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不正行為
#19: どうか許していただけないでしょうか - side 誉史
しおりを挟む『盤さん。俺、マジでガッカリしたわ。今なら言いがかりつけてきた投稿者を応援したくなったわ。どうぞ、どうぞ燃料投下して盤さんの息の根を止めてくれ。俺もう対策とか考えられねーわ…なんでよりにもよって盤さんに』
まだブツブツと恨み言のように群錠は呟いていた。余程ショックだったようだ。
申し訳ない気持ちが急激にせり上がる。大学時代からの大切な付き合いは壊れるかもしれない。いや、既に崩れ始めているのかもしれない。だが、俺が彼女のプロポーズを受け入れた話は、正確に言えば、まだ終わりではない。
「もう一つ理由があるんだ」
『理由?』
「彼女が結婚を急いでいた理由」
『急いでた…? それが何か関係あんのか?』
「俺と彼女が出会ったのは大学四年の秋だ。10月。それから年明けの2月に式を挙げた。付き合いから半年も経ってない。早いと思っただろ?」
『そりゃ、めちゃくちゃ早ぇなとは思ったよ。でも交際0日婚とかも少なからずあるしな』
「実際には、交際0日婚になるところだった」
『え?』
「だけど、それは余りにも早すぎるし、交際0日婚だと余計に嘘臭く見えるから、何かのイベントに乗じて式を挙げることになったんだ。クリスマスの時期も考えたけど、逆に式場が空いてなくてさ。で、2月も土日はもうダメだったけど俺の誕生日がたまたま空いてて、その日になった」
群錠から『はぁ』という反応が来たが、いまいち容量を掴めていないのだろう。
「彼女が結婚を急いでいたのは、既婚した事実が欲しかったんだ。大学の在学中に事務所への登録が全然できなくて焦ってたんだよ。でも既婚すれば登録させてもらえる事務所があったんだ」
『え?』
「それに役を個人で得るっていうのは簡単なことじゃないんだって。でも事務所に入れば役を得るのは、個人で取るよりも遥かに対応は違うんだってさ」
『ちょ、ちょっと待て!』
「え?」
『いやだから。英華さんは芸能事務所に登録をしたくて結婚を急いでたっていうのか?』
「だから、そう言ってんだろ。具体的にいうと、新人の女優さんが個人でオーディションを受けて役を得るのは殆ど絶望的らしい。もし撮影日に急病とか事故とかで出られない場合、事務所に所属していれば同じ事務所所属の俳優やタレントが代わりに出ることになる。だけど個人では代役が利かないから、オーディションでは個人からの応募は落とすのは普通なんだって」
『だからって何で盤さんに』
「そう思うよな。でも写真を持ってるのがバレたとき、彼女笑ってたんだよ」
『笑ってた?』
「俺が、彼女に興味ないって強く断ったんだけど、急に笑い出して、むしろそれで良いって言われた」
『想像すると怖いんだけど?』
「だよな。だけど真面目な話、興味がないなら、あなたは、それをずっと貫けば良いって。どいつも、こいつも寝ないと登録させないとか役は与えないってふざけてると思わない? って言い出して」
『それ…枕営業の強要? マジで存在すんの?』
「する。水を飲むように、普通に存在するんだって。芸能界は上下関係が厳しくて、誰かと今日も寝ないと役を貰えないばかりか、先にも進めないっていう話もあるんだって。ただ既婚したからって登録できても直ぐ役を得られたわけじゃない。選ばれる新人は未婚のアイドルとか女優やってる子ばかりに台詞付きの役を与えられて、彼女は20代半ばくらいまで台詞のない端役ばかりしかもらえなかったんだ」
『へぇ。じゃあ尚更、月9で当たって良かったじゃないか!』
「それも手放しで喜べることじゃないけどな」
『え?』
群錠の少し高めに戸惑う声だった。
「事務所の人に言われたんだ。ホテルで缶詰めの脚本家がいるから挨拶して来いって。絶対寝ないって決めてるからさ。彼女はホテルで待ってる脚本家の男に怒鳴って帰ろうとしたんだって。そうしたら自分の超尊敬してる脚本家だったらしくて、あまりにもショックで絶望的になって号泣したんだ。それで脚本家がめちゃくちゃ困惑して、しゃーなし一言の台詞だけを付けた端役を与えたんだって。それが一躍当たった月9ドラマです」
『うっわぁ…マジか』
「当時からドラマの考察班っていたから、ドラマの展開上で端役の女性が余りにも美しすぎるのは絶対何かあるだろって言われてたし、台本も話数を重ねていく内に書き換えられたんだって」
『なるほどね。それで最終的に長台詞が用意されて月9史上歴代最高視聴率だったのか。だけど。じゃあ軌道に乗るまでは盤さんが必要なのは分かるよ。いや、分かりたくもないけど。その…10年じゃん。もう盤さんいらなくないか?』
急に現実的な問題を友人が指摘した。指摘とはいえ、なかなかキツい言葉だ。
「まぁ。いらないとは思うよ。実際。俺の役目は十分、果たしたと思う。でも今は感染が蔓延してるから芸能界って安定してないし。感染で亡くなった俳優もいたしな。とはいえ、予定が狂いやすくても、具体的には話を詰めてないけどさ、海外行ってるのは仕事を貰えるように色々調整してるんだ。それでいずれは海外に永住となれば正直、俺はいらないと思うよ」
『なるほどね。だけど英華さんが他の人と付き合ったりすることもあるよな?』
「あると思うよ。彼女が本気で好きになった人と一緒になりたいって言うんだったら、まぁいつでも別れるよねって話は結婚前からしてる」
『そういうことか』
「そういうこと…あの…群錠。そろそろ…どうか許していただけないでしょうか?」
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