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なんとかしたい
#30: 王冠マークの価値 - side 誉史
しおりを挟む「ごめん。ちょっと機材の調子おかしいので配信はここで切り上げます。予告なく突然の配信だったのに見てくれた人たちありがとう。ではまた」
少し強引だったが配信を切り上げた。本当はVCから抜けてしまった冬珈琲チャンネルの中の人――冬くん――を引き留めたかったのだが、青い猫のアイコンは色彩を失い白黒に変更されていた。
既に、通話が切断されていてオフラインだったのだ。
これでは話しかけることはできない。ならばと思い彼宛にメッセージを打とうとして手が止まった。
「え。何て打てばいいんだ?」
彼は、俺のリスナーだったのだ。告発動画を直ぐに出せたのは、配信中の当時を覚えていてくれたからだ。
Vキャラの女の子とたまたまマッチしていたからこそ、比較動画をすぐさま出せた。告発動画が過去どの配信のものなのか、突き止めるのに物凄く時間が掛かるのに。
だからこそ御礼を述べるべきなのだ。
「待てよ。そういうことじゃないだろ」
荒れたコメント欄に、彼も気づいた筈だ。明らかに俺のリスナーではない彼のリスナーたちが書き込みをしていて、俺のリスナーと喧嘩をしているコメントもあったのだから。しかも荒れるコメントを整理してくれるリスナーたちも困惑していた。俺が対話を一時中断して、リスナーたちに一度呼びかけていれば良かったのかもしれない。
「まずいな。しかも謝っていたしな」
ライブ配信を閉じたアーカイブを再度、再生させた。
先ほど彼が打っていたアカウントを見た。
― ★[M]FuyuCoffee:
《M》マークは、ライブ配信を初めて行った際、最初のサブスクライブ10名のみに与えられる初期リスナーを差すマークだ。形が王様の被る王冠に似ていることからキングのアイコンとも揶揄される。
自分の記憶も、それほど確かではないが初回放送だけで取得が埋まったことは覚えている。確実に第1回目の放送に参加していないと絶対に取れないマークなのだ。
以後コメントを打つたびに《M》マークが表示されるため初期リスナーであることを主張できるからリスナー界隈では、古参を名乗れる最大のマウントであるとも言われている。
「待てよ。初回放送って何年前だっけ。結構前だよな…冬くんは2年前に開始ってチャンネルに書いてあったから…いや、ユーザー名は途中で変えたんだろうけど…」
らふTVでの生放送で配信できるコンテンツが、ローンチになったタイミングで俺はライブ配信を始めた。当時は、本名による個人情報などでアカウントを登録するユーザーもいたのだが、親に内緒で作り有料放送やサブスク購入をしていた若いユーザーが問題となって、あとから名前を変更できたり取り消し騒ぎがあったのだ。
今の世の中、本名でアカウントを取得するユーザーはほぼいないと言っても過言ではない。おそらく彼もチャンネル作成前に冬珈琲へ名前を変えたのだろう。
「冬…冬…本名の一部か? …いや分からないな。けど当時から見てくれているなら、アンチリスナーじゃないだろ」
VCのチャットでメッセージを送ろうとしたが、良い言葉が思いつかず頭をガシガシと搔きまわした。
ピロン♪
メッセージの受信音だ。
スマホとPCのVCアプリを通して、通知が同時に届いたのだ。
「群錠か」
PC上でメッセージを開いた。
―〈いつものとこ来れるか?〉
いつも――というのは、友人と落ち合うVCルームのことを差す。ちょうど冬珈琲のアイコンがグレーに落ちたVCルームの画面から、友人とよく待ち合わせるVCルームへ画面の表示を切り替えた。
PCモニターの画面内に白くて丸い錠剤のアイコンが表示された。マウスを机上で滑らせて、自分のVCの消音を外した。
『よう。おつかれー』
先に群錠から声を掛けられた。気の抜けた緊張感のない声だった。
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