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不正行為

#15:何の前触れもなく 3 - side 誉史

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 俺が変な声を上げたから、通話を通して群錠が心配する声を掛けてきた。

『なに。なにかまた投稿された?』

「いやそうじゃない。鉢野からメッセージが飛んできたんだ。多分いま会議中に送ってくれているんだと思う」

『鉢野さん…あ、番組のプロデューサーか。で、なんて?』

「ひとまず投稿内容に関して調査すること、世間を騒がして申し訳ない、みたいな謝罪を述べる声明を出す話で進んでるらしい。その進捗連絡だった」

 らふTVの看板番組のMCが告発動画一つで炎上仕掛けている事態だから、企業側として放置はできないと会議で対応策が練られているのだ。

『なるほどね。無下むげに相手の投稿を否定するんじゃなくて、盤さんなのかどうか調べるってことを前提に時間稼ぎをするのか。うーん、悪くはないとは思うけど、そうなると結局、この動画に映るキャラを操作してるのは盤さんだっていう証明動画の追加投稿を相手は早めるだろうな。時間稼ぎにしても出方が遅いと、逆に不正行為がバレて対応策に追われているとか、そう受け取られかねない見方もできるから…結構やばいかもな』

 なんてことだ。

 状況は時間と共に悪くなる一方のような気がした。

 このままいけば俺に批判が殺到して、ありもしない不正行為を認める謝罪動画を出さざるを得ない状況になってしまうのだろうか。

 更に活動休止へと追い込まれて、らふTVの冠番組れこ盤がなくなる事態になるのではないか。

 そんな、よくない考えが頭を支配し始めて、どんどん体が冷たくなるのを感じた。

『ていうか本当に盤さんを狙ったものか怪しいところでもあるけどな』

 呟くように群錠が指摘した。どういう意味だろうか。

「狙ったって、告発動画は俺に言いがかりを付けてるんだぞ?」

『そうだけど。もし盤さんが活動休止になったら何が起こると思う?』

 何を言ってるんだ。意味が分からない。俺が活動できなくなったら、もう何もない。相手の掌の上で転がされて、思うつぼ。もう配信以外で、仕事を探さなくてはいけないのだ。

「そりゃ求職活動するしかないけど?」

『いや、そうじゃなくてさ。らふTVでの盤さんのチャンネル登録数は九十万。でも百万を超えてる大手の配信者もゴロゴロいる。なのにまだ百万に満たない配信者の活動を止めるような嫌がらせっていうのは、少し変だと思わないか?』

「変っていっても。ていうか俺、妬まれることも多いから、さっさと家庭崩壊して離婚しろっていうことも含まれてるんじゃないか?」

『そうかもしれないけど。うーん、これは俺の推測の域を出ない考えではあるけど、そこそこ著名なダンナが活動休止に追い込まれたら、そのネタって多分ネットニュースになるよな? となれば英華さんはダンナの元に駆けつけようとする。そういうときに空港で犯人が待ち伏せてたりするんじゃないかって思うんだよ。なぁ今、海外にいるなら連絡なり帰国なりするんじゃないか?』

 群錠の指摘は的を得ているかもしれない。だが明確に、そうにはならないと―――俺には確信して言える。

「いや、それは絶対ない」

『は? 何で? 普通ダンナに何かあったら心配するもんじゃねぇ?』

 俺の返答が不思議で仕方がないのだろう。

 群錠の言いたいことは分かる。だが、大事なことを彼は知らないのだ。俺と英華との間で交わした――契約――があることを、群錠にはまだ話していないのだから。

「なぁ群錠。いや火口くん」

『えっ。は? ちょ! 今なんて言った? なんで急に本名言うんだよ!』

 急に焦りだした群錠は、慌てた様子で声を上げた。普段、彼の苗字で呼ぶなんてことはないのだ。大学で初めて会った直後からゲームを一緒に遊ぶ仲でもあり、俺がふざけてハンドルネームで呼び合うことになったのだ。以来普段から群錠と呼んでいる。

「ごめんな。先に謝っておく。火口くんのこと信じてるから、この際言うけど。俺、英華とは愛のない結婚なんだ。ただ書類上、契約結婚してるにすぎない。ついでに言うと肉体関係は一度もない」

 かなりの間があった。

 なんの言葉も返ってこないから、音声が途切れたのだろうかと思った。

「聞こえてるか群錠?」と彼の名をもう一度、呼んでみた。

『ふぁあああああああああああああああああ?』

 裏返ったような群錠の奇声が聞こえた。

『………………………すぅ―はぁ―…切るわ。わりい。俺の理解が追い付かない………一旦ちょっと切るわ』

 通話が切れた。

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