上 下
29 / 204
最高に最低なコラボ

#26:見たことのない数字と早速やらかす僕 - side 時生

しおりを挟む


 僕は思わず咳き込んだ。緊張のあまり、えずいてしまった。一体何から話せば良いのか頭が、ほぼ真っ白だ。

『それじゃあ、ミュートを外してもらえるかな?』

 彼が呼びかけてきた。

 僕の心臓はバクバクである。 

 配信中のコメント欄を見ると、正直、とてつもなく早すぎてよく見れなかった。

 しかも現時点での視聴者数が、8千人を超えていた。僕のチャンネル登録数と同等の人数が視聴しているのだ!

「あっ!」

 思わず声が出た。

『え。どうしたの?』

 僕の急に出した大きな声に、彼も驚いたようで確かめるように、名を呼ばれた。

『大丈夫? 冬珈琲くん?』

「す、すみません。ちょ、ちょ、ちょっとしたアクシデントが!」

『あ、そうなんだ。いいよ。いいよ。急がなくて良いから』

 彼の落ち着いた声で、優しく言われた。僕を待っていてくれるようで、申し訳なさが込み上げた。

 スマホが震えて、別途、相馬からもメッセージが届いた。

 一体どうしたんだと訊ねられたので、配信中のコメント欄を映していたウェブブラウザごと誤って閉じてしまったことを急いで返した。

 あまりのド緊張に、視聴者数を目にした途端、手が震えて握っていたマウスを暴走させてしまったのだ。

 そもそもコメントなんて見てないで配信に出たら良いとは思うけど、僕の不用意な発言で彼のリスナーを苛々させてしまうのを避けたいからだ。コメント欄を映しながら配信に参加して、様子をみながら発言するのは配信者として最低限の礼儀でもある。

 僕のモニター画面に、再度流れるコメント欄をウェブブラウザに再度映してから、VCで彼に呼びかけた。

「ごめんなさい! 戻りました! もう大丈夫です!」

 僕は若干、涙声だ。

 普段こんなことは滅多めったに、やらかさないのに!

『あ、ほんと? 良かった。良かった。それじゃあ改めて、初めまして』

 そのときになって、ようやく僕は気づいた。

 仕切り直した彼の発言の中に、僕は―――初めまして―――の存在になるのだ。

 そりゃそう。彼にとってしてみれば、僕とは初対面になるのだ。

『冬珈琲さん。急にお呼び立てして申し訳ないです。えっと、まずは自己紹介してもらえますか?』

「あ…初めまして! ふ、冬。冬で良いです!」

『冬くん?』

「はい! あ、あの。冬珈琲は、チャンネル名にしてまして、いや昔は冬珈琲って名前で呼ばれてたんですけど、今はただの冬っていうか。僕のリスナーさんたちは皆、冬くんで呼ぶんですけど。あ、それと僕は盤さんより、と、年下なのでタメ口で全然大丈夫です!」

 全然大丈夫ではない。僕の頭の中は既にオーバーヒートしている。

 名前の訂正なんて、どうでも良いことだし、折角先にリードしてくれたのにダメ出しから指摘してしまうなんて!

 ああ、もう全然頭が回らないよ!

 相手は90万人。大して僕は8千人。チャンネル登録数がケタ違いなのだから、粗相そそうのないように発言しないといけないのに。

 何で早口でまくし立てるように言ってしまったのだろうか。下手をしたら今度は僕が炎上する番かもしれない。解説動画を出して、あの嫌がらせアカウントが消えたのだから、考えてみればタイミングが良すぎるだろう。

 もしかしたら彼は、そのことが気掛かりで僕を呼んだのだろうか。

 嫌がらせ投稿をしたのは、君なのかって問い詰めるため―――?

『ああ、そうなんだ。じゃあよろしくね。冬くん。どうしても一度、話してみたかったんだ。裏で話すこともできたけど、ちょうどライブやってたから、声かけたら出てもらえるかなと思ったんだ』

 視聴者数が跳ねあがった。数字が一気に、一万人を超えた。

 見たことのない数字だ。僕の配信なんて、いつも数百人くらいだから、あり得ない人の数が今、ライブを見ているのだ!

『大丈夫? もしかして緊張してる?』

 彼から、また心配する声が届いた。

 僕からの応答が途切れたからだろう。

「あ、あの、はい。ちょっと。えっと、僕に話って何でしょうか?」

 会話がぎこちなさすぎて、溜め息が出そうだ。

 もう既に滑らかに話せる気がしない。

 高速で流れるコメントには、ぱっと見ただけでも数え切れないほどの言葉が溢れていた。

〈解説のひと大丈夫なんか?w〉〈緊張してんのかww〉〈冬くんていうのか〉〈解説みたよー〉〈その人ね〉〈おもろw〉〈解説みたよ〉〈声若いな〉〈解説ありがとう〉〈大丈夫かそいつ?w〉〈今日神回やんwww〉〈声震えてて草〉〈わっけぇ声だなw〉

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...