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最高に最低なコラボ
#26:見たことのない数字と早速やらかす僕 - side 時生
しおりを挟む僕は思わず咳き込んだ。緊張のあまり、えずいてしまった。一体何から話せば良いのか頭が、ほぼ真っ白だ。
『それじゃあ、ミュートを外してもらえるかな?』
彼が呼びかけてきた。
僕の心臓はバクバクである。
配信中のコメント欄を見ると、正直、とてつもなく早すぎてよく見れなかった。
しかも現時点での視聴者数が、8千人を超えていた。僕のチャンネル登録数と同等の人数が視聴しているのだ!
「あっ!」
思わず声が出た。
『え。どうしたの?』
僕の急に出した大きな声に、彼も驚いたようで確かめるように、名を呼ばれた。
『大丈夫? 冬珈琲くん?』
「す、すみません。ちょ、ちょ、ちょっとしたアクシデントが!」
『あ、そうなんだ。いいよ。いいよ。急がなくて良いから』
彼の落ち着いた声で、優しく言われた。僕を待っていてくれるようで、申し訳なさが込み上げた。
スマホが震えて、別途、相馬からもメッセージが届いた。
一体どうしたんだと訊ねられたので、配信中のコメント欄を映していたウェブブラウザごと誤って閉じてしまったことを急いで返した。
あまりのド緊張に、視聴者数を目にした途端、手が震えて握っていたマウスを暴走させてしまったのだ。
そもそもコメントなんて見てないで配信に出たら良いとは思うけど、僕の不用意な発言で彼のリスナーを苛々させてしまうのを避けたいからだ。コメント欄を映しながら配信に参加して、様子をみながら発言するのは配信者として最低限の礼儀でもある。
僕のモニター画面に、再度流れるコメント欄をウェブブラウザに再度映してから、VCで彼に呼びかけた。
「ごめんなさい! 戻りました! もう大丈夫です!」
僕は若干、涙声だ。
普段こんなことは滅多に、やらかさないのに!
『あ、ほんと? 良かった。良かった。それじゃあ改めて、初めまして』
そのときになって、ようやく僕は気づいた。
仕切り直した彼の発言の中に、僕は―――初めまして―――の存在になるのだ。
そりゃそう。彼にとってしてみれば、僕とは初対面になるのだ。
『冬珈琲さん。急にお呼び立てして申し訳ないです。えっと、まずは自己紹介してもらえますか?』
「あ…初めまして! ふ、冬。冬で良いです!」
『冬くん?』
「はい! あ、あの。冬珈琲は、チャンネル名にしてまして、いや昔は冬珈琲って名前で呼ばれてたんですけど、今はただの冬っていうか。僕のリスナーさんたちは皆、冬くんで呼ぶんですけど。あ、それと僕は盤さんより、と、年下なのでタメ口で全然大丈夫です!」
全然大丈夫ではない。僕の頭の中は既にオーバーヒートしている。
名前の訂正なんて、どうでも良いことだし、折角先にリードしてくれたのにダメ出しから指摘してしまうなんて!
ああ、もう全然頭が回らないよ!
相手は90万人。大して僕は8千人。チャンネル登録数がケタ違いなのだから、粗相のないように発言しないといけないのに。
何で早口で捲し立てるように言ってしまったのだろうか。下手をしたら今度は僕が炎上する番かもしれない。解説動画を出して、あの嫌がらせアカウントが消えたのだから、考えてみればタイミングが良すぎるだろう。
もしかしたら彼は、そのことが気掛かりで僕を呼んだのだろうか。
嫌がらせ投稿をしたのは、君なのかって問い詰めるため―――?
『ああ、そうなんだ。じゃあよろしくね。冬くん。どうしても一度、話してみたかったんだ。裏で話すこともできたけど、ちょうどライブやってたから、声かけたら出てもらえるかなと思ったんだ』
視聴者数が跳ねあがった。数字が一気に、一万人を超えた。
見たことのない数字だ。僕の配信なんて、いつも数百人くらいだから、あり得ない人の数が今、ライブを見ているのだ!
『大丈夫? もしかして緊張してる?』
彼から、また心配する声が届いた。
僕からの応答が途切れたからだろう。
「あ、あの、はい。ちょっと。えっと、僕に話って何でしょうか?」
会話がぎこちなさすぎて、溜め息が出そうだ。
もう既に滑らかに話せる気がしない。
高速で流れるコメントには、ぱっと見ただけでも数え切れないほどの言葉が溢れていた。
〈解説のひと大丈夫なんか?w〉〈緊張してんのかww〉〈冬くんていうのか〉〈解説みたよー〉〈その人ね〉〈おもろw〉〈解説みたよ〉〈声若いな〉〈解説ありがとう〉〈大丈夫かそいつ?w〉〈今日神回やんwww〉〈声震えてて草〉〈わっけぇ声だなw〉
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