ!」
『え?』
「えっじゃなくて。存続できなかったかもしれなかったわけですよね?」
『ええ。まぁ』
「収録した放送が延期になるとかいう話し合いじゃなかったんですか?」
『ああ、まぁ。そうですね。一応最悪な事態になった場合に備えての緊急会議でもあったんですよ。もし本当にチートの不正行為をしていたなら視聴者の中には幼稚園や小学生の子、その親まで見てるわけですから、ちょっとメイン司会をする立場の方が見本になってもらわないと困るなっていう話でもありましたから』
おいおい。それを俺抜きで話し合われていたのかよ。というか弁明する機会すら与えてもらえないのだろうか。
『言っておきますけど。結構最近は厳しいんですよ。見ている人に楽しんで貰うために敢えて不正行為をして有利なゲームを進めようとする配信者がいますでしょ?』
「そりゃあ、まぁ」
『時々ゲーム配信界隈で問題になってることありますからね。仲間と試合中、仲間の居場所を知るために、相手の配信を別のパソコンモニターに映し覗き見してプレイする立ち回り。確かに面白いですけど、そういうゴースティング行為も活動休止になることありますからね』
配信界隈の炎上を鉢野は気にしているようだ。確かに仲間内でワザとゴースティングをしたり、ルールにはない有利なプレイをする者は一定数いる。迷惑な話ではあるが、面白がってルールを破りプレイした結果、SNS上でリスナーから指摘されて炎上するケースはここ最近よく聞くケースでもある。
俺もそんな不正行為をする一人と見られたら、鉢野からしてみれば担当者として責任問題を取られかねないのかもしれない。
「今更だけど、俺はチート行為やってないからな!」
『ええ。先ほど、ざっと見ましたよ。解説も出てたけど、確かにアレは濡れ衣でしたね。あ、私は盤さんのこと信じてましたけどね?』
俺に電話を掛けてきたときは、これから緊急会議だとかで慌てていたのに。
信じていたなら、俺に事実確認を先にきちんと確認してから動くべきではないだろうか。
「ところで、さっき大会があるって話だけど。炎上に遭ったばかりの俺に、もう大会の話が来てるのは一体どういうことです?」
『いやいや。今回の炎上は、炎上といっても結局いちゃもん付けてきた嫌がらせじゃないすか。つまり盤さんは被害者。別に大会の話を振っても、上は問題視してません』
番組存続の危機が話し合われていた裏で、大会の話も同時に行われていたのだろう。もし問題となっていれば、恐らく俺は招聘されるわけがないのだ。
「俺に参加者の候補を委ねるのかよ…それって俺のチーム分けするときのメンバーも融通してもらえるってこと?」
『そうっすね。三人で一チームという予定なんで、一人はいつものあの人で決まりじゃないですか。だから先に承諾貰いましたよ! 来週放送されることも一報入れておきましたんで!』
れこ盤ゲスト常連の群錠のことだろう。なかなか他のゲストを決める日程が合わないときに、断らない男、群錠に話が行くから、いつの間にか常連になってしまっただけなのだが。
「あいつ既に来週放送されること知ってたのか」
『けどもう一人、どうするかは未定なので、盤さんが組みたい相手でOKなので、どなたかいませんか?』
急に言われても知り合いの配信者は、かなりいる。しかし群錠のように、いつでも、どんなゲームでも掛かって来いというマルチタイプのプレイヤーは意外と少ない。
「ごめん。あんま良く聞いてなかったんだけど、何のゲームだっけ?」
『あ。やさいゲームですよ!』
懐かしいゲームだ。結構昔にリリースされて確か3カ月で300万ダウンロードを達成した伝説を打ち立てたゲームだ。やさい同士をくっ付けて得点を狙うパズルゲームなのだが、大人から子供まで夢中になってしまう中毒性がある。
「え。やさいゲーム?」
ちょっとまて。ついさっきだ。やさいゲームで前人未踏の高得点を叩き出してスカウトを受けたって話、俺聞いたよな?
頭の中で群錠と話していた記憶を辿った。前人未踏の記録。もしそれほど凄い記録なら――。
「鉢野。大会を開くんだったら、らふTV側で、ある程度リストは作ってあるんじゃないか?」
普通、企画を立てるなら参加者のリスト位は作る筈だ。でも先に打診して断られるケースも多いから、知り合いの伝手で出演してもらうこともある。
『ありますよ!』
電話の向こう側でガサガサと音がした。資料を捲って、鉢野は作成された参加者候補リストに目を通しているのだろう。
「一つ敢えて聞くけど、ぶっちゃけ本当は断られた配信者を呼びたいんじゃないか?」
噴き出すような笑い声が聞こえた。
『いやぁ、お恥ずかしながら、本音を言えば実現できると良いんですが、まぁまぁまぁ、なんとか盤さんのお力添えあると有難いなぁって』
すり寄るように猫撫で声を急に出してきた。やっぱり、そういうことなのだ。俺の人脈にあやかろうとする魂胆らしい。
「えー。俺が呼んでも来るかどうかは分からないよ?」
『そこをなんとかお願いしますよ! 一応メールでリスト送りますね。でもリストになくても、他の候補者でも募集中ですので。ではご検討のほどよろしくお願いします!』
明るい声が切れた。直ぐメールをチェックすると、鉢野からもう届いていた。というか件名や本文に文字もなく添付ファイルだけが添えられていた。
「あいつ何も書かずに添付ファイルだけ送ってきやがった。普通ならコレ開かないからな!」
ウイルス付きの添付ファイルを送る迷惑メールが昔は流行った。最近は見かけなくなったが、代わりに偽の配達や請求書メールを装うケースも多い。巧妙に仕掛けられていて、個人情報を抜き取る悪質なやり取りを誘うのだ。
詐欺業者でさえクオリティの高いメールを寄越してくるのに、鉢野には一般常識がどこか欠けている。俺にはある程度の社会人経験がある。だからこそ鉢野の行動が若干目に付いてしまうのだが、気にしすぎだろうか。
今年で30になるらしいが、落ち着きは皆無だ。
「まったく、しょうがない奴だな」
俺は添付ファイルを開いて、リストに目を通した。断られた配信者には赤字でバツが付いていたが、彼、にはなかった。
《冬珈琲チャンネル - 冬珈琲》
つまりコンタクトは、まだ取られていないようだった。更に目についたのは、それだけではない。ご丁寧に過去の最高得点も記載されていた。
「15580点!? マジかよ冬くん!」
俺の過去最高得点、自己ベスト5000点より遥かに高い。飛んでもない腕だったのだ。
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