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最高に最低なコラボ
#28:彼のコメント欄に震える僕 2 - side 時生
しおりを挟む『そっか。それは良かった。でも一つ気掛かりなことがあるんだけど』
「気掛かり、ですか?」
『うん。今回の件って昼間に告発動画が投稿されたんだけど、俺が配信を終えて朝方に就寝したあとで告発の投稿があったんだよね。それで起きたら夕方で、もう凄い騒ぎになってたんだ。でもその頃くらいに君の解説動画が上がった。この手の流れって、どこまで人が関わってるかも含めて知りたいんだけど、一応は確認しておきたくてね。君が動画をアップしたことは所属してる夏河さんにも既に投稿の許諾というか許可も出してたってことで良いのかな?』
えっ、しまった!
僕はハッとして、致命的なことを思い出した。キングスに所属する準備生なのだから、投稿動画は事務所に報告義務があるのだ。いつもは相馬が全部やってくれるから、ここ数か月は自分でやっていなかった!
大手の配信者のことを取り上げたのだから、尚更、一報を入れるなり事務所に話しを通しておかなくてはいけないのに!
「…あ…やば…出して、ないです…」
絞り出すように、声を出したが――自分でも思うが――情けない声しかでなかった。
『あー、そっか。やっぱり。そうだよね。うん。わかった。じゃあ夏河さんには俺から言っておくから。大丈夫。安心してね。その、心配してくれて、咄嗟に緊急で出したんだよね?』
「すみません。社長に何も言わずにやってしまいました。本当にすみません!」
なんてことだ。穴があったら入りたい!
〈草〉〈事務的な話かw〉〈そういうことね〉〈事務手続きちゃんと踏まなきゃならんのか〉〈準備生辞めるって話だし別にいらないんじゃね?〉〈ww〉〈お前来月からストリーマー部門に入るんだろ?むしろ目立っておきたかったのが目下目的だったんでわ?〉〈めんどくせー手続きいるのかw〉〈でも夏河が許可しないパターンもあり得たかもしれんわな〉
『俺が聞きたかったことは以上かな。直接聞けてスッキリしたよ。今回のことは、むしろ君のことも巻き込んでしまって申し訳なかったね』
「飛んでもないです! 僕の方がご迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ないです!」
〈むしろ盤さん利用されたのでわ?〉〈つーかストリーマー部門の門出に盤さん踏み台にしたっていう印象の悪さだけが目立ってるけどwww〉〈救世主じゃなくて嫌がらせの投稿主ではないっていう根拠を教えてほしい〉〈盤さん災難やな〉〈その子の行動ちとキナ臭いのだが〉〈冬君偉いよ〉〈冬くんは純粋に助けようとしただけだから何もわかってないやつはすっこんでろよ〉〈真面目な冬くんが他者の配信を貶めるわけないだろ馬鹿か〉〈うわぁ何か民度悪いコメ多くね?〉
やばいやばい。コメント欄が明らかに荒れだしている。ちらっと一瞬覗いてみれば、どうやら僕のリスナー達が彼の配信に多数コメントを書き込んでいるようだった。きっと彼も口の悪いコメントを目にしているだろう。応援コメントではなくリスナー達同士が喧嘩をし始めているコメントが多発しているのだから。
喧嘩をやめてくれ! と、言いいたいところだが、今は自分の配信ではなく彼の配信である。勝手に彼のリスナー達にも呼びかけることもしてはならないだろう。配信の掟のようなものなんて実際にはない。けれど自分の配信でもない別の場所で勝手な振る舞いは、自分自身も配信を荒らす行動に取られかねないのだ。
でもなんとかして、止めなければ!
「あ、あのう!」
思わず僕は大きな声を出した。
〈うっさ〉〈うるさ〉〈うっっっっさ!〉〈冬君?〉〈!?〉〈うわ〉〈え、なに?〉〈うるさ〉〈耳キーンなった〉
『冬くん?』
「僕が告発動画を見て盤さんがチートしてないって瞬時に判断できたのは、そもそも見てたからなんです!」
『え。見てた? 見てたって当時の配信を?』
「そうです。僕、リアルタイムで見てたんです。ていうか当時の配信だけじゃなく、準備生だからとか関係なくて、盤さんの配信をよく見てるっていうか」
〈え?〉〈リスナー?〉〈告発のターゲットだから見てたのか?〉〈冬君リスナーなの?〉〈つまり盤リス?〉〈リスナー???〉〈え、マ?〉〈盤リスだから何?〉〈だから狙いやすいとか思ったん?〉
「だから…その、配信を覚えてたから、あの短い告発動画をみたとき、いつの配信だったか直ぐ思い出して」
『あー成る程。そうだったんだ。でも、それなら、れこ盤のお問い合わせに一報くれたら良かったのに。時間は掛かるけど、番組側のスタッフ経由で俺宛に緊急で連絡が入ることもあるから』
それは一番マズい方法である。お問い合わせフォームには必須で個人情報の記入があるのだ。れこ盤をサブスクライブしていることが僕だなんて、絶対に避けなければならない。
一度もコメントを打ったことがなく、しかも彼宛にフルーすら一度もしたことがない。番組の有料アーカイブの動画や、メンバー限定配信を視聴するためだけに有料のサブスクを取得している。知られたって良いじゃないかって何度も思ったけれど、僕はまだ半人前なのだ。
彼と対等な配信者にすら立っていない。そんな奴がお問い合わせからしゃしゃり出てきたら、僕はいずれ大手の配信者に擦り寄ってきた登録数を稼ぎたい新人の配信者なんだと白い目で見られるだろう。
今だって、既にネガティブなコメントを打っている人たちがいる。
僕のことで荒れていくコメント欄を加速させてしまう――見ていて正直、気分の良いものではない。
『冬くん?』
僕は意を決して、彼のコメント欄に文字を打ち込んだ。
これは最初で最後となる初めての書き込みだ。
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