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なんとかしたい

#31:アンチリスナーとの決定的な違い - side 誉史

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「群錠。さっきの配信見てたよな?」

『見てたよ』

「俺さ。ちゃんと冬くんに聞いたぞ」

『聞いた聞いた。リスナーだったとは驚きだなぁ?』

 呑気のんきな声を上げて、明るく話す群錠は明らかに棒読みで、ワザとらしい驚いたような声を出した。

「解説動画が出回ったあとで告発動画もろともアカウントが削除されて、それが冬くんじゃないかって、お前、怪しんでたよな? 『夏河社長に許諾を入れて動画作成を進めたのか冬くんに聞いてみてほしい』って言ってたから聞いたんだ。まずなんで、こんな質問が必要だったのか説明してもらおうじゃないか」

 回りくどい言い方になったが、友人は詫び入れる様子もなかった。

『ああ、俺、そんなようなことも言ったね~。それとなく、ついでに聞くような感じで聞いてくれて、いやぁ~流石、配信歴13年ともなると喋りが自然で勉強になったわ』

「誤魔化すなよ群錠。そうじゃないだろ。冬くんのこと怪しんでいただろ!』

 言葉を強めて訊ねた。この質問は、そもそも群錠が言い出したことだからだ。告発アカウントは一投目の〈これはチート行為だ!〉という最初の呟きが投稿された以降、結局何も呟かないまま、解説動画が投稿されたあとでアカウントごと削除に至ったのだ。その一連の流れを、目立つためだけに行われたものなのではと群錠は指摘した。

 解説動画と告発アカウントを見た感じでは、同一人物による者だなんて、俺にはそう思えなかったが――群錠はあまり信じていないようだった。暫く間があった。名を呼びかけたとき、VCを通して溜め息が聞こえた。

『俺の予想はさ。夏河社長に、許可を貰ってると思ってた』

「は?」

『盤さんが配信してる間に、ちょっと調べたんだ。昔らふTVのリアルイベントで、やさいゲームのコーナーがあって、そのとき前人未踏の高得点を叩き出したらしい。それが夏河社長に見込まれてキングスにスカウトを受けて所属。けど最近プロゲーマーの打診を断ってた。理由まではわからないけど来月からストリーマー部門に正式加入となる。SNSから吸い上げた情報からは、他にも2年で登録者数が8千人。類似する配信者は他にも沢山いるわけで、次なる1万人を達成すれば一つの大台。それなりの配信者と絡んでおけば登録数は伸びると思う。だからこそ目立つために、実行した。もちろん今後の配信生活が困らないように夏河社長に許諾を貰い、解説動画をアップ。そういう計画だと、俺は思ってた、というか途中までは、そう確信してたんだ』

「確信? おい群錠。冬くんはリスナーだったんだぞ!」

『それなんだよな。ターゲットのことを知るためにリスナーに装ってたんじゃないかって、俺は思ったんだ。でもただのリスナーじゃなかった。あいつは、いや冬くんは王冠マーク所持の初期勢のリスナーだったんだ。王冠を取得するには9年前の初回配信、つまり2012年に盤さんが初めてライブで開始した生配信に参加してなきゃ取れないんだ。配信生活は2年前から。嫌がらせの計画を当時から立ててるとは思えない。しかも古参の中の古参、初期リスナーなら逆に配信始めたら盤さんに報告すりゃいい。これまで盤さんのリスナーだった子たちが配信者になったケースは過去にも複数事例がある。コラボで登録数は伸びてた。でも冬くんはしてない。あいつは、配信者になったことを何故、盤さんに言わなかったんだ?』

 俺にリスナーだと明かさなかったことが、そんなに大事なことなのだろうか。

 最初の挨拶で――ふ、冬。冬で良いです。――と、緊張で口が回らなそうな彼のおどおどした態度は、どこか自信なさそうに見えて助けてあげたくなったくらいだ。

 それに〈いつか盤さんとゲームができたら良いな〉とコメントをしていた。確かに配信者だと言ってくれりゃ何だってゲームに付き合うのに!

「冬くんは『僕の行動もまた普通にキモすぎるレベル』って言ってただろ。自分のことを、そんな風に物凄く気にしてる。繊細なんだよ!」

『繊細ねぇ。まぁ確かに、言葉に詰まって上手く言い出せなくて、コメント欄に打ってた言葉が、そもそも本当に正しいならね』

「それ疑うのかよ。マジかよ。俺は嘘を言ってるようには聞こえなかったし、むしろ彼は準備生だったんだ。配信歴をもっと重ねてからリスナーですって、いつかは言ってくれるかもしれなかったわけじゃん。もう今更の話だけど。じゃ何か? いつまでも俺とゲームできなさそうだから嫌がらせでもしておくかって感じでやったと言いたいのか?」

『やけくそで嫌がらせなんてしたら事務所を去ることになるからな。そんなリスクまで犯すとは思えないさ。ま。ともかく告発してきた嫌がらせ犯からは遠そう、とは思う。ただ初期勢のリスナーがアンチになるケースだってあるだろ? 用心するに越したことはないさ』

 はぁ。なんてことだ。

 これで犯人でないなら、俺は初期から見てくれている古参リスナーもとい純粋なファンを生配信で実質つるし上げたということになる。ただ純粋に助けてくれただけなのかもしれないのに、疑うような公開質問をやってしまったのだ。

 もう胸の中で小さな罪悪感が、ムクムク育ち始めている。

「群錠。俺、電話しなきゃ。夏河さんに一報入れて、冬くん責めないように一言入れてくる。つうか俺は信じたい。リスナーがアンチとか、もうどうでもいい」

『あっそ。まぁいいけど。大台の100万まで、あと少しだからな。麗しい嫁との偽装結婚問題もあるけど、せいぜいバレないようにしろよ?』

「お前が言わなきゃな。漏らすなよ?」

『漏らさねーよ!』

 ハハハ、と乾いた笑い声が聞こえたが、俺はVCルームを抜けた。

 机上のスマホに手を掛けて、電話帳から夏河腎の名前を引き出した、瞬間だった。

「え、電話かよ…はい。もしもし?」

 れこ盤のプロデューサー鉢野からだ。

『お疲れさまです。今日一日大変でしたね。会議の結果ですけど番組は無事に存続の方向となりました。それで別件があり、折り入って相談です。来月やさいゲームの大会が実施されます。参加者の半分は決定済み。でも残りの配信者は決まってなくて。候補を決めたいのですが誰か良い人いませんか?』

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