33 / 204
なんとかしたい
#30: 王冠マークの価値 - side 誉史
しおりを挟む「ごめん。ちょっと機材の調子おかしいので配信はここで切り上げます。予告なく突然の配信だったのに見てくれた人たちありがとう。ではまた」
少し強引だったが配信を切り上げた。本当はVCから抜けてしまった冬珈琲チャンネルの中の人――冬くん――を引き留めたかったのだが、青い猫のアイコンは色彩を失い白黒に変更されていた。
既に、通話が切断されていてオフラインだったのだ。
これでは話しかけることはできない。ならばと思い彼宛にメッセージを打とうとして手が止まった。
「え。何て打てばいいんだ?」
彼は、俺のリスナーだったのだ。告発動画を直ぐに出せたのは、配信中の当時を覚えていてくれたからだ。
Vキャラの女の子とたまたまマッチしていたからこそ、比較動画をすぐさま出せた。告発動画が過去どの配信のものなのか、突き止めるのに物凄く時間が掛かるのに。
だからこそ御礼を述べるべきなのだ。
「待てよ。そういうことじゃないだろ」
荒れたコメント欄に、彼も気づいた筈だ。明らかに俺のリスナーではない彼のリスナーたちが書き込みをしていて、俺のリスナーと喧嘩をしているコメントもあったのだから。しかも荒れるコメントを整理してくれるリスナーたちも困惑していた。俺が対話を一時中断して、リスナーたちに一度呼びかけていれば良かったのかもしれない。
「まずいな。しかも謝っていたしな」
ライブ配信を閉じたアーカイブを再度、再生させた。
先ほど彼が打っていたアカウントを見た。
― ★[M]FuyuCoffee:
《M》マークは、ライブ配信を初めて行った際、最初のサブスクライブ10名のみに与えられる初期リスナーを差すマークだ。形が王様の被る王冠に似ていることからキングのアイコンとも揶揄される。
自分の記憶も、それほど確かではないが初回放送だけで取得が埋まったことは覚えている。確実に第1回目の放送に参加していないと絶対に取れないマークなのだ。
以後コメントを打つたびに《M》マークが表示されるため初期リスナーであることを主張できるからリスナー界隈では、古参を名乗れる最大のマウントであるとも言われている。
「待てよ。初回放送って何年前だっけ。結構前だよな…冬くんは2年前に開始ってチャンネルに書いてあったから…いや、ユーザー名は途中で変えたんだろうけど…」
らふTVでの生放送で配信できるコンテンツが、ローンチになったタイミングで俺はライブ配信を始めた。当時は、本名による個人情報などでアカウントを登録するユーザーもいたのだが、親に内緒で作り有料放送やサブスク購入をしていた若いユーザーが問題となって、あとから名前を変更できたり取り消し騒ぎがあったのだ。
今の世の中、本名でアカウントを取得するユーザーはほぼいないと言っても過言ではない。おそらく彼もチャンネル作成前に冬珈琲へ名前を変えたのだろう。
「冬…冬…本名の一部か? …いや分からないな。けど当時から見てくれているなら、アンチリスナーじゃないだろ」
VCのチャットでメッセージを送ろうとしたが、良い言葉が思いつかず頭をガシガシと搔きまわした。
ピロン♪
メッセージの受信音だ。
スマホとPCのVCアプリを通して、通知が同時に届いたのだ。
「群錠か」
PC上でメッセージを開いた。
―〈いつものとこ来れるか?〉
いつも――というのは、友人と落ち合うVCルームのことを差す。ちょうど冬珈琲のアイコンがグレーに落ちたVCルームの画面から、友人とよく待ち合わせるVCルームへ画面の表示を切り替えた。
PCモニターの画面内に白くて丸い錠剤のアイコンが表示された。マウスを机上で滑らせて、自分のVCの消音を外した。
『よう。おつかれー』
先に群錠から声を掛けられた。気の抜けた緊張感のない声だった。
40
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる